一週間経ったが、、、(奈緒視点)
あの事件で、私の世界は塗り替えられた。
佐藤蓮くん。私を絶望から救い出してくれた、私のたった一人のヒーロー。
この一週間、私の頭の中は一分一秒、すべて彼のことで満たされている。
(私、蓮くんのことが好き。いや、、、愛してる……)
この胸の奥でドクドクと脈打つ熱い感情が「恋」なのだと、私ははっきりと自覚していた。彼のことを考えている時間が、今の私の人生で一番幸せで、何よりも楽しい時間なのだ。
だから、彼ともっと一緒にいたくて、私は毎日の登下校で彼を待つことにした。
朝は彼が通る少し前の時間から校門の前で待ち、放課後も彼が教室を出るタイミングを見計らってそっと後ろに並ぶ。
ストーカーみたい、と思われるかもしれない。でも、彼が私の姿を見つけて「あ、白百合さん」と少し驚いたように、でも優しく名前を呼んでくれる。それだけで、私の心は幸福感で満たされるのだ。
休憩時間のたびに彼のクラスへ通うのも、今の私にとっては欠かせない日課だった。
ただ、彼のそばにいたい。彼が私以外の女の子と話していないか、何か困ったことに巻き込まれていないか、この目で確かめて安心したかった。
そんなある日、私は彼がいつもお昼休みに、購買の味気ない焼きそばパンやメロンパンばかりを食べていることに気づいてしまった。
(菓子パンは体によくないって聞くし、蓮くんの健康が損なわれてしまったらどうしよう……!)
強い不安に駆られた私は、すぐに手作りのお弁当にチャレンジすることを決意した。
今まで料理なんてまともにしたことがなかったけれど、本や動画を必死に調べて、栄養バランスを徹底的に計算した。蓮くんが「美味しい」と言ってくれるところを想像するだけで、料理の手は少しも止まらなかった。指に小さな火傷を作ってしまったけれど、そんなの、小さな勲章のようなものだ。
そして、初めて作ったお弁当をに対して「すごく美味しかった」と言ってもらえて、私は胸を躍らせながら彼と並んで下校していた。
翌日、蓮くんがどこか申し訳なさそうに、私にこう切り出してきた。
「あのさ、白百合さん。昨日お弁当作ってきてくれたよね。すごく美味しかったし嬉しいんだけど、白百合さんの時間がなくなっちゃうだろ? 何か他に、新しく熱中できる趣味とか探してみたらどうかな。読書とか、映画鑑賞とか」
私を気遣ってくれる、その優しさが堪らなく愛おしい。
でも、蓮くんは分かっていない。私にとって、彼に関わること以外に熱中できるものなんて、この世界にはもう存在しないのだ。
私はパッと顔を輝かせて、蓮くんを見上げた。
「趣味、ですか? ありますよ! 毎晩、蓮くんのお弁当のレシピを考えたり、蓮くんが今日何をしたのかを日記に書き留めるのが、今の私の趣味です!」
「……そうか」
蓮くんは少し困ったように、思わずといった様子で頭を抱えてしまった。
私の何がいけなかったのだろう。彼を想う気持ちは、いつだって純粋なのに。
すると、蓮くんは気を取り直したように、さらに私へ優しく語りかけてきた。
「じゃあさ、趣味がダメなら、友達を作ってみるのはどう? 白百合さん優しいし、クラスの女子だって本当はもっと仲良くなりたいと思ってるはずだよ。放課後に友達とカフェに行ったり、遊びに行ったりしたら、きっと楽しいと思うんだ」
友達。他のみんな。
それを聞いた瞬間、私の心に冷たい風が吹き抜けた。
蓮くんは、私を自分から遠ざけようとしているのだろうか。私以外の誰かに、私の目を向けさせようとしているのだろうか。
……嫌だ。そんなの、絶対に嫌。
(私には、蓮くんがいればそれだけでいい。他の誰も、私の世界には必要ない。)
私は自分の気持ちを確かめるように、彼のブレザーの袖を指先できゅっと掴んだ。
そして、夕暮れに染まる黒髪を揺らしながら、彼の横顔をじっと見つめて告げる。
「お友達ですか……? 必要ありません。私にとっては、蓮くんと一緒にいることが、他の何よりも大切ですから。蓮くん以外に時間を費やすなんて、もったいないです」
一点の曇りもない、私の本心。
蓮くんは少し複雑そうな顔をして黙り込んでしまった。




