呼び方
「うーーーん」
奈緒の誕生日の一週間前。僕は自室のベッドに寝転がり、スマホの画面を見ながら頭を抱えていた。
「……何が良いんだ、全然わからん……」
いつも奈緒には美味しいお弁当を作ってもらっているし、何より僕にとって大切な恋人だ。せっかくの誕生日なのだから絶対に喜ばせたい。
だけど、これまでの人生で同級生の女の子にプレゼントを贈った経験は一度もない。
とりあえずネットで『彼女 誕生日プレゼント 高校生』と検索してみる。
しかし、画面に並ぶのはネックレスなどのアクセサリーや、有名ブランドのコスメばかり。
どれもこれもよくわからない。
画面を見つめたまま完全にフリーズしてしまった。
翌日の放課後、隣の席の浜田さんに声をかけた。
「なぁ、浜田さん。ちょっと聞きたいんだけどさ……」
「ん? 何、蓮。そんな真面目な顔して。」
「その……女子への、誕生日プレゼントって、何がいいと思う?」
そう切り出すと、浜田さんは一瞬きょとんとした後、ニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「へぇ〜! 白百合さんの誕生日なんだ! ごちそうさまでーす!」
「からかうな。真面目に悩んでるんだよ」
「冗談だって。まぁ、人によるから正解は無いけどさ。定番なら可愛い小物とか、ハンドクリームみたいなちょっとした化粧品が手頃でいいんじゃない? 高すぎても相手が気にするしね」
「なるほど……」
浜田さんのアドバイスに納得した。たしかに、そこら辺の物なら僕の財布事情でも無理なく買えるし、日常的に使ってもらえる。
すると、浜田さんはさらにニヤニヤ度を深めながら、僕の顔を覗き込んできた。
「ま、ぶっちゃけ白百合さん、蓮にゾッコンだし、蓮が一生懸命選んだものなら、何もらって喜ぶと思うけどね!」
「そうだと良いんだけどな……。とりあえず助かったよ。ありがとう」
奈緒に贈るべきプレゼントは決まった。
◇
そして迎えた、誕生日当日。
僕の部屋のベッドで、奈緒は僕の隣に座って静かに読書を楽しんでいた。
ページをめくる彼女の横顔を少し見つめてから、僕は意を決して、背中に隠していた紙袋を取り出した。
「……なぁ、奈緒」
「はい? どうしました、蓮くん」
本から顔を上げた奈緒の前に、僕は照れくささを隠しながら、包みを差し出す。
「これ。……誕生日、おめでとう。それといつもありがとう」
「え……っ!?」
奈緒は驚いたように目を見開き、プレゼントを受け取った。
「あ、開けても、いいですか……っ?」
「おう、もちろん」
奈緒は丁寧にラッピングを解いていく。
中から現れたのは、二つのマグカップ。奈緒が好きな猫の絵が描かれた、お揃いのデザインだ。
「これ、お揃い……? 蓮くんと、私の……?」
「あぁ。家で一緒に使うのもいいかなって」
「う、嬉しいですっ! 一生大切にします! 毎日これで蓮くんと一緒に飲み物を飲みます!」
これ以上ないというくらい大喜びする奈緒。
その弾けるような笑顔を見て緊張が解ける。
だが、僕の用意したプレゼントはこれだけではない。
紙袋の奥から、もう一つの小さな包みを取り出した。
「……あと、これ。もう一つあるんだ」
「えっ、まだあるんですか!?」
「これは、その……僕の勝手な想像なんだけどさ。奈緒に絶対に似合うと思って……」
手渡したのは、グレーのベレー帽。
お店でたまたま見かけた瞬間、奈緒がこれを被っている姿が浮かんで、どうしても贈りたくなってしまった。
奈緒はそっと帽子を手に取り、僕を見つめてくる。
「蓮くん、被ってみてもいいですか?」
「あぁ、似合うと思うぞ」
奈緒は部屋の鏡の前へと移動し、少し緊張した様子でベレー帽を頭に乗せた。髪を少し整えてから、振り返る。
「……どう、ですか……?」
(あぁ……これが世間で言う『尊い』っていうやつなのか……)
窓から差し込む夕暮れの光に照らされて、少し照れくさそうに微笑む奈緒。
その姿は、僕の想像の何倍も可愛かった。
「……うん。めちゃくちゃ似合ってる」
「えへへ……ありがとうございます、蓮くん。最高の誕生日です!」
彼女が喜んでいるのがたまらなく嬉しかった。




