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遊園地

デート当日。待ち合わせ場所の駅前。

僕は少し緊張しながら、スマホの画面を鏡代わりにして自分の前髪をいじっていた。

今日のために、慣れないワックスを使って髪をセットし、服も手持ちの中で一番清潔感のある、それなりに綺麗めのコーディネートを選んだ。

学校一の美少女である白百合さんの隣に立つにはどうしたって釣り合わないけれど、自分にできる精一杯の努力はしたつもりだ。


(……うん、まあ、それなりに格好よくなれたんじゃないか?)


ほんの少しだけ自画自賛して意識を落ち着かせようとした、その時だった。


「——蓮くん!」


人混みを割って現れた白百合さんの姿を見た瞬間、さっきまで考えていたことが吹き飛んだ。

ハーフアップに結われた綺麗な黒髪。風にふわりと揺れる真っ白なロングスカートに、大人っぽいブラウス。いつもの制服姿とは違って、今日の彼女は息を呑むほど綺麗で、そしてどこか大人の色気を纏っているように見えた。


「よう。大人っぽくて、びっくりした。似合ってるよ…」


「……っ、ありがとうございます。蓮くんも、すっごく格好いいです……!」


お互いに顔を赤くする。

僕たちは少しぎこちない空気になりながら駅に向かった。

休日の朝ということもあって、車内はかなりの混雑を見せている。人と人が密着するような空間の中、僕は白百合さんを周囲の押し合いから守るようにして立った。


「あ……あの、蓮くん。嬉しいんですけど、近いです……」


「ごめん、人多くて……。はぐれないように、しっかり掴まってて」


「はい……っ」


ドアのガラスに僕の身体で壁を作るような体勢になり、至近距離から伝わってくる白百合さんの甘い香りに、僕の心臓は遊園地に着く前から跳ね上がっていた。



20分ほど電車に揺られ、最寄り駅から少し歩くと、目的地の遊園地に到着した。


「蓮くん、私、まずはあのジェットコースターに乗ってみたいです!」


白百合さんが目を輝かせて指差したのは、園内でも一、二を争う絶叫マシンだった。


「本当に大丈夫かな……」と一瞬不安がよぎったけれど、彼女が乗りたがっているなら断る理由はない。「よし、行こう」と頷いて、長い行列の最後尾に並んだ。

並んでいる最中、僕は昔SNSで見かけた、とあるツイートをふと思い出していた。

『初デートで遊園地を選ぶのはナンセンス!なぜなら待ち時間が長すぎて会話が途切れ、気まずい空間になるから!』という内容だ。

それを思い出し、急に「何か面白い話をしなきゃいけないんじゃ……」と焦りが生まれたのだが、それは完全に杞憂に終わった。


「そういえばこの前、星野さんと一緒にパンケーキを食べに行ったんです。その時、お店のゆるキャラがすごく可愛くて、新しくイラストを描いてみたんです!」


白百合さんは本当に楽しそうに、最近描いた絵のことや、星野さんと遊びに行って楽しかったことなどを、尽きることなく僕に話してくれた。

僕を退屈させまいとしてくれているのか、それとも僕との時間が純粋に嬉しいのか。彼女の柔らかい笑顔と弾んだ声を聞いているうちに、僕の胸の中にあった不安なんて、気がつけば跡形もなく消え去っていた。

いよいよ僕たちの番が来て、座席に深く腰掛ける。安全バーがガタリと降り、コースターがゆっくりと上昇を始めた。

上へ進むにつれて、眼下の景色がどんどん小さくなっていく。


(待って、これ思ったより高くないか?)


徐々に現実味を帯びてくる高さに、僕は内心かなりビビり始めていた。隣の白百合さんの様子を窺うと——彼女は恐怖を覚えるどころか、むしろ「わぁ……!」と目を輝かせてワクワクしている。彼女の心臓は鉄で作られているのかもしれない。

頂点に達した瞬間、一気に世界が反転する。

猛烈な風と重力が身体を襲い、視界が激しく揺れる。


「——あははっ! すごいです、蓮くんっ!」


「お、おう……っ!」


乗り終わって安全バーが上がると、白百合さんは少し乱れた髪を直しながら、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべていた。


「すっごく楽しかったです! 蓮くんは平気でしたか?」


「あぁ、まあな。……ちょっと怖かったけど、楽しかったわ」


強がってそう答えたけれど、実際、心臓はバクバクだった。


その後も、定番の『お化け屋敷』では、お化けに驚いた白百合さんが「ひゃうっ!」と僕の腕に全力でしがみついてきた。腕に伝わる柔らかい感触に、僕は別の意味で理性を試されることになったり、そんなハプニングも含めて二人の時間を全力で楽しんだ。


気がつけば、園内のライトアップがつき始める時間になっていた。

夕暮れに染まる遊園地を見上げながら、僕は今日一番の緊張を隠して、彼女の横顔を見つめた。


「白百合さん。……最後に、あそこ乗ろう。観覧車」


僕が指差した先、夕焼け空にそびえ立つ大きな大輪を見上げて、白百合さんは嬉しそうに、頷いた。

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