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ドクトル・ゼンゼンマンの研究ノート 十五文化圏周縁抄  作者: 黒瀬 量衡


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17/18

第十七話 すばらしい新規格、または肉腫ロット管理

 材料が増えた。


 これは良いことである。


 非常に良いことである。


 爆破せずに資材体へ肉腫が生える。


 太陽用人型肉片を中央に置く。


 月四体を周囲に置く。


 各月にルー誤認用肉人形を配置する。


 月一は手を繋ぐ。


 月二は抱く。


 月三は腹に子らしきものを抱え、肩に手を乗せられる。


 月四は隠す。


 太陽は騒ぐ。


 嫉妬する。


 横恋慕する。


 奪おうとする。


 愚かである。


 たいへん愚かである。


 そして、その愚かさを浴びた資材体に肉腫が生える。


 材料が取れる。


 爆破なし。


 火薬温存。


 自爆機会増加。


 完璧である。


 ――と、ここで満足する者は二流である。


     *


 材料が増えると、次の問題が起きる。


 ばらつきである。


 肉腫は同じではない。


 月一由来の薄膜肉腫。


 月二由来の接着肉腫。


 月三由来の増殖肉腫。


 月四由来の黒筋肉腫。


 さらに、資材体ごとの差もある。


 資材体一号に生えた薄膜と、資材体三号に生えた薄膜は同じではない。


 片方は乾く。


 片方はぬめる。


 片方はよく伸びる。


 片方はすぐ裂ける。


 片方は毒電波残響が少ない。


 片方は、切った途端に「ル」と震える。


 迷惑である。


 非常に迷惑である。


 だが、観測すればよい。


 分類すればよい。


 台帳に載せればよい。


 規格化すればよい。


 規格なき肉は、ただの腫れ物である。


     *


 前世の悪の秘密結社にも、規格を軽んじる者がいた。


 右腕怪人の右腕と、別の怪人の右腕を同じ箱に入れる。


 培養液の濃度を書かない。


 爆薬の強さを「まあまあ」と記録する。


 配線の色を気分で変える。


 赤いボタンの下に、赤くない停止ボタンを置く。


 許されぬ。


 赤いボタンは赤いボタンである。


 停止なら停止。


 自爆なら自爆。


 起爆なら起爆。


 押すななら押すな。


 押す時なら押せ。


 そこを曖昧にするから、基地は変な時に爆発する。


 いや、変な時に爆発する基地も嫌いではない。


 だが、意図しない爆発は良くない。


 意図した爆発を増やすため、意図しない爆発を減らす。


 そのための規格である。


     *


 肉腫ロット管理を始める。


 名称。


 肉腫ロット管理第一版。


 長い。


 よい。


 通称。


 ロット肉。


 やや嫌である。


 採用。


 まず、肉腫に番号を振る。


 発生日。


 資材体番号。


 月配置。


 太陽性嫉妬圧。


 発語内容。


 採取部位。


 毒電波残響。


 月性名混入。


 硬さ。


 粘り。


 乾燥時間。


 臭い。


 用途候補。


 爆破耐性。


 これらを記録する。


 多い。


 たいへん多い。


 だが、材料を使うとはそういうことである。


 「なんとなく使える」は、研究ではない。


 「たぶん大丈夫」は、爆発前の言葉である。


     *


 分類記号を作る。


 月一由来。


 観測薄膜肉腫。


 記号、M一。


 月二由来。


 選択接着肉腫。


 記号、M二。


 月三由来。


 母相嫉妬増殖肉腫。


 記号、M三。


 月四由来。


 影相黒筋肉腫。


 記号、M四。


 太陽性嫉妬圧。


 ゼン単位。


 資材体番号。


 S一からS五。


 採取順。


 一、二、三。


 つまり、たとえばこうである。


 M三・S二・二八ゼン・二。


 月三配置で、資材体二号に、二八ゼンで生えた、二番目の肉腫。


 よい。


 分かる。


 嫌なほど分かる。


 文明である。


     *


 実験する。


 M一・S一・一一ゼン・一。


 月一手繋ぎ配置。


 資材体一号の肩。


 薄膜状。


 乾燥早い。


 毒電波残響、低。


 月性名混入、低。


 伸ばすと半透明になる。


 記録肉芽の保護膜に使える。


 ただし、熱に弱い。


 肉製ユーピーエス付近には不向き。


 ブレード脳ラックの上段なら可。


 用途。


 記録肉芽保護。


 仮蓋内側。


