表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドクトル・ゼンゼンマンの研究ノート  作者: 黒瀬 量衡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

第三話 幼年期の終わり、または濾過脳に女神が湧く

 濾過フィルターは、定期交換するべきである。


 これは、前世からの常識である。


 研究所の水道に付けた浄水器もそうであった。


 培養槽へ流す水もそうであった。


 怪人用栄養液の循環装置もそうであった。


 毒液噴霧怪人の口腔洗浄管もそうであった。


 交換時期を過ぎたフィルターは、性能が落ちる。


 性能が落ちたフィルターは、汚れを通す。


 汚れを通した水は、まずい。


 汚れを通した脳は、もっとまずい。


 したがって、濾過フィルターは交換する。


 これは、科学である。


 そして、生活である。


 そして、悪の秘密結社においては、爆破処理対象である。


     *


 前回、我輩は迷惑毒電波スパム隔離サーバー脳第二号機を作成した。


 構造は良好であった。


 受信部。


 濾過部。


 蓄積部。


 逆流防止弁。


 交換通知肉芽。


 小規模爆破用の赤い肉芽ボタン。


 まだ透明な蓋はない。


 警告灯もない。


 警告音もない。


 だが、赤い。


 押せる。


 爆ぜる。


 ならば、方向性は正しい。


 我輩は、古い濾過脳を巣の外れに置いた。


 完全廃棄ではない。


 観察である。


 研究者は、危険物をすぐ捨ててはならない。


 危険物には、危険である理由がある。


 その理由を記録することで、次の危険物をより美しく作れる。


 もっとも、前世の倫理委員会なら、この時点で我輩の研究室を閉鎖したであろう。


 だから倫理委員会は駄目なのである。


     *


 古い濾過脳は、初日は黒ずんでいるだけであった。


 表面に泡。


 内部から声。


 食え。


 増えろ。


 壊せ。


 人類を滅ぼせ。


 うるさい。


 だが、想定内である。


 我輩は骨片に記録した。


 ――旧濾過脳、一日目。


 ――黒変あり。


 ――気泡あり。


 ――毒電波残響あり。


 ――人類滅亡指令、相変わらず雑。


 ――爆破処理未実施。


 二日目。


 濾過脳は膨らんだ。


 黒い表面の下に、赤い筋が走った。


 時折、脈打つ。


 肉としては生きている。


 脳としては死にかけている。


 フィルターとしては汚染済みである。


 装飾品としては不快である。


 声は少し変わった。


 食え。


 増えろ。


 壊せ。


 人類を滅ぼせ。


 戻れ。


 探せ。


 見つけろ。


 混じっている。


 我輩は骨片を止めた。


 戻れ。


 探せ。


 見つけろ。


 この三つは、通常の毒電波とは性質が違う。


 食え、増えろ、壊せ、滅ぼせ。


 これは種の命令である。


 粗雑で、単純で、計画性がない。


 だが、方向は明確である。


 戻れ、探せ、見つけろ。


 これは違う。


 個体に向かっている。


 あるいは、特定の対象に向かっている。


 目的関数が狭い。


 執着である。


 我輩は記録を追加した。


 ――旧濾過脳、二日目。


 ――通常毒電波に混じり、探索命令らしき残響あり。


 ――戻れ、探せ、見つけろ。


 ――対象不明。


 ――放置継続。


 ――安全装置確認済み。


 ここで安全装置確認済みと書いたことは重要である。


 研究者は、危険を愛してよい。


 だが、安全装置を嫌ってはならない。


 安全装置は臆病ではない。


 責任である。


 そして、赤ければなおよい。


     *


 三日目。


 濾過脳は、女の声で喋った。


「ルーは何処」


 我輩は作業を止めた。


 周囲の同型生命体も止まった。


 いや、止まったように見えただけである。


 実際には、口を開けたまま泥を落としただけであった。


 知性はない。


 驚愕でもない。


