一週間経ったが、、、
あの事件から一週間が経った。
僕は自席で、この一週間で激変してしまった自分の日常を静かに振り返っていた。
(……正直、ほんの少しだけめんどくさい)
それが、偽りのない僕の本音だった。
あの日以来、白百合さんは休憩時間のたびに、まるで磁石に引き寄せられるかのように僕のクラスにやってくる。それだけではない。朝の登校時も、放課後の下校時も、彼女は門の前で僕をじっと待っている。さらには「蓮くんの健康のために」と、栄養バランスが完璧に計算された手作りの豪華なお弁当まで時々持参してくるようになったのだ。
クラスメイトからの嫉妬と羨望の視線は日に日に強まり、僕の愛する「地味で平穏な日々」は音を立てて崩れ去っていた。
もちろん、彼女が僕に強い好意を抱いていることには気づいている。でも、それは決して健全な恋愛感情なんかではない。あの事件が起こった際に僕がたまたま彼女を助けたから精神的に不安定な彼女の依存先が、一時的に僕になってしまっているだけだ。
(このままじゃ彼女のためにも良くない。なんとか、僕以外の何かに目を向けてもらわないと……)
僕はそう考え、彼女に他へ集中できることを見つけてもらうためのアプローチを試みることにした。
ちょうど、その日の放課後。いつものように一緒に下校している最中、僕は歩きながらそれとなく切り出してみた。
「あのさ、白百合さん。昨日、お弁当作ってきてくれたよね。すごく美味しかったし嬉しいんだけど、白百合さんの時間がなくなっちゃうだろ? 何か他に、新しく熱中できる趣味とか探してみたらどうかな。読書とか、映画鑑賞とか」
僕がそう提案すると、並んで歩いていた白百合さんは、パッと顔を輝かせて僕を見上げた。
「趣味、ですか? ありますよ! 毎晩、蓮くんのお弁当のレシピを考えたり、蓮くんが今日何をしたのかを日記に書き留めるのが、今の私の趣味です!」
「……そうか」
僕関連の趣味に、思わず頭を抱えた。
これはいけない。僕は気を取り直して、もう一つのアプローチを試みる。
「じゃあさ、趣味がダメなら、友達を作ってみるのはどう? 白百合さん優しいし、クラスの女子だって本当はもっと仲良くなりたいと思ってるはずだよ。放課後に友達とカフェに行ったり、遊びに行ったりしたら、きっと楽しいと思うんだ」
今度こそ、僕から少し距離を置くきっかけになれば——そう願って、僕は彼女の目を見た。
しかし、白百合さんは少しだけ困ったように眉を下げると、僕のブレザーの袖を指先できゅっと掴んだ。そして、黒髪を揺らしながら、僕をじっと見つめてくる。その瞳の奥には、一週間前よりもさらに深く、底の知れない熱が宿っていた。
「お友達ですか……? 必要ありません。私にとっては、蓮くんと一緒にいることが、他の何よりも大切ですから。蓮くん以外に時間を費やすなんて、もったいないです」
「……」
一点の曇りもない、あまりにも真っ直ぐな思い。
彼女を普通に戻すのは、僕が思っている以上に至難の業のようだった。彼女が元気に登校してくれているのは嬉しいけれど、これからのことを思うと少しだけ憂鬱になる。




