文化祭
「ほら蓮、手ぇ休んでんぞ! 次2舟追加!」
「わかってるって、今ひっくり返してんだろ。」
熱気と油の匂いが充満する屋台で、僕は健太と並んで、ひたすらにたこ焼き器と格闘していた。
僕のクラスの出し物は、定番の『たこ焼き屋』だ。
まさか、日頃のソシャゲ周回で培った集中力を、ここで発揮することになるとは思わなかった。千枚通しを器用に操りながら、次々とたこ焼きを丸めていく。
ちなみに、白百合さんのクラスの出し物はバルーンアートの展示だ。準備さえ終われば当番がないらしく、彼女は文化祭の2日間とも完全に自由行動らしい。
そう考えていた時だった。
「蓮くん」
聞き慣れた声、聞き慣れた呼び方がして、僕は視線を上げた。
そこにはクラスTシャツを着た白百合さんだった。そしてその隣には、同じクラスTシャツを着ている女の子。ここ数週間、白百合さんから彼女のことは聞いている。
「あ、白百合さん。……と、星野さんだよな?」
「うん、佐藤くん、こんにちは! 」
星野さんはニコニコと親しみやすい笑顔を浮かべ、それから白百合さんの腕に自分の腕を軽く絡めた。
「ねえ奈緒ちゃん、佐藤くんの手つき、結構サマになってるよね?」
「はい。凄くかっこいいです……」
あのポスター制作からの数週間。
最初はあんなに怖がっていた白百合さんだったけれど、星野さんとはすっかり意気投合して、今ではこうして仲良く文化祭を回るほどの「友達」になっていた。
すると、星野さんが僕をまじまじと見つめながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「ふーん……。君が噂の佐藤くんかぁ。奈緒ちゃんからいつも話は聞いてるよ?」
「ちょっと、星野さん!?」
隣で白百合さんが顔を真っ赤にして慌てている。隣の健太が「ほほう?」とニヤニヤし始めて、僕は居心地の悪さを感じていた。
「……あー、ご注文は? たこ焼き、今ちょうど焼き上がるけど」
話を逸らすように言うと、白百合さんは嬉しそうに目を輝かせて、財布を取り出した。
「じゃあ、1舟ください。……蓮くんの、手作り」
「いや、俺と健太の共同作業だけどな」
「それでも、嬉しいです。蓮くんが私に作ってくれる、初めての料理ですから!」
白百合さんは僕から手渡されたたこ焼きの舟を、そっと両手で大切そうに抱えた。
そして、覚悟を決めた表情をして、僕の目を見つめた。
「あの、蓮くん……明日の文化祭2日目、一緒に回ってくれますか?」
「ああ、いいよ。明日は俺もフリーだし」
僕が承諾すると、白百合さんは笑顔を見せた。
「ありがとうございます……! じゃあ、明日、楽しみにしていますね。行こう、星野さん」
「うん、じゃあね佐藤くん、お邪魔しましたー!」
二人は仲良さそうに並んで、人混みの向こうへと帰っていった。
それを見送った瞬間、隣からニヤニヤ顔の健太が肩をぶつけてきた。
「へぇ〜〜? 明日はデートですか、蓮くん? ごちそうさまで〜す」
「うるさい。早く手ぇ動かせ、焦げるぞ」
健太のくだらない揶揄いをいつも通りに無視しながら、僕は再び千枚通しを握り直す。
このまま彼女が少しずついろんな人と関わっていく未来を想像したら、少しテンションが上がった。
「蓮、なんか嬉しそうだな〜」
「うるさい。お前の賄いのたこ焼きのタコ、全部抜くぞ。」
「それはもはや何焼き?」