 ただし、女の声には反応した。


 これはよろしくない。


 同型生命体は、通常の毒電波には無思考で従う。


 食えと言われれば食う。


 増えろと言われれば増える。


 壊せと言われれば壊す。


 その同型生命体たちが、女の声に鼻を動かした。


 耳を立てた。


 目を向けた。


 つまり、女の声には、毒電波以上の誘導性がある。


 危険である。


「ルーは何処」


 濾過脳が、また言った。


 表面が裂けた。


 黒い膜が左右へ開く。


 中から、小さな手が出た。


 細い。


 白い。


 この巣に存在してよい色ではない。


 次に、顔が出た。


 小型の女であった。


 正確には、小型の女の形を取った汚染済み祝福残滓である。


 これを女と呼ぶべきかは議論がある。


 しかし、見た目は女であった。


 光っていた。


 泣いていた。


 笑っていた。


 怒っていた。


 同時に、すべてであった。


 感情の並列処理が破綻している。


 人格として未整理である。


 危険物としてはよくできている。


 女は濾過脳の上に立った。


 立ったと言っても、足元はまだ濾過脳と繋がっている。


 まるで、古いフィルターの中に溜まった汚れが、人型の泡になって浮いたようであった。


 たいへん不衛生である。


「ルーは何処」


 女は言った。


 我輩は答えなかった。


 ルーが誰であるかを知らないからである。


 知らない相手の所在を問われても困る。


 前世にもいた。


 研究室に突然来て、書類も出さず、担当者も言わず、「例の件どうなっていますか」と聞く幹部である。


 例の件とは何か。


 貴様の頭の中だけで成立している例を、我輩に投げるな。


 この女も同じである。


 ルーは何処。


 知らぬ。


 仕様書を出せ。


     *


 我輩は、観察を続けた。


 言語。


 不安定。


 文脈。


 破綻。


 目的関数。


 固定。


 執着対象。


 ルー。


 周辺誘導性。


 高い。


 自己認識。


 不明。


 他者認識。


 低い。


 危険度。


 高い。


 小型の女は、周囲を見回した。


 同型生命体たちが、じりじりと近づいている。


 通常なら、我輩が骨片で殴れば済む。


 だが今回は違う。


 彼らは食欲だけで近づいていない。


 女の声へ寄っている。


 女の光へ寄っている。


 女の意味へ寄っている。


 意味。


 これが問題である。


 知性のない同型生命体が、意味へ寄っている。


 つまり、この女の声は、毒電波より深いところに届く。


 種の衝動。


 祝福。


 上位存在の残滓。


 何と呼んでもよい。


 研究上の名称としては、汚染済み高次執着性祝福残滓、とでもしておく。


 長い。


 よい。


 正確である。


 ただし、通称は小型女でよい。


 分かりやすいからである。


     *


 小型女は、また言った。


「ルーは何処」


 声が少し変わる。


「妹はどこ」


 我輩は骨片を止めた。


 妹。


 よくない語である。


 我輩には妹がいた。


 ジバーシャ。


 イワン・ジバクビッチの妹。


 細い手。


 弱い肺。


 壊れやすい身体。


 それでも、よく笑う口。


 あれが我輩の研究の始まりであった。


 脳を残す。


 身体を替える。


 外部身体へ繋ぐ。


 暴走すれば止める。


 止まらねば、研究者が責任を取って押す。


 透明な蓋の下の赤いボタン。


 あれは最初、妹を殺すためのものではなかった。


 妹を生かすための研究が、失敗した時に世界を壊さないための装置であった。


 それを悪の秘密結社は見て、こう言った。


 怪人開発に使える。


 実に悪の秘密結社である。


 だが、素材と設備と予算は出た。


 だから我輩は入った。


 正義では、ジバーシャを生かせなかったからである。


「妹はどこ」


 小型女はまた言った。


 我輩は、少しだけ不快になった。


 この女の妹は、ジバーシャではない。