 小型配線溝カバー。


 評価、良。


 爆破用途、不向き。


 爆破用途不向き。


 少し残念である。


 しかし、すべての材料が爆破向きである必要はない。


 爆破を支える材料も必要である。


     *


 M二・S二・一六ゼン・一。


 月二抱き合わせ配置。


 資材体二号の腹脇。


 粘る。


 よく伸びる。


 毒電波残響、中。


 乾燥遅い。


 接着力、高。


 配線溝の隙間を埋めるのに良い。


 端末四号の腹部修理にも使える。


 ただし、同型生命体が舐める。


 苦味粘液を混ぜる必要あり。


 混合比。


 肉腫三。


 焦げ土一。


 苦味粘液少量。


 硬化皮膜粉、ひとつまみ。


 よい。


 肉製接着剤である。


 名称。


 肉膠。


 短い。


 良い。


 たいへん嫌である。


     *


 M三・S三・二八ゼン・一。


 月三母相妊娠期様配置。


 資材体三号の背。


 赤白い増殖肉腫。


 大きい。


 重い。


 毒電波残響、高。


 切ると震える。


 神経束候補あり。


 資材として優秀。


 危険としても優秀。


 そのまま洞窟脳庫へ入れてはならない。


 濾過。


 乾燥。


 焦げ土包埋。


 月性名混入確認。


 ゴ――


 少量。


 叩く。


 不要。


 この肉腫は、端末の筋肉補修に向く。


 肉端末五号の掘削爪基部強化にも向く。


 ただし、入れすぎると五号が掘りながら嫉妬する可能性がある。


 掘削端末に嫉妬は不要である。


 記録。


 ――M三系肉腫は、動力部へ使う場合、毒電波濾過後に限定。


     *


 M四・S四・二一ゼン・一。


 月四半隠し配置。


 資材体四号の背。


 黒筋肉腫。


 硬い。


 薄く削れる。


 月性未知名混入、中。


 遮蔽性、高。


 毒電波遮断、中。


 月性名混入遮断、高。


 これは洞窟脳庫用に良い。


 たいへん良い。


 月性名混入濾過膜の補強に使える。


 ただし、削る時に声が出る。


 声と言っても言語ではない。


 待つ。


 止まる。


 来ない。


 壊さない。


 ゴ――


 叩く。


 不要である。


 黒筋肉腫は、削る前に叩く。


 記録。


 ――M四系肉腫、加工前に月性残響叩き出しを行うこと。


     *


 ロット肉を用途別に棚へ分ける。


 第一棚。


 薄膜系。


 記録肉芽保護。


 仮蓋内側。


 配線溝小カバー。


 第二棚。


 接着系。


 肉膠。


 補修。


 隙間埋め。


 第三棚。


 増殖系。


 端末筋肉補修。


 神経束候補。


 動力部。


 第四棚。


 黒筋系。


 遮蔽材。


 濾過膜。


 洞窟脳庫補強。


 第五棚。


 危険保留。


 発語あり。


 小型女化前兆あり。


 第三予備脳片が見たがるもの。


 第五棚には鍵をつける。


 鍵は骨片でよい。


 赤く塗る必要はない。


 赤く塗ると第三予備脳片が興奮する。


     *


 ここで問題が起きた。


 肉腫は、採取後も育つことがある。


 特にM三系。


 母相嫉妬増殖肉腫。


 採取して封入袋に入れた後、袋の中で増える。


 袋が膨らむ。


 神経束候補が伸びる。


 小さな指のようなものが出る。


 よろしくない。


 非常によろしくない。


 材料は増える。


 だが、勝手に増える材料は管理対象である。


 管理対象外の増殖は、研究ではなく災害である。


 よって、封入袋に成長停止処理を施す。


 焦げ土A。


 苦味粘液。


 太陽性毒電波遮断肉膜。


 月性名混入濾過膜。


 小型自爆スイッチ。


 最後が重要である。


 袋にも自爆スイッチ。


 当然である。


     *


 封入袋自爆スイッチを試す。


 危険保留棚のM三・S五・三二ゼン・一。


 全配置併用時に資材体五号へ生えた余剰肉芽。


 袋内で膨張。


 発語前兆。


「ル」


 停止処理。


 効かない。


 袋が脈打つ。


 第三予備脳片が興奮。


 我輩は赤い小型停止肉芽を見た。


 押す。


 ぱん。


 小さい。


 非常に小さい爆発である。


 袋だけが破れ、肉腫は焦げる。


 棚は無事。


 周囲のロット肉も無事。


 よい。


 小爆発である。


 必要な爆発である。


 無駄ではない。


 第三予備脳片も満足している。


 非爆破採取は、爆破を失わせない。


 むしろ、小さく正しい爆破を増やす。


 すばらしい。


