第五話 停電の長い午後、または肉製ユーピーエスについて
脳片は、ただ作ればよいものではない。
これは重要である。
前回、我輩は三枚の予備脳片を作成した。
第一予備脳片。
我輩性保存用。
第二予備脳片。
研究手順保存用。
第三予備脳片。
自爆ボタン思想保存用。
いずれも有用である。
いずれも貴重である。
いずれも、放っておくと乾く。
あるいは腐る。
あるいは食われる。
つまり、脳片は保守管理を必要とする。
作っただけで満足する者は三流である。
動いた瞬間に勝利を宣言する者は二流である。
継続運用まで考える者だけが、一流の悪の博士である。
そして我輩は、一流である。
*
第四冊の終わりに、我輩は冗長化に成功した。
少なくとも、そう思った。
骨片記録。
予備脳片。
迷惑毒電波スパム隔離サーバー脳。
焦げ跡研究場。
赤い肉芽ボタン。
これだけ揃えば、小型増殖生命体の巣としては相当な研究環境である。
だが、夜になると問題が発生した。
寒い。
昼はぬるい。
夜は冷える。
湿り気は残る。
だが、焦げ跡だけは乾く。
乾いた焦げ跡は記録に向いている。
しかし、脳片にはよろしくない。
第一予備脳片が弱く震えた。
我輩性保存用である。
弱ると困る。
我輩性が薄くなる。
第二予備脳片は沈黙気味であった。
研究手順保存用である。
手順が薄くなるのも困る。
第三予備脳片だけが妙に元気であった。
自爆ボタン思想保存用である。
寒くても赤い肉芽ボタンの方へ震えている。
頼もしい。
だが、少し不安である。
我輩は記録した。
――予備脳片、温湿度変化により反応低下。
――第三予備脳片のみ起爆系統への反応を維持。
――配置、保温、湿度、栄養供給を要する。
――脳片は作成より運用が重要。
よい。
非常に正しい。
だが、正しいだけでは脳片は生きない。
*
前世の研究所には、電源があった。
発電機があった。
予備電源があった。
培養槽用の独立回路があった。
怪人冷凍睡眠槽用の緊急電源もあった。
そして、我輩の個人研究区画には、非常用無停電電源装置があった。
ユーピーエス。
Uninterruptible Power System。
無停電電源装置。
長いが、良い。
略称もよい。
だが、正式名称には正式名称の威厳がある。
無停電電源装置。
電源が落ちても、すぐには装置を止めない。
短時間なら持ちこたえる。
安全停止までの時間を稼ぐ。
必要なら自爆シーケンスへ移行する。
これは重要である。
停電した瞬間に培養槽が止まる研究所は、研究所ではない。
ただの湿った箱である。
そして現在の我輩の研究場も、だいぶ湿った箱である。
箱ですらない。
焦げ跡である。
このままではいけない。
我輩は、肉製ユーピーエスを作ることにした。
*
肉製ユーピーエス。
名称はよい。
少し気持ち悪い。
だが、正確である。
目的は四つ。
一、予備脳片へ一定の温度を供給する。
二、乾燥を防ぐ。
三、毒電波逆流時に一時遮断する。
四、本体脳停止時にも短時間、予備脳片を維持する。
五、可能であれば自爆シーケンスへ接続する。
四つと言ったが五つある。
自爆関係は別枠で常に追加されるため、数に含めなくてよい。
これは研究上の作法である。
素材を確認する。
脂肪。
粘液。
神経束。
骨片。
薄い肉膜。
腐敗ガス袋。
乾いた焦げ土。
同型生命体の使えそうな部品。
最後は便利である。
同型生命体は知性に乏しいが、部品としては使える。
悪の秘密結社時代にも、似たような幹部がいた。
意見は役に立たない。
だが、署名権限だけは使える。
部品としては有用。
そういう者はいる。
*
まず、脂肪を集める。