 この女の妹は、おそらく、この女の物語の中でだけ都合よく使われる妹である。


 妹の恋人に執着し、妹を見ず、恋人だけを探し、なお自分の物語を美化している。


 この声には、その臭いがあった。


 実に迷惑である。


     *


 小型女は、話し続けた。


「今度こそ見つける」


「今度こそ私を見る」


「輪は巡る」


「戻ってくる」


「ルーは何処」


 我輩は理解した。


 これは神ではない。


 祝福でもない。


 奇跡でもない。


 妹の恋人に執着した高次存在の恋愛事故である。


 妹の恋人に惚れた。


 妹の恋人を追った。


 妹の恋人を奪えなかった。


 集団を扇動した。


 妹の恋人を殺した。


 輪廻転生を信じた。


 転生後の相手を探し続けている。


 なるほど。


 非常に迷惑である。


 神格化する必要はない。


 これは、濾過フィルターに蓄積した汚染済み祝福残滓である。


 言語は支離滅裂。


 目的関数は破綻。


 執着対象は固定。


 自己正当化は過剰。


 輪廻転生への期待値は異常。


 要するに、妹の恋人に執着した高次存在のお花畑女である。


 危険である。


     *


 小型女が一歩踏み出した。


 濾過脳から、細い糸のような光が伸びる。


 その光に触れた同型生命体が、口を開けた。


「ギ」


 鳴き方が変わった。


 いつもの食欲の鳴き声ではない。


 呼応である。


 まずい。


 このままでは、巣全体が小型女の声へ同期する。


 毒電波だけなら隔離できる。


 だが、祝福残滓が人格化し、周囲の同型生命体へ命令を流し始めると、濾過構造が足りない。


 我輩一体の脳を守っても、巣全体が暴走すれば意味がない。


 研究施設に火が回った時、個人用防火布だけで満足する博士はいない。


 施設ごと止める必要がある。


 つまり、安全装置の出番である。


 我輩は、濾過脳の側面を見た。


 赤い肉芽ボタン。


 第二冊の末尾で設置した、小規模爆破用安全装置である。


 透明な蓋はない。


 警告灯もない。


 警告音もない。


 だが、赤い。


 押せる。


 爆ぜる。


 最低限の条件は満たしている。


 こんな事もあろうかと、である。


 悪の博士は、常にこんな事もあろうかと備えておくべきである。


     *


 小型女が、こちらを見た。


「あなたは」


 我輩は答えた。


「我輩は、ドクトル・ゼンゼンマンである」


 名乗りは重要である。


 相手が神性残滓であろうと、汚染フィルターから湧いた小型女であろうと、悪の博士は名乗るべきである。


「ルーを知らない?」


「知らぬ」


「隠した?」


「知らぬと言っておる」


「妹が」


「仕様書を出せ」


「輪は巡る」


「会える」


「今度こそ」


「私を見る」


 会話不能。


 決定。


 我輩は赤い肉芽ボタンへ手を伸ばした。


 小型女の表情が変わった。


 怒り。


 悲しみ。


 愛しさ。


 憎しみ。


 全部である。


 処理能力が低い。


 いや、処理しようとしていない。


 感情をそのまま周囲へ投げている。


 だから高次存在は困る。


 感情を世界規模で放射するな。


 迷惑である。


「ルーは――」


 我輩は押した。


     *


 爆発した。


 小規模である。


 だが、よい爆発であった。


 赤い肉芽ボタンが潰れ、腐敗ガス袋へ刺激が走り、濾過脳の内部に溜まっていた毒電波粘液が一瞬で膨張した。


 黒い膜が破裂する。


 光の糸が千切れる。


 小型女の身体が歪む。


 声が途切れる。


「ル――」


 木っ端微塵である。


 実に静かになった。


 周囲の同型生命体は、爆発音に驚いた。


 数体が転んだ。


 一体は泥を食った。


 一体は爆発片を食おうとした。


 殴った。


 転んだ。


 また泥を食った。


 平常運転である。


 小型女の残滓は、黒い灰と白い光の粒になって空中へ散った。


 光の粒は、少しの間、何かを探すように漂った。


 そして消えた。


