進路
桜の花びらが舞う4月。
僕たちは3年生へと進級した。
そして、掲示板に張り出されているクラス表の2組の欄に、僕と奈緒の名前があった。
同じクラスになれたのは、僕だって素直に嬉しい。嬉しいのだけれど……。
「はぁ……」
放課後。いつもの通学路を奈緒と並んで歩きながら、僕は思わずため息を吐き出した。
「どうしたんですか、蓮くん? 浮かない顔をして」
隣を歩く奈緒が、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。3年生になっても相変わらず学校一の美少女である彼女は可愛いけど、今日の僕の疲労の原因はまさにその「学校一の美少女」にあった。
「いや……今日さ、新しく同じクラスになった男子達に囲まれてさ、質問攻めにあったんだよ。『本当にお前ら付き合ってるの!?』とか、『白百合さんと毎日何話してんの!?』とか……」
僕の机に押し寄せ、僕に質問攻めする姿を思い出し、ぐったりと肩を落とした。
「へぇ、そんなことが。でも私たちが付き合っているのは事実ですし、見せつけてあげればよかったですね」
「いや、余計に拗れるからやめてくれ……」
奈緒がクスりと笑う。
そんな他愛のないやり取りをしながら歩いていると、ふと、頭をよぎるものがあった。3年生。ここから先は、嫌でも『進路』という現実と向き合わなければならない時期だ。
「……なぁ、奈緒」
「はい、何ですか?」
「奈緒ってさ、卒業したらどこの大学に行くか決めてる?」
ふと、気になっていたことを聞いてみた。
奈緒は成績も優秀だから、きっと選びたい放題なはずだ。
その問いに奈緒は一ミリの迷いも見せずに即答した。
「蓮くんと同じ大学に行きます」
「……ちょい待ち」
僕は思わず足を止め、自分の耳を疑った。
「奈緒、今なんて言った?」
「ですから、蓮くんと同じ大学に行きます。」
大真面目な顔で、まるで明日の予定を決めるかのような軽さで恐ろしいことを言う。僕は慌てて彼女の両肩を掴んだ。
「待て待て待て! 奈緒、頭良いだろ!? 定期テストや模試だっていつもトップクラスじゃないか。俺の成績に合わせたら、奈緒の行く大学のレベルが下がることになるんだぞ」
「それが何か問題でもありますか?」
奈緒は不思議そうに首を傾げた。
「大問題だろ……っ! 将来がかかってるんだぞ」
「私は、大学の在学中は資格の取得に専念するつもりです。資格さえ取ってしまえば、就職に困ることはありません。……それよりも」
そこで奈緒は、少し潤んだ瞳で僕を真っ直ぐに見つめてきた。
「それよりも、私は蓮くんと離れ離れになる方が、絶対に嫌です。そんなの耐えられません……」
「っ……」
僕は頭を抱えた。
もう一度説得しようと言葉を探す。
けれど、奈緒の強い目線を見る限り、僕が何を言っても彼女が首を縦に振ることはないだろうと確信してしまった。
奈緒に無理矢理レベルを下げさせるなんて、絶対にダメだ。
だったら——。
「……はぁ。分かったよ」
僕は大きくため息を吐き、呆れ半分、だけど覚悟を決めて顔を上げた。
奈緒がレベルを下げないなら、僕が死に物狂いで勉強して、大学のレベルを上げれば良いだけの話だ。
「奈緒。奈緒の学力なら、普通はどこら辺の大学を目指すのがちょうど良いんだ?」
「え? ええと……それなら、りんご大学あたりでしょうか。」
奈緒が口にした大学は難関私立で、僕の今の成績からすれば、厳しい。
だけど、これから頑張れば、届かない範囲じゃない。
僕は奈緒の手を、いつもより少し強く握りしめた。
「……よし。僕もそこに行く」
「えっ……?」
驚いて目を丸くする奈緒の目を、僕は真っ直ぐに見つめ返す。
「僕もその大学に受験するから。……だから、一緒に行こう」
「蓮くん……っ。一緒に頑張りましょうね!」
僕の言葉を聞いた瞬間、奈緒の顔がパッと輝いた。
その顔を見れるのだったら、なんだって頑張れる気がした。




