独占欲(奈緒視点)
終礼のチャイムが鳴り、いつものように蓮くんと一緒に帰ろうと教室のドアの前についたその時だった。開いているドアから、蓮くんが金髪の女の子と、楽しそうに話しているのが見えた。
「ねえ蓮、今週のジャンプ読んだ!? ほら、蓮が好きって言ってたあの漫画!」
「ああ、読んだぞ。まさかあのキャラが裏切るとは思わなかったわ……」
「だよね!私も読んだ瞬間叫びそうになっちゃった! あそこの伏線さ——」
耳を突き刺すような、楽しげな会話。
その子は、蓮くんのことを当たり前のように「蓮」と呼び捨てにしている。そして何より、蓮くんが楽しそうに私の知らない女の子と会話を弾ませている。
(嫌、嫌だ……っ!)
気がついた時には、教室のドアをくぐり二人の前に立っていた。私の方に目を向けてくれた彼の姿に少し安心する。
「……蓮くん」
「あ、えっと……白百合、さん?」
金髪の女の子が気まずそうな顔をして私に問いかけてくるけれど、その声は私の耳には届かない。私はその子の顔を一切見ずに、ただ真っ直ぐ、蓮くんだけを凝視していた。
気がついたら、女の子は「じゃあね蓮! お幸せに!」と言い残し、逃げるように教室を飛び出していった。
「あの、白百合さん…」
蓮くんが困惑したように私に問いかけた。その瞬間、私は我慢できなくなって、彼の右手首を掴んでいた。
「……来て」
「え、ちょっ……白百合さん!?」
蓮くんを誰にも見られない場所へ連れて行きたかった。私達だけの場所にいたかった。
驚いている蓮くんを、私は力任せに引っ張り、誰も使っていない空き教室へと連れ込んだ。
ドアを閉めた瞬間、蓮くんが困惑した声を上げる。
「いきなりどうしたんだよ。こんな空き教室に連れ込んで、」
「嫌です……」
ドン、と蓮くんの胸に飛び込むようにして、私は思いきり抱きついた。わたしの大好きな蓮くんの匂いがして幸せな気持ちになる。
「白百合さん……?」
蓮くんの胸元に顔を深く埋めたまま、私は本音を漏らした。
「蓮くんが私以外の女の子と、仲良さそうに話てるのが嫌です…」
さらに言葉を続ける。
「私は……絶対に離しませんから」
蓮くんを、誰にも渡したくない。離れたくない。そんな感情が湧き上がってくる。
気がついたら10分ほどが経過した。
蓮くんの温もりの中にいるうちに、私の暴走していた思考が、ようやく落ち着き始める。
(私……なんてことをしてしまったんだろう……)
じわじわと押し寄せてくるのは、罪悪感だった。いきなりこんなところに連れてきて、抱きついて、困らせて、嫌われてしまったらどうしようという恐怖で、急に血の気が引いていく。
私は急いで腕を解き、彼に謝罪をする。
「ごめんなさい。こんなところに急に連れ出して、抱きついてしまって。本当にごめんなさい」
ギュッと目を瞑り、深く頭を下げた。心臓が嫌な音を立ててバクバクと鳴っている。
「確かに急に連れてこられて、抱きつかれたからびっくりしたけど、別に嫌じゃなかったから…。さっさと帰ろう。お腹すいた」
頭上から聞こえてきたのは、いつもの、呆れたような、でもどこか優しい蓮くんの声だった。
「……はいっ」
並んで歩く帰り道、私は小さく息を吐いた。
蓮くんを困らせたくない。だけど、彼の隣に他の女の子がいるのを見るのは、やっぱり耐えられない。蓮くんの特別な存在になりたいという想いと、申し訳なさが胸の中でぐるぐると渦巻いていた。