 我輩は深く頷いた。


 やはり、自爆スイッチは偉大である。


     *


 ここで、研究上の区別を明確にしておく。


 自爆ボタン。


 自爆スイッチ。


 この二つは違う。


 自爆スイッチは安全設計である。


 暴走時。


 汚染時。


 変質時。


 高次存在の恋愛事故人格が濾過脳から湧いた時。


 そうした非常時に、装置を止めるための機構である。


 必要である。


 合理的である。


 一方、自爆ボタンはロマンである。


 透明な蓋。


 赤い色。


 警告音。


 点滅する灯り。


 指で押す感触。


 研究者が自分の責任で、成果と失敗と迷惑毒電波をまとめて吹き飛ばす、その瞬間。


 それが自爆ボタンである。


 したがって、自爆スイッチは安全。


 自爆ボタンは美学。


 両者は重なるが、同一ではない。


 我輩の博士論文『ギャラクシーにおける自爆ボタンと自爆スイッチ』においても、この点は第二章で詳述した。


 審査員の一人は、こう言った。


「君は安全工学を何だと思っているのかね」


 我輩は答えた。


「爆発後にも語り継がれる設計思想です」


 不合格になりかけた。


 だが、最終的には通った。


 なぜなら、実証実験で審査室の壁が一枚吹き飛び、緊急停止機構だけは正常に働いたからである。


 科学は結果である。


     *


 爆破後の濾過脳跡地を調べる。


 黒い焦げ。


 白い粉。


 粘液の残り。


 細い光の糸の焼け跡。


 小型女の形状痕跡はなし。


 再発生の兆候なし。


 周囲の同型生命体への同期残響は軽微。


 毒電波濃度、一時的に上昇。


 我輩の第二号機改は正常作動。


 頭部内への逆流なし。


 よい。


 実に良い。


 安全装置は機能した。


 爆発規模も許容範囲内であった。


 欲を言えば、もう少し派手でもよかった。


 だが、現時点の材料では妥当である。


 我輩は骨片に記録した。


 ――旧濾過脳、三日放置により人格様残滓発生。


 ――小型女形態。


 ――発語「ルーは何処」。


 ――周囲同型生命体への誘導性あり。


 ――高次執着性祝福残滓と仮分類。


 ――会話不能。


 ――安全装置により爆破処理。


 ――処理成功。


 ――濾過フィルターは定期交換すべきである。


 最後の一行を深く刻んだ。


 これは、生活の知恵である。


     *


 なお、今回の事案により、濾過脳管理規定を改める。


 一、濾過脳は交換後、三日以上放置してはならない。


 二、黒変、発泡、探索命令が確認された時点で廃棄準備に入る。


 三、「ルーは何処」と発語した場合、即時危険物扱いとする。


 四、女神性を帯びて見えても、神聖視してはならない。


 五、濾過フィルターに溜まった汚れであることを忘れてはならない。


 六、小型女が妹、輪廻、再会、運命などを語り始めた場合、会話を試みるより爆破を優先する。


 七、爆破装置は赤くする。


 八、可能であれば透明な蓋を付ける。


 九、警告音も欲しい。


 十、自爆スイッチは偉大である。


 よい規定である。


     *


 この一件で、我輩は一つ理解した。


 この世界の上位存在は、思ったより身近に汚染物として現れる。


 前世であれば、神とは宗教家の仕事であった。


 悪の秘密結社にも、時折、邪神を呼ぼうとする部門があった。


 あれは厄介であった。


 召喚陣が研究室の床を占有する。


 生贄の血が排水溝を詰まらせる。


 幹部が神託を優先して実験スケジュールを変える。


 結果として出てくるものは、だいたい触手か煙か、よく分からない声である。


 触手なら我輩の専門に近い。


 しかし、神託は困る。


 数値化しづらい。


 今回の小型女も同じである。


 ルーは何処。


 妹はどこ。


 輪は巡る。


 今度こそ私を見る。


 神話として語れば、さぞ悲劇的なのであろう。


 だが、濾過フィルターから湧いた時点で、我輩にとっては汚染物である。


 神話は神官へ任せる。


 研究者は濾過し、交換し、爆破する。


