第六百八十一話 最も神に近い者
仕事で疲れ過ぎていて、昨日の更新を忘れていました。申し訳ありません。
『……………………』
宿敵である俺達を目の前にしても特に反応を見せずに、周囲に視線を這わせるシャルア。だが、隙だらけとは言えない。シャルアの周囲には、バスケットボールより少し大きい程度のデフォルメされた氷の鯨が泳いでいるからだ。
シャルア本人もそうだが、その鯨から放たれる威圧感も凄まじい。俺はてっきり、鯨の魔王を弱らせてシャルアに吸収させれば弱体化すると思っていたが、これでは強化されている気さえする。
『…………嫌な場所。美しくない。私に相応しくない』
そのシャルアの声は、今までのものと違ってトゲトゲしさがまるで無かった。
それどころか、少女のような純粋さまで感じるような言葉だ。言っている事はよく解らないが。
「…………? …………これって、なんか聞いた事があるような?」
毒気の無いシャルアを見て、メテオラが首を傾げた。って言うか、本当にシャルアか、これ?
『ハヤト!!』
「ん? ラルファ?」
俺達が目の前のシャルアの様子に首を傾げていると、ラルファが血相を変えて飛んで来た。ラルファのこんなに慌てた様子は珍しい。
「どうしたラルファ?」
『これは『天界輪廻』です! それはもう、シャルア様でも魔王でもありません!! 早く倒しなさい!!』
「『天界輪廻』!?」
ラルファの言葉にメテオラも声を荒げたが、俺には意味が解らない。そして自分の事を言われているのであろうシャルアは、未だにポーーッとしたまま、周囲に気を取られている。まるで、俺達の事など眼中にないようだ。
「なんだよその、『天界輪廻』ってのは?」
『…………説明します。ですがメテオラ、何があっても防げるように準備を!』
「はい! 『我が元に参陣せよ!!』」
メテオラは『傲慢の剣』を高く突き上げて黄金の扉を呼び出し、武装した天使の一団を召喚した。
ラルファの慌てようと、メテオラが天使を呼んだと言う事は、どうやら本当にマズイ事態なのだろう。
「いいですかハヤト、良く聞きなさい!」
――――『天界輪廻』。それは最上位にまで登り詰めた天使が、もう一段位階を上げる事によって、その存在自体が別の存在へと進化する現象。
その進化先は様々だが、しかし確実に天使よりは上位の存在となる。
例えば『亜神』、例えば『獣神』、例えば『邪神』。それらは『神』と名がつく神の偽物。決して神にはなっていないが、神には最も近しい存在。
人で例えるなら、『最も神に近い人』と言う存在。神との間には大きくて決して埋まらない溝があるが、それら神擬きが神として崇められている世界も確かにある。そんな存在。
『そしてハヤト。あのシャルアが、いったいどんな存在になったのかはわかりませんが、『天界輪廻』によって生まれ変わった者には、ひとつ共通点があります』
「ほう。それは?」
『新たに誕生した世界を『自分の物』と認識し、最も自分に適した世界へと造り変えてしまうのです。それも『星』ごと。私はそれで、美しくしい植物の星が『ただの火の塊』と化した物や、鳥人の支配する星が『雷雲の星』と化したのを見た事があります!』
なんだよその迷惑な存在は。…………ん? まてよ? って事はそれでいくと今回は『凍りついた星』になるのか?
『…………凍らせないと。全部、全部凍らせよう。手伝ってね? クーちゃん達…………』
『クォーーッ!』
『クルルルッ!』
『クォックォッ!』
新生シャルアの言葉に、三頭の氷の鯨が嬉しそうに鳴いた。って言うか、やっぱり凍らせるつもりかよ!!
「待てシャルア! この世界にどれだけ多くの人々が暮らしているのか、解っていってるのか!!」
『…………誰? 知らないよそんなの。人ってナニ? 邪魔しないで』
シャルアがそう言った瞬間、三頭の鯨がこちらに向けて口を大きく開き、そこから猛烈な吹雪が俺達に向けて放たれた!
「二人とも下がれ!!」
俺は二人をグラシャラボラスとなっている俺の陰に隠し、全身から前方に向けて炎を出して吹雪を相殺しようと試みる。
しかし、六本の角の内三本を折られているグラシャラボラスの炎では相殺しきれずに、グラシャラボラスの残る角や前足、体毛が少しずつ凍っていく。更には残る角にもヒビが入った。
このままではグラシャラボラスの必殺技が押し負けると感じた俺は、それならばと必殺技の全エネルギーを炎に変えて放出した。
体毛から翼に至るまで炎と化したグラシャラボラスは、凍りついた自身の体を熱で溶かし、その大きな口から大量の炎を吹き出した!
『『『ククォーーーーッ!!??』』』
その炎は吹雪を押し返し、小型鯨達にもダメージを与えた。しかしパワーダウンしたグラシャラボラスの必殺技では一頭も倒せず、グラシャラボラスの必殺技の効果が切れた俺は、普通の『グラシャラボラス・フォーム』へと戻ってしまっていた。
「…………クソッ! 一体も倒せなかった! ラルファ! 下に戻って結界を張っておけ!」
『わかりました!』
下へと降りていくラルファには目もくれず、シャルアは俺達を見ていた。
『…………邪魔だなぁ、君達。私の家から、出ていってくれる? じゃなきゃ、凍りついて…………!』
その瞬間にシャルアから放出される冷気は、その周囲の大気をダイヤモンドダストに変えていった。




