自分の気持ち
「好きです。蓮くん」
真っ直ぐな、一点の曇りもない彼女の気持ち。
恋愛経験のない僕でも彼女の気持ちはなんとなくわかっていた。だから、思ったよりも冷静に対処できた。
頭を撫でていた手を止め、返事をする。
「……ごめん、白百合さん。僕、まだ恋愛とか、そういうのはよく分からないんだ。だから付き合えない」
自分の言葉が、彼女を傷つけていないだろうか。
そう思って恐る恐る顔を覗き込むと、白百合さんは傷ついた風でもなく、まるで最初から僕の答えを分かっていたかのような、少し悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「ふふ、知っています。今の蓮くんがそう言うだろうなって」
白百合さんはクッションを抱きしめたまま、上目遣いで僕を捕らえるように見つめてくる。その瞳には、諦めなんて微塵もなかった。
「でも、覚悟していてくださいね? 蓮くんが私のことで頭がいっぱいになっちゃうくらいに、振り向いてもらえるように頑張りますから。……ちゃんと、見ててね?」
その宣言に、僕は圧倒されることしかできなかった。好意は健在、いや…、むしろ過去を打ち明けたことで、彼女の僕への想いは一段と強固なものになった気がする。
僕は自宅のベッドの上に寝そべりながら、天井をぼんやりと見つめていた。
(……告白、されたんだよな、僕)
さっき、白百合さんの部屋で起きた出来事を振り返る。
絵を描いたこと、彼女の過去、そして、あの真っ直ぐな「好きです」という言葉。
どうしても、考えてしまう。
やっぱり、彼女には僕みたいな平凡な人間じゃなくて、もっと広い世界に出ていってほしい。学校でのあの冷たい「壁」を少しずつなくして、いろんな人と話して、いろんなことを知って、その上で本当に好きな人を見つけて幸せになってほしい。
僕という避難所に、彼女の人生を縛り付けておくのはやっぱり違う気がする。
……けれど、そこで思考がふと不自然に引っかかった。
(……待てよ。なんで俺、ここまで彼女のことを気遣ってるんだ?)
疑問が浮かぶ。
これまでの僕は他人に迷惑をかけないことを前提に、自分のやりたいように行動して、関わる必要のない面倒なことはすべて避けて生きてきたはずだ。
学校一の美少女のトラウマなんて、本来の僕なら「大変だったんだな」と心の中で同情して終わる話だ。わざわざ放課後に画材を買いに付き合ったり、一緒に絵を描こうなんて提案したり、挙句の果てに彼女の将来の心配までするなんて、これまでの僕の生き方から、かけ離れている。
お節介。偽善。あるいは、ただの同情か…。
いや、どれも違う気がした。
じゃあ、僕は彼女のことをどう思っているんだ?
ただ放っておけなかっただけなのか。それとも、僕自身が彼女に……。
一度入り込んだ思考は、いくら頭を使っても答えを出してはくれなかった。自分自身の心の在り方が完全に分からなくなってしまい、気がつけば寝ていた。




