彼女の笑顔
——観覧車の順番が来て、僕たちはゴンドラへと乗り込んだ。
ガタリと扉が閉まり、ゆっくりと上昇を始める。外の雑音が遠ざかり、静寂が僕たちを包み込んだ。
窓の外には、夕暮れから夜へと移り変わる街の美しい風景が広がっていく。
「わぁ……凄く綺麗ですね、蓮くん」
白百合さんは窓にピタリと張り付くようにして、目を輝かせた。そして、遠くの街並みの一角を指差す。
「あ、蓮くん見てください! あそこ、この前一緒に放課後デートしたショッピングモールですよ」
「お、本当だ。ここから見えるんだな」
「はい。あの時、蓮くんが私のために、一緒に画材を選んでくれて本当に嬉しかったです。私にとって蓮くんと過ごした日々は全部宝物なんです。今日は誘ってくれて、本当にありがとうございました」
夕日に照らされた白百合さんが、心からの感謝を込めて、僕に笑顔を向けた。
その笑顔を見た瞬間、覚悟が決まった。
(今、言わなきゃダメだ)
心臓の音がうるさいくらいに鼓動を刻む。僕は深く息を吸い込み、彼女の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
「白百合さん」
「はい?」
「俺、白百合さんのことが好きだ」
「え……っ」
白百合さんの身体が、ピクリと強張る。一度口にすれば、もう言葉は止まらなかった。最近気がついた本当の気持ちが口から溢れ出す。
「白百合さんの、一生懸命なところとか、優しいところとか、そういうの全部。……でも、一番は、白百合さんの笑顔が可愛いところが大好きだ」
最初は、少しめんどくさいって思ってた。愛が重すぎるし。だけど、いつの間にか白百合さんの笑顔を見るためなら自然と身体が動いてて、気がつけばいつも一緒にいた。あの時、白百合さんの部屋で告白された時は自分の気持ちがわからなかった。でも、もしかしたらあの頃にはすでに白百合さんのことが好きだったのかもしれない。
◇
(え?)
蓮くんの口から紡がれる言葉が、鼓膜を通じて私の頭の中に流れ込んでくる。
好き。一生懸命なところ。優しいところ。
一番は笑顔が可愛いところ。
(蓮くんが……私を、好き……?)
思考が完全にフリーズする。
何回も妄想したので、夢を観ているのかと勘違いをする。あまりの衝撃に心臓が止まりそうで、呼吸の仕方も忘れてしまう。
だけど、目の前で耳を真っ赤にして、真剣な目で私を見つめている蓮くんの姿が、これが現実だと言っている。
確かめたい。もう一度、彼の声で。
「れ、蓮くん」
「ん?」
「もう一回……もう一回だけ、言ってもらえませんか……っ?」
私の我が儘に、蓮くんは一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐに観念したように優しく言った。
「……あぁ、何度でも言うよ。白百合さん、好きです。俺と、付き合ってください」
再びその言葉を聞いた時、気がつけば蓮くんの胸へと全力で飛び込んだ。
「私も、私も大好きです……! 蓮くんのことが大好き!」
ぎゅっと、彼の身体を強く抱きしめる。蓮くんの匂いがして、心地よい体温が伝わってきて、胸がいっぱいになる。
「これからもずっと、ずっと一緒にいようね!」
私の言葉に、蓮くんは少し照れ臭そうに、私の背中にそっと大きな手を回して、優しく抱きしめ返してくれた。
(この人に出会えてよかった)
私は蓮くんの腕の中に埋まりながら、彼と出会えた幸せを噛み締めていた。
◇
やがて観覧車がゆっくりと地上へと降り立ち、静かに一周を終えた。
ゴンドラの扉が開くと、僕は彼女に自然と手を伸ばしていた。それに気づいた彼女が手を出して、指を絡ませる。
「帰ろうか」
「はい!」
彼女が元気よく返事をして、僕の大好きな笑顔を見せてくれた。




