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三話 目覚める力


2/10 返信セリフをソウルバーストから

ソウルトランスに変更しました。

炎が舐めるように辺り一面の家屋を攫ってゆく。


じわりとその熱に当てられていると、緊張からくるものなのか、暑さからくるものなのかも分からない汗が頬を伝っていった。





「くっ!思ったより強いな…」



バスターソードで片方の魔人の斬撃を受け止めたおっさんは苦い顔をしながらも逆の方向から切り掛かってくる魔人を蹴り飛ばして距離をとった。


再び迫る二体の魔人。


一体は下から切り上げるように迫り、もう一体は突きを放つ。


それをとっさの判断で突きをバスターソードで受け止め、切り上げを蹴りで軌道をずらしながら突きを放った魔人を回し蹴りで距離を取らす。


そして剣を蹴られた魔人に向かってバスターソードを回転切りして切りつけるがうまく翼で空を飛ばれて逃げられる。


そんな攻防に焦れたのか、そこでさらにもう二体の魔人がおっさんに斬りかかろうと腰を僅かに下げるのが見えた。



「こりゃ、ちとヤバイかもしれないな…」



おっさんは目に見えるほどに肩で息をしている。


限界は刻一刻と迫っていた。





俺は気がついた。


見慣れた赤いブレスレットが手首に巻かれていたのを。



「これは…」



赤いベルトに銀色の金属に縁取りされたクリスタルが嵌め込まれたブレスレット。


クリスタルの中には幾何学的な文字と独特の紋章が刻まれていた。


それはスーパーの上でやっているショーに出てくるヒーロー。


情熱戦隊ソウルレンジャーにでてくるヒーローが皆つけているソウルクリスタルと呼ばれるものだ。

それは魂と特殊な石を契約することで生まれる結晶である。


もちろんそれは設定。


現実にそんなものが存在するわけはない。


なぜそんなに詳しいかと言われれば役作りのために世界観やら主人公のソウルレッド、ツカサの性格から全てをテレビを全部見て学んだからだ。


でも今、周りに存在するものはどれもセットなのかと見間違うほどに良くできた木造の家屋に見たこともない大きな両手剣を使うムキムキのおっさん。

そして人殺しの魔人と自称する五人組だ。


おっさんがさっきの男のように殺されてしまえば、俺はどうせそのあと殺される。


だが、後一歩、足がうまく動かない…



怖いのだ。この後に及んで足が竦むのだ。



もうあの時みたいに期待されるのも嫌だ。

そして失望されるのが怖い。

小さいコミュニティで、持て囃されてふんぞり返っていた自分は、俳優のオーディションで落ちた。


怖い。


あの時の男だってそうだ。

無理なんだよ。


もう俺に期待しないでくれ。

何かを求めないでくれ。


俺に才能はない。

何もない。


どうしろってんだ。

みっともなくすがってる俺は誰にも誇れるような生き方をしてない。

もうあれから地元にも何年も帰ってない。

みんなに合わせる顔もない。


親にも俳優やってるなんて嘘をつくのも嫌だった。

自分が惨めだった。



俺は虚ろな瞳で、淡く光るブレスレットにはめ込まれたソウルクリスタルを見つめた。

悲痛な声が響いた。



「ぐあっ…」



四体同時の斬りかかりにはさすがに捌けなかったのか、大きな両手剣を持ったムキムキのおっさんの胸からは血に濡れた銀色の剣先が飛び出していた。



「あんちゃん…にげ…」




言い切る前に、おっさんは抜かれた剣に魂を抜かれたかのようにどさりと倒れこんだ。


その瞳は虚ろで、どこも見ていなかった。



「手こずらせやがって。よし、後逃げ遅れたやつはあいつだけだ、さっさと片付けて戻らないとな」






「あ…あぁ…」



まただ。


また…あぁ…


なんでこうなるんだろう。






「アァァァァァァアァァァァァァア!!!!!!」





俺は、泣いていた。



自分の力のなさ。優柔不断さ。

そして胸が苦しくなるほどにやるせない気持ち。

重なってしまった。最初に殺されてしまった人の瞳と、名前も知らないおっさんの虚ろな瞳が。



何かが切れた。




「がぁぁっ!滾れ魂ィ!!! ソウル トランスッ!!!!!」




そこからはヤケクソだった。


とてもヒーローなんて言えたもんじゃなかった。


赤いオーラが家を吹き飛ばし、身体を覆うように纏わりつく。


そしてお約束のセリフなどもなしに、

俺は赤いオーラが弾けた瞬間、正義の鎧を身に纏い、


何も考えずに敵に突っ込んだ。


憎いとかじゃなかった。



罪悪感、そして行き場のない感情が俺を突き動かしていた。

なぜ変身できたとか、

そんな事は今はどうでもよかった。



まず目にとまった、おっさんを刺した魔人の頭を掴み、地面に思い切り叩きつけた。



「ゴガ!?なひほふブヘッ!!」



地面に叩きつけた後に両手で首を持ち捻る。

ゴキリと音がして力なく身体を投げ出す体。


まず一体。



「なっ!ゴルザ!チッ!」



そこから先はあまりよく覚えていない。





「き…貴様は…な」




最初に男を刺した魔人の言葉は、

言い終わる前に途絶えた。


振り返れば、すでに息絶えていた。



気がつけば、空は曇っていた。



ポツ、ポツ



血も涙を洗い流してしまうかのように、

起こったことすらも全てなかったことにしてしまうかのように、雨が降り出した。


ジリジリと照らされていた日差しの名残なのか、ジメジメとした空気に服がじっとりと汗ばむ。


地面の土が雨によってドロドロとぬかるみだしてくる。

血は雨水でゆっくりと広がり、地面は赤く染まる。






ガタッ…




音のした方を振り向くと、そこには小柄な女の子がいた。

まだ十歳くらいだろう。



頬を擦りむいて、膝からは血を出し、泣きそうな顔をしていた。



「お父さん…」



女の子の目線の先には、最初に魔人に刺されていたお男の死体があった。


女の子はしばらくそのお父さんの死体を見た後、俺の方を見た。



「…ま゛…魔人をやっづげでぐれで…ぁ……あ゛りがどぉ」



雨でびしょびしょになり、鼻水をたらし嗚咽にまみれながらもそう言ったのだ。



俺は赤いヘルメット型の中で、苦虫を噛み潰した。



「俺は、何もしてない…何もできなかった…ッ」





憧れてたヒーローはもっと違った。

かっこよくて、正義感に満ち溢れてて、賢くて、強くて、どんな時も優しくて、


恐怖を恐れないで立ち向かう強い心を持ってる…




戦いの後には、喪失感だけが残った。












雨水と血でぐちゃぐちゃになった地面はユウジの心を表しているようだった。









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