文化祭デート
文化祭、2日目。
昨日約束した通り、僕は白百合さんと一緒に文化祭を回っていた。
校内は昨日以上の熱気に包まれていて、どこを歩くにも人がいる。自然と白百合さんとの距離も近くなる。
「蓮くん、あそこに行ってみませんか?」
白百合さんが嬉しそうに指差したのは、『手作りコーヒーカップ』だった。
遊園地にあるようなものを想像してあり、いざ僕たちの番になって席に座ったのだが……。
「……なぁ、白百合さん。これ、楽しむっていうか、別の意味でスリルないか?」
「え、ええと……そう、ですね……」
コーヒーカップを外から人力で回しているクラスの男子たちが、全員タンクトップ姿のバキバキにキマったムキムキマッチョだったのだ。凄まじい筋肉の躍動を間近で見せつけられながら、猛烈な速度で回されるカップ。楽しい会話をする余裕なんて微塵もなく、僕と白百合さんはただただ翻弄されていた。
気を取り直して、次に僕たちが向かったのは『ダーツ』の模擬店。
これは僕にもちょっとした勝算があった。
「よし、ここは良いところ見せる。昔、親戚の家にダーツ盤があってさ、結構やり込んでたんだよな」
「凄いです! 蓮くん、頑張ってください!」
白百合さんの応援を受けながら、僕は狙いを定めて3本の矢を放った。結果は、自分でも驚くほどの好スコア。よし、と内心でガッツポーズを決める。
「ふふ、じゃあ私もやってみますね」
そう言って矢を持った白百合さんは、どう見ても完全な初心者フォームだった。……が。
トトトンッ! といい音を立てて中央に吸い込まれていく矢。
結果は、僕のスコアをあっさりと塗り替える、驚異的なトンエイティーの最高得点だった。
「……え?」
「あっ、当たりました! 蓮くん、私、上手くできたみたいです!」
そう言って喜ぶ白百合さんを前に、僕は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「もしかして、ハワイで親父に教えてもらったこととかある?」
「ハワイで親父に?いえ、今日初めてやりました!」
なんて恐ろしい子と思いながら教室を後にする。
たくさん歩き回ってお腹が空いてきたので、僕達は中庭の模擬店通りへと繰り出した。
いい匂いに誘われて僕は唐揚げ、白百合さんは、わたあめを購入する。
ベンチに並んで座り、白百合さんが大きなわたあめを小さくちぎって口に運ぶ。
「ん……甘くて美味しいです」
そう言って、口元に少しだけ白い砂糖をつけたまま、ふにゃりと無防備に微笑む白百合さん。今の彼女はお菓子を食べて喜ぶ子供みたいに純粋で、……可愛かった。
最後に彼女のクラスに行く。
入り口付近の文化祭ポスターが目に入った。
「これ、みんなで書いたやつだろ。よくできてるな」
「はい!みんなで書いてみると楽しくて、いい思い出になりました」
その言葉に嬉しさを感じていると。彼女が僕の手を握って、寄り添ってくる。
「いつも、私の背中を押してくれたり、支えてくれたりして、ありがとうございます」
「ああ…、こちらこそ」
隣からいい匂いや、柔らかい感触が伝わってきて思考がうまく回らない中、ぶっきらぼうにそう返事することしかできなかった。
最後にバルーンアートの前に二人で並び、写真を撮った。
帰り道、白百合さんは名残惜しそうに、トボトボとした足取りで僕の隣を歩いていた。
「終わっちゃいましたね、文化祭……。蓮くんといっぱい回れて、楽しかったです。……だから、なんだか寂しくて」
その言葉に対して、反射的にに答えてた。
「……まぁ、文化祭は終わりだけどさ。またどこか、普通に出かければいいだろ」
「え……?」
白百合さんが、弾かれたように足を止めた。
大きく見開かれたその瞳に、僕の姿が映る。まさか僕の口から「次の約束」を匂わせる言葉が出るなんて、完全に予想外だったのだろう。
みるみるうちに白百合さんの顔が耳の根元まで真っ赤に染まっていく。
「つ、次の……デート、ですか……っ!?」
「デートっていうか、ただの外出、っていうか……。いや、嫌なら別に——」
「嫌じゃないです!! 絶対に行きます!!」
食い気味に、今日一番の元気な声が返ってきた。