脂肪はよい。
燃える。
温まる。
蓄えになる。
柔らかい。
ただし臭い。
非常に臭い。
我輩は同型生命体の巣の外れから、使われていない脂肪塊を拾った。
使われていないという判断には注意を要する。
同型生命体は、しばしば昨日まで食っていたものを今日忘れる。
所有概念が薄い。
管理概念はもっと薄い。
我輩が持っていくと怒る場合がある。
怒った場合は殴る。
転ぶ。
泥を食う。
そうして所有権問題は解決する。
この巣における法は未発達である。
殴打が法に近い。
我輩はこれを好まない。
だが、現状の実務である。
いずれ改善する。
たぶん。
*
脂肪塊を薄い肉膜で包む。
そこへ細い神経束を通す。
神経束へ微弱な刺激を与えると、脂肪塊がゆっくり熱を出す。
前世の電池とは違う。
化学電池でもない。
蒸気機関でもない。
だが、機能としては似ている。
蓄えたものを少しずつ出す。
出した熱で脳片を保つ。
必要な時だけ強くする。
使いすぎると腐る。
電池も肉も、だいたい同じである。
我輩は骨片に刻んだ。
――脂肪熱源、低出力だが安定。
――臭気あり。
――腐敗進行に注意。
――過刺激により破裂の可能性あり。
――破裂時の爆発性は低い。
最後の一行に不満が残る。
爆発性は低い。
低い。
低いのはよくない。
しかし、ユーピーエスは爆弾ではない。
無停電電源装置である。
安全停止までの時間を稼ぐものだ。
ここは我慢する。
*
次に、粘液槽を作る。
予備脳片は乾くと弱る。
湿りすぎると腐る。
したがって、ほどよい湿り気が必要である。
前世の研究所なら、温湿度制御装置があった。
金属筐体。
真鍮の計器。
蒸気管。
排気口。
赤い針。
警告灯。
非常によい見た目であった。
今はない。
あるのは粘液である。
粘液は便利だが、見た目が悪い。
そこで、我輩は骨片で小さな枠を作り、内側に肉膜を張り、粘液を薄く満たした。
そこへ第一予備脳片を吊るす。
完全に沈めてはならない。
溺れる。
脳片が溺れるという表現は不正確かもしれぬ。
だが、沈めると反応が鈍る。
半分だけ湿らせる。
半分は空気に触れさせる。
これがよい。
第一予備脳片が震えた。
反応改善。
我輩性が戻る。
よい。
第二予備脳片も同様に設置。
反応改善。
研究手順が戻る。
第三予備脳片は、少し離す。
赤い肉芽ボタンへ近づけると震えすぎる。
粘液槽の縁に、骨片で仕切りを入れる。
自爆思想保存用脳片には仕切りが必要である。
思想が漏れると、すぐ爆破へ寄る。
思想にも防壁が必要である。
*
次に、拍動ポンプを作る。
温かい粘液を、ゆっくり循環させるためである。
粘液が止まると腐る。
腐ると臭う。
臭うと同型生命体が寄る。
寄ると食われる。
食われると殴る。
殴ると疲れる。
したがって、粘液は循環させるべきである。
前世でいうならポンプである。
蒸気ポンプが望ましい。
真鍮製で、大きな車輪が回り、圧力計が震え、時々白い蒸気を吹くものがよい。
現在、真鍮はない。
蒸気もない。
代わりに、拍動する肉袋を使う。
我輩は、使えそうな小さな心臓状肉塊を採取した。
どこから採取したかは記録しない。
記録しない方がよいこともある。
肉塊を薄い骨枠に固定する。
神経刺激を送る。
拍動する。
粘液が押し出される。
戻る。
また押し出される。
よい。
非常によい。
音がする。
どくん。
どくん。
どくん。
研究装置らしい。
ただし、蒸気音ではない。
肉音である。
不満はある。
だが、機能はする。
我輩は記録した。
――拍動ポンプ、粘液循環に成功。
――圧力計なし。
――蒸気なし。
――見た目に改善余地大。