     *


 次に、品質試験を定める。


 肉腫を使う前に、試験する。


 引っ張り試験。


 乾燥試験。


 熱試験。


 毒電波残響試験。


 月性名混入試験。


 小型女化試験。


 爆破耐性試験。


 最後は楽しい。


 ただし、小片で行う。


 全量を爆破してはならない。


 全量爆破は試験ではない。


 祭りである。


 祭りは別日に行う。


 規格試験第一版。


 一、薄く切る。


 二、乾かす。


 三、引っ張る。


 四、温める。


 五、毒電波遮断膜の上に置く。


 六、月性濾過膜の近くへ置く。


 七、発語しないか確認。


 八、小片を爆破。


 九、焦げ方を見る。


 十、用途を決める。


 よい。


     *


 肉端末四号の腹部を修理する。


 洞窟探索で削れた部分。


 M二系肉膠を使う。


 塗る。


 貼る。


 焦げ土をまぶす。


 硬化皮膜粉を振る。


 乾かす。


 四号が這う。


 剥がれない。


 よい。


 肉膠、実用可。


 ただし、四号が月二方向へ少し這おうとした。


 停止。


 月二抱き合わせ由来の残響である可能性あり。


 濾過不足。


 肉膠を使う前に、選択相残響を減らす必要がある。


 記録。


 ――M二系肉膠、端末に使用する場合、方向残響を抜くこと。


 方向残響。


 新しい問題である。


 材料には感情の向きが残る。


 面倒である。


 非常に面倒である。


 だが、面白い。


     *


 肉端末五号の掘削爪基部を補強する。


 M三系増殖肉腫を少量。


 毒電波濾過済み。


 焦げ土包埋済み。


 月性名混入、低。


 取り付ける。


 五号が前肢を動かす。


 強い。


 爪の保持力向上。


 岩を削る力、増加。


 よい。


 ただし、五号が資材体三号へ向かって一歩動いた。


 停止。


 M三由来の母相嫉妬残響か。


 あるいは、太陽性奪取信号か。


 掘削端末が資材体を奪おうとしてどうする。


 不要である。


 補強材として使う場合、M三系はさらに濾過する。


 また、端末への使用量は少量に限る。


 力は上がる。


 同時に、余計な欲も混じる。


 材料は正直である。


 研究者より正直である。


     *


 洞窟脳庫の月性名混入濾過膜を補強する。


 M四系黒筋肉腫。


 削る。


 叩く。


 ゴ――


 叩く。


 待つ。


 叩く。


 止まる。


 叩く。


 来ない。


 叩く。


 壊さない。


 叩く。


 ようやく静かになる。


 薄く伸ばす。


 洞窟門番肉芽の内側へ貼る。


 月性残響表示、低下。


 未知名混入、減少。


 よい。


 黒筋肉腫、濾過膜補強材として有用。


 ただし、加工前の叩き作業が面倒である。


 一号に叩かせる。


 一号は黙って叩く。


 よい端末である。


     *


 ここで、肉腫材料の危険性を整理する。


 M一系。


 安全。


 薄い。


 熱に弱い。


 記録用。


 M二系。


 接着力高。


 方向残響あり。


 端末が特定方向へ動きやすくなる可能性。


 M三系。


 力がある。


 増える。


 毒電波残響高。


 端末に欲が混じる可能性。


 M四系。


 遮蔽性高。


 未知名混入あり。


 加工前に叩くこと。


 全配置併用系。


 危険。


 小型女化前兆あり。


 保留棚または即時処理。


 よい。


 材料が材料らしくなってきた。


 癖がある。


 用途がある。


 禁則がある。


 規格がある。


 これが資材である。


     *


 肉腫ロット管理用の札を作る。


 硬化皮膜片に刻む。


 M一、M二、M三、M四。


 資材体番号。


 ゼン値。


 採取日。


 用途。


 危険度。


 濾過済みか否か。


 爆破済み試験片ありか否か。


 札を肉腫袋に結ぶ。


 同型生命体が食おうとする。


 苦味粘液を塗る。


 逃げる。


 よい。


 札は食えないようにする。


 前世の研究所でも、ラベルを剥がす戦闘員がいた。


 理由を聞くと、「邪魔だった」と言った。


 邪魔ではない。


 ラベルが本体である。


 ラベルなき試料は、ただの危険物である。


     *


 肉ロジスティック台帳を拡張する。


 従来。


 資材体番号。


 爆破段階。


 再生度。


 回収量。


 毒電波残響。


 次回予定。


 追加。


 肉腫ロット番号。