 役割分担である。


     *


 もっとも、妹という語だけは少し引っかかった。


 ジバーシャ。


 我輩の妹。


 彼女を救おうとして、我輩は脳改造を始めた。


 彼女を壊さぬために、外部身体を考えた。


 彼女を暴走させぬために、安全停止を考えた。


 そして、止まらなかった時に備えて、自爆スイッチを考えた。


 その研究は、結局、怪人開発へ転用された。


 我輩は悪の秘密結社の博士となった。


 頭足類悪魔となった。


 蝗虫男と戦った。


 爆死した。


 そして今、同型生命体の肉の中で、女神の残滓を爆破している。


 人生とは奇妙である。


 いや、死後である。


 死後も奇妙である。


 だが、ひとつだけ変わらない。


 壊れる身体をどう扱うか。


 残る脳をどう守るか。


 暴走したものにどう責任を取るか。


 その問いは、まだ続いている。


 我輩は、赤い肉芽ボタンの焼け跡を見た。


 ジバーシャが見たら、何と言うだろうか。


「兄さん。また爆破したのね」


 おそらく、そう言う。


 そしてため息をつく。


 愚かな妹である。


 だが、よい妹であった。


     *


 さて。


 小型女の爆破により、巣の一部が焦げた。


 焦げた部分には、同型生命体が近づかなくなった。


 これは有益である。


 焦げ跡には忌避効果がある。


 毒電波残滓、祝福残滓、爆破臭、いずれかが作用している可能性がある。


 さらに、焦げた地面は乾いている。


 乾いた場所は、記録片を置くのに適している。


 これは思わぬ副産物である。


 爆発は環境整備にも使える。


 素晴らしい。


 我輩は焦げ跡の中央に骨片を並べた。


 記録場である。


 まだ粗い。


 まだ臭い。


 まだ同型生命体が時折近づく。


 だが、以前よりましである。


 研究環境は改善された。


 爆破により。


 やはり、自爆スイッチは偉大である。


     *


 第三冊時点での成果を整理する。


 一、旧濾過脳放置実験を実施。


 二、三日放置で小型女形態の祝福残滓発生を確認。


 三、発語内容「ルーは何処」。


 四、探索命令、執着命令、輪廻期待らしき文言を確認。


 五、周囲同型生命体への誘導性あり。


 六、会話不能。


 七、安全装置により爆破処理成功。


 八、濾過脳廃棄規定を策定。


 九、焦げ跡を記録場へ転用。


 十、自爆スイッチは偉大。


 十一、自爆ボタンには透明な蓋が必要。


 十と十一は別問題である。


 混同してはならない。


     *


 最後に、重要な教訓を記す。


 濾過フィルターは、定期交換するべきである。


 交換を怠ると、汚れが溜まる。


 毒電波が濃縮する。


 祝福が腐る。


 高次存在の恋愛事故が人格化する。


 小型の女が湧く。


 ルーは何処とうろつく。


 周囲が誘導される。


 危険である。


 したがって、爆破する。


 実に明快である。


 我輩は骨片に大きく刻んだ。


 ――濾過フィルターは、定期交換するべきである。


 少し考え、もう一行加えた。


 ――交換を怠ると、女神が湧く。


 よい。


 分かりやすい。


 研究ノートとして、たいへん実用的である。


 我輩は満足した。


 周囲では、同型生命体がまだ鳴いている。


「ギ」


「ギギ」


「ギャ」


 うるさい。


 だが、女神の声よりはましである。


 我輩は、焦げ跡の中央に座った。


 背中の第二号機改が静かに脈打つ。


 毒電波は濾過されている。


 古いフィルターは爆破された。


 記録場は乾いている。


 自爆スイッチは機能した。


 研究は進んでいる。


 我輩は、ドクトル・ゼンゼンマンである。


 肉腫である。


 悪の博士である。


 妹を救えなかった博士である。


 そして、濾過フィルターから湧いた女神性残滓を、赤い肉芽ボタンで木っ端微塵にした者である。


 以上。


 研究ノート第三冊、終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