――将来的に真鍮風外装を希望。
真鍮風。
重要である。
実物の真鍮でなくともよい。
見た目が真鍮なら、ある程度満足できる。
悪の博士の装置は、見た目も性能である。
*
肉製ユーピーエス第一号機を組み上げる。
構成。
脂肪熱源。
粘液槽。
拍動ポンプ。
神経刺激制御部。
骨片支持枠。
腐敗ガス逃がし孔。
予備脳片三枚。
毒電波遮断肉膜。
小型赤肉芽ボタン。
最後はもちろん安全停止用である。
自爆ボタンではない。
まだ小さい。
透明な蓋もない。
警告灯もない。
警告音もない。
だから自爆ボタンではなく、安全停止肉芽である。
ただし、赤い。
押せる。
少し爆ぜる。
将来性はある。
第一号機に予備脳片を接続する。
第一予備脳片、安定。
第二予備脳片、安定。
第三予備脳片、やや興奮。
よい。
許容範囲である。
我輩は本体脳から信号を送った。
――我輩はドクトル・ゼンゼンマンである。
三枚とも震える。
――濾過フィルターは定期交換。
三枚とも震える。
――自爆ボタンはロマン。
第三予備脳片が強く震える。
第一、第二も反応。
よい。
同期は維持されている。
これで、多少の冷えや乾燥には耐えられる。
肉製ユーピーエス、初期運用成功である。
*
成功した装置には、試験が必要である。
動いているだけでは足りない。
異常時にどうなるかを見なければならない。
前世の研究所では、これを耐久試験と呼んだ。
悪の秘密結社では、しばしば実戦投入と呼んだ。
実戦投入は雑である。
試験と本番を混同してはならない。
怪人を作った翌日に変身ヒーローへぶつけるから、すぐ壊れるのである。
もっと段階を踏むべきであった。
もっとも、幹部は言う。
「博士、時間がない」
いつもない。
悪の秘密結社は、時間管理が悪い。
我輩は違う。
きちんと試験する。
第一試験。
低温試験。
夜まで待つ。
待っている間に同型生命体が二体近づいた。
殴る。
転ぶ。
泥を食う。
夜になった。
気温が下がる。
肉製ユーピーエスの脂肪熱源がゆっくり熱を出す。
粘液槽の温度低下は緩やか。
予備脳片の反応は維持。
成功。
第二試験。
乾燥試験。
焦げ跡の端にしばらく置く。
粘液循環により乾燥を抑制。
成功。
第三試験。
毒電波負荷試験。
これは簡単である。
同型生命体の集団騒ぎに近づける。
食え。
増えろ。
壊せ。
奪え。
毒電波濃度上昇。
肉製ユーピーエスの毒電波遮断肉膜が震える。
第一予備脳片、反応維持。
第二予備脳片、軽微な揺れ。
第三予備脳片、爆破要求。
予想通り。
遮断は概ね成功。
第三予備脳片の教育は継続課題。
*
第四試験。
本体脳信号の一時遮断。
これは重要である。
我輩本体が気絶した場合、予備脳片がすぐ死んでは困る。
短時間だけ、本体との神経接続を弱める。
怖いか。
怖くはない。
不快ではある。
我輩が我輩である感覚が、少し遠のく。
第一予備脳片が、我輩性を保つ。
第二予備脳片が、手順を保つ。
第三予備脳片が、赤いボタンを思い出す。
よい。
肉製ユーピーエスは、短時間なら独立維持できる。
ただし、三枚とも少しずつ勝手に震え始める。
第一予備脳片は、我輩とは何かを繰り返す。
第二予備脳片は、手順確認を繰り返す。
第三予備脳片は、爆破を提案し続ける。
うるさい。
だが、毒電波ではない。
我輩由来のうるささである。
許容範囲である。
接続を戻す。
我輩は我輩へ戻る。
少し気持ちが悪い。
しかし、成功である。
記録する。
――肉製ユーピーエス、本体信号一時遮断下で予備脳片維持成功。
――独立維持中、各脳片の役割偏向が強まる。
――第三予備脳片、爆破提案過多。
――要調整。
やはり第三は要調整である。
