↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/35

奈緒の過去

絵の具などの後片付けをしている最中に勇気を出して彼に声をかける。


「蓮くん。蓮くんに聞いて欲しい話があって、私の過去についての話なんですけど…」


詰まりそうになりながらも言葉を続ける。


「お兄ちゃんから少し聞いてると思いますが私の口から伝えたくて…」


「お、おう…。わかった、聞くよ」


彼は困惑しながら了承してくれた。


「じゃあ話し始めますね」



中学2年生の夏、私は美術部に所属していて、コンクールに向けて毎日のように放課後の美術室でキャンバスに向き合っていた。

少しずつ形になっていく私の絵。その過程を大切にしていた。

そんなある日の放課後、隣のクラスの男子生徒が、ふらりと美術室に入ってきた。


「へえ、すごい上手じゃん。なんかコンクールに出すの?」


最初は、純粋に私の絵を褒めてくれる人だと思った。物腰も柔らかくて、私の活動を応援してくれる優しい人なのだと、そんな風に好印象を抱いていた。

だけど、彼は次の日も、その次の日も美術室にやってくるようになった。

最初は絵の話だったのに、次第に「ねえ、LINE教えてよ」「今度の日曜、二人で遊びに行かない?」と、執拗にプライベートな誘いを持ちかけてくるようになった。

私が困惑して距離を置こうとすると、彼の態度はあからさまに変化し、ある日突然「俺と付き合ってよ。こんなに毎日会いに来てるんだからさ」と、交際を強要してきたのだ。


「ごめんなさい、そういう風には考えられなくて……」


私がハッキリと断った、その瞬間だった。

彼の顔からそれまでの笑顔が消え、信じられないほどの形相で逆ギレしてきた。


「は? なんだよそれ! 思わせぶりな態度とりやがって!」


怒鳴り声を上げながら、彼は力任せに私を抱きしめようと腕を伸ばしてきた。

恐怖で頭が真っ白になりながらも、私は必死に抵抗し、全力で彼の身体を突き飛ばした。

よろめいた彼は激昂し、近くの机の上にあった、私が大切に描いてきたコンクール用の絵を掴み取った。


「こんなゴミみたいな絵があるからだろっ!」


ビリビリと無残な音が響き、私の大切な絵が引き裂かれていく。

あまりのショックに声も出せない私に、彼はなおも掴みかかろうとして、私たちは美術室の中で激しく揉み合った。

——その時だった。異変に気づいて通りかかった先生が室内に飛び込んできて、大声を上げながら彼を組み伏せ、拘束してくれて、事件はその場で終わった。

だけど、向けられた悪意は、私の心に癒えない深い傷を残した。

「人が怖い」「誰の手も信じられない」

そうして私は、誰も入れない冷たい壁を周囲に築くようになった。



「……これが、私の過去。蓮くんに、どうしても知ってほしかったの」


自分の部屋のローテーブルを挟んで、私は蓮くんにあの日のすべてを打ち明けていた。

話し終えると、視界が涙で少し潤んでいるのが分かった。

近くのクッションをぎゅっと握りしめた。


「蓮くん、あの廃墟の時、私を助けてくれて本当にありがとう。……それだけじゃなくて、私がもう一度絵を描けるように、隣にいてくれてありがとう」


蓮くんは、真剣な目できちんと私の言葉を受け止めてくれている。やっぱり、この人の隣は温かくて心地いい。


「私ね、蓮くんに救われてばかりだから……。だから、もしこれから先、蓮くんが何かに困ったり、苦しいことがあったら、絶対に私に言ってくださいね? どんなことでも、私は全力で蓮くんの力になるから。絶対に、絶対だよ」



「わかったよ。困ったことがあったら相談する」


そう言って彼は私の頭を優しく撫でた。

その手が心地よくて気持ちが溢れて出してしまう。


「好きです。蓮くん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。