どうすれば白百合さんを…
「……そりゃ、誰も信じられなくなるよな」
ぽつりと呟いた声が部屋に響いた。
学校での彼女のあの「壁」は、他人を拒絶するためじゃない。二度と傷つかないために、自分を守るためだったんだ。
けれど、疑問が浮かび上がってくる。
本当に、彼女はあのままで満足しているのだろうか。
この前、僕の部屋で人生ゲームのルーレットを回しながら、子供みたいに声を上げて笑っていた彼女の顔が脳裏をよぎる。
本来の彼女は、きっとあんな風に感情が豊かで、誰とでも真っ直ぐに向き合って、いろんな人と仲良くなれるはずの女の子だ。本当はもっと、外の世界でやりたいことや、楽しみたいことがたくさんあるんじゃないだろうか。
今は僕に対して、過剰なくらい真っ直ぐな好意を向けてきているけれど……それだって、傷ついた彼女が必死に見つけた、一つの居場所なんだろう。
だからこそ、彼女をこの狭い世界に閉じこもらせておくのは違う気がした。彼女が僕という唯一の依存先に固執するのではなく、もっと広い世界を見てほしい。
(どうにかして、白百合さんが僕以外の人や世界にも、もう一度向き合えるようになるきっかけを作れないかな……)
ぐるぐると考えを巡らせる。
他人が怖いというトラウマを克服するには、まず何から始めればいい?
……いや、他人と関わる前に、まずは彼女が奪われた「本当に好きだったもの」を取り戻すのが先なんじゃないか。
「美術部……絵、か」
そうだ。彼女を縛り付けているトラウマの根源が「絵を破られたこと」なら、もう一度、彼女に絵を描く楽しさを思い出させてあげればいい。
(でも、一人じゃまた怖い思い出がフラッシュバックするかもしれない)
だったら——。
「……俺が、一緒にいればいい、か」
絵の具の匂いも、白いキャンバスも、一人じゃ怖くても、僕が隣にいれば、彼女も一歩を踏み出せるんじゃないだろうか。僕がそばにいることで、楽しいと彼女が思えるなら、少しずつトラウマだって乗り越えられるはずだ。
「よし……」
今の彼女の執着を和らげるためにも、そして何より、彼女が前を向くためにも…。
とりあえず、まずは一緒に絵を描をことを提案してみよう。素人の僕が隣で変な絵でも描けば、彼女も呆れて笑ってくれるかもしれない。
「明日のお昼にでも誘ってみるか」
そう決めると、なんだか心がスッキリした。