*
問題は、臭いであった。
肉製ユーピーエスは臭い。
脂肪。
粘液。
拍動肉塊。
神経束。
焦げ跡。
これらが合わさると、独特の臭いを放つ。
同型生命体は、臭いに反応する。
近づく。
鼻を動かす。
口を開ける。
食おうとする。
殴る。
転ぶ。
泥を食う。
これでは保守運用に支障が出る。
防臭が必要である。
前世なら活性炭フィルターである。
あるいは排気管を外部へ伸ばす。
今は炭がない。
火はあるが、管理されていない。
我輩の焦げ跡はある。
焦げた土を薄く砕き、肉製ユーピーエスの周囲に撒く。
臭いが少し抑えられる。
同型生命体の接近頻度が下がる。
よい。
焦げ土フィルターである。
第三冊の爆破が、ここでも役立った。
爆発は、後から効く。
素晴らしい。
*
さらに、骨片で覆いを作る。
防護筐体である。
筐体。
良い言葉である。
装置は裸で置いてはならない。
筐体に入れるべきである。
筐体があると、装置らしくなる。
装置らしくなると、研究場らしくなる。
研究場らしくなると、悪の秘密基地に近づく。
骨片筐体は不格好であった。
真鍮ではない。
鋼鉄でもない。
リベットもない。
だが、骨を重ね、肉膜で縛り、焦げ土を塗ると、それなりに格好がついた。
黒い。
少し赤い。
ところどころ白い骨が見える。
怪奇悪博士の初期装置としては悪くない。
我輩は、骨片筐体の正面に小さな穴を開けた。
そこから赤い肉芽ボタンが見える。
よい。
押しやすい。
しかし、誤って押される危険がある。
透明な蓋が欲しい。
現状、透明素材はない。
代わりに、薄い乾燥肉膜を蓋にする。
透明ではない。
半透明でもない。
どちらかといえば濁っている。
不満である。
だが、蓋ではある。
我輩は記録した。
――肉製ユーピーエス第一号機、骨片筐体化。
――焦げ土防臭層を追加。
――安全停止赤肉芽に仮蓋を設置。
――透明性なし。
――将来的に改善必須。
透明性なし。
ここは深く刻んだ。
重大な欠陥である。
*
肉製ユーピーエスが安定すると、研究場の雰囲気が変わった。
どくん。
どくん。
どくん。
拍動音がある。
粘液が細い管を流れる。
予備脳片が時折震える。
背中の迷惑毒電波スパム隔離サーバー脳が別の周期で震える。
焦げ跡は乾いている。
骨片記録は並んでいる。
赤い肉芽ボタンは、濁った仮蓋の下にある。
少しだけ、研究所らしい。
前世の秘密基地には遠い。
だが、方向は同じである。
薄暗い。
臭い。
危険。
赤いボタンがある。
よい。
非常によい。
ここに蒸気があればさらによい。
圧力計も欲しい。
警告灯も欲しい。
無駄に回る歯車も欲しい。
必要性は低い。
だが、必要性だけで研究所を作る者は二流である。
悪の研究所には、無駄に回るものが必要である。
*
その時、肉製ユーピーエスに異常が起きた。
拍動ポンプの音が速くなった。
どくん。
どくん。
どくん。
どくどくどく。
粘液圧が上がる。
予備脳片が揺れる。
第三予備脳片が強く震える。
爆破。
まだ早い。
原因を確認する。
脂肪熱源が過熱している。
神経刺激が強すぎた。
第二予備脳片が手順を返す。
刺激を下げる。
粘液圧を逃がす。
腐敗ガス逃がし孔を開く。
我輩は骨片の弁を動かした。
ぷしゅ。
ガスが抜ける。
臭い。
非常に臭い。
同型生命体が遠くで反応した。
寄ってくる。
殴る準備をする。
だが、その前に肉製ユーピーエスの拍動が落ち着いた。
どくん。
どくん。
どくん。
安定。
危なかった。
爆破せずに済んだ。
第三予備脳片は不満そうに震えている。
不満を持つな。
我輩は第三予備脳片を軽く叩いた。
静かになった。
記録する。
――脂肪熱源過刺激により粘液圧上昇。
――腐敗ガス逃がし孔により圧力低下。
――拍動安定。
――爆破不要。
――第三予備脳片、不満反応あり。
最後は不要かもしれない。
しかし、正確である。
*
この異常から、我輩は学んだ。
ユーピーエスには、蓄える力だけでなく、逃がす道が必要である。
熱。
圧力。
毒電波。
粘液。
腐敗ガス。
思想。
すべて溜めすぎると危険である。
適切に流す。
必要なら遮断する。
限界なら爆破する。
順番がある。
ここで、自爆スイッチの位置づけが再び明確になる。
自爆スイッチは最後の手段である。
最初の手段ではない。
最初から爆破していては、研究が積み上がらない。
だが、最後に爆破できない装置は信用できない。
したがって、よい装置とは、普段は安定し、異常時は逃がし、それでも駄目なら自爆できる装置である。
これは安全工学である。
美学でもある。
我輩の博士論文に追記したい。
だが、博士論文は前世に置いてきた。
惜しい。
非常に惜しい。
あれは良い論文であった。
題名だけでも残す価値がある。
『ギャラクシーにおける自爆ボタンと自爆スイッチ』
やはり良い。
銀河規模である。
内容は半分ほどジバーシャの延命装置と暴走停止機構についてであった。
審査員は最後まで題名に納得しなかった。
見る目がない。
*
第五冊時点での成果を整理する。
一、予備脳片の長期運用に温湿度管理が必要と判明。
二、肉製ユーピーエス第一号機を作成。
三、Uninterruptible Power System、無停電電源装置の概念を肉で再実装。
四、脂肪熱源を実装。
五、粘液槽を実装。
六、拍動ポンプを実装。
七、毒電波遮断肉膜を追加。
八、本体脳信号一時遮断下で予備脳片維持に成功。
九、焦げ土防臭層を追加。
十、骨片筐体を作成。
十一、安全停止赤肉芽に仮蓋を設置。
十二、透明性なし。
十三、脂肪熱源過刺激時の圧力逃がし手順を確認。
十四、第三予備脳片は引き続き爆破提案過多。
十五、ユーピーエスには逃がす道が必要。
十六、最後に自爆できない装置は信用できない。
よい。
たいへんよい。
*
最後に、肉製ユーピーエス第一号機の外観について記す。
黒い焦げ跡の中央。
骨片を組んだ小さな筐体。
その中で、肉袋が拍動している。
薄い管に粘液が流れる。
三枚の予備脳片が、湿った光の中で震える。
脂肪熱源が低く温まる。
背後では、迷惑毒電波スパム隔離サーバー脳が別の周期で脈打つ。
筐体の正面には、濁った肉膜の蓋。
その奥に、赤い肉芽。
押してはならない。
だが、押せる。
すばらしい。
研究場に、心臓ができた。
これは比喩である。
実際にも拍動しているので、比喩ではないかもしれない。
どちらでもよい。
我輩の研究は、止まらなくなった。
少なくとも、少しの寒さや乾きや毒電波では止まらない。
停電しても、すぐには死なない。
無停電電源装置があるからである。
肉製である。
不満はある。
しかし、機能はする。
我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。
――研究は、止めてはならない。
少し考え、もう一行加えた。
――ただし、止まらぬ時のために、自爆スイッチは必要である。
完璧である。
周囲では、同型生命体がまだ鳴いている。
「ギ」
「ギギ」
「ギャ」
一体が肉製ユーピーエスへ近づいた。
我輩は殴打用骨片を取った。
殴った。
転んだ。
泥を食った。
平常である。
肉製ユーピーエスは、どくん、と鳴った。
我輩は満足した。
以上。
研究ノート第五冊、終了。