 月配置。


 嫉妬圧。


 肉腫種別。


 用途。


 濾過状態。


 保管棚。


 試験結果。


 使用履歴。


 不具合。


 自爆スイッチ有無。


 最後は重要である。


 自爆スイッチの有無を台帳に書かない者は、いずれ自分の棚に殺される。


 棚は信用してはならない。


 特に肉の棚は信用してはならない。


     *


 管理肉芽第一号が熱を持つ。


 項目が増えたからである。


 台帳が増えた。


 ロットが増えた。


 棚が増えた。


 試験が増えた。


 命令が増えた。


 管理肉芽は偉い。


 しかし、一つでは足りない。


 ついに、管理肉芽の分割が必要である。


 これは大きい。


 いよいよ施設が、ただの研究場ではなくなってきた。


 物流。


 保管。


 品質管理。


 試験。


 端末修理。


 洞窟脳庫補強。


 爆破予定管理。


 自爆スイッチ管理。


 管理肉芽第一号だけでは過労である。


 過労の管理者は、よく判断を誤る。


 前世の幹部もそうだった。


 睡眠不足の幹部は「全員出撃」を言いがちである。


 それで負ける。


     *


 管理肉芽を分割する。


 外資材場管理肉芽。


 担当。


 資材体。


 太陽用人型肉片。


 月四体。


 ルー誤認用肉人形。


 嫉妬圧。


 肉腫発生。


 採取。


 洞窟脳庫管理肉芽。


 担当。


 脳片。


 黒骨筒。


 ログ。


 時刻同期。


 月性名混入濾過。


 冷却。


 爆破安全管理肉芽。


 担当。


 赤いボタン。


 起爆肉芽。


 自爆スイッチ。


 危険保留棚。


 爆破予定区画。


 押してよい時と押してはいけない時。


 最後の担当は重要である。


 押してよい時を知る肉芽。


 よい。


 たいへんよい。


 ただし、押す権限は本体脳のみ。


 管理肉芽は知らせるだけである。


     *


 三つの管理肉芽を作る。


 第一。


 外資材場管理肉芽。


 少し赤い。


 太陽性毒電波を扱うからである。


 第二。


 洞窟脳庫管理肉芽。


 少し黒い。


 月性名混入濾過膜と繋がるからである。


 第三。


 爆破安全管理肉芽。


 赤い点がある。


 しかし、赤いボタンではない。


 ここは重要である。


 赤い点があるからといって、押してよいわけではない。


 第三予備脳片が反応する。


 我輩は言う。


「違う。これは通知である」


 第三予備脳片、やや不満。


 だが納得。


 教育成果あり。


     *


 管理肉芽分割後、施設は静かになった。


 外資材場管理肉芽は、嫉妬圧と肉腫ロットを記録する。


 洞窟脳庫管理肉芽は、脳片と濾過膜を見張る。


 爆破安全管理肉芽は、危険保留棚と自爆スイッチを監視する。


 ログ肉芽は負荷低下。


 時刻肉芽、正常。


 パリティ肉芽、正常。


 第三予備脳片、やや退屈。


 退屈は危険である。


 そこで、爆破安全管理肉芽から第三予備脳片へ、週次爆破予定を送る。


 週次。


 よい言葉である。


 予定がある爆破は、待てる。


 第三予備脳片、静かになる。


 教育は続く。


     *


 第十七冊時点での成果を整理する。


 一、肉腫発生量増加後のばらつきを確認。


 二、規格なき肉はただの腫れ物であると定義。


 三、肉腫ロット管理第一版を策定。


 四、月一由来肉腫をM一、月二由来肉腫をM二、月三由来肉腫をM三、月四由来肉腫をM四と記号化。


 五、資材体番号、嫉妬圧、採取順をロット番号へ組み込んだ。


 六、M一系は記録肉芽保護膜に有用。


 七、M二系は肉膠として補修・接着に有用。


 八、M三系は動力部・神経束候補として有用だが毒電波残響が高い。


 九、M四系は月性名混入濾過膜および遮蔽材に有用。


 十、全配置併用系は危険保留棚または即時処理対象。


 十一、封入袋にも小型自爆スイッチが必要と確認。


 十二、品質試験項目を定義。


 十三、肉端末四号の腹部修理に肉膠を使用。


 十四、肉端末五号の掘削爪基部補強にM三系を試用。


 十五、洞窟脳庫の月性名混入濾過膜にM四系を使用。


 十六、材料には感情の向きが残ると確認。


 十七、肉ロジスティック台帳を拡張。


 十八、管理肉芽第一号の負荷増大を確認。


 十九、外資材場管理肉芽、洞窟脳庫管理肉芽、爆破安全管理肉芽へ分割。


 二十、押す権限は本体脳のみと再確認。


 二十一、予定がある爆破は待てると確認。


 二十一を深く刻む。


 非常に重要である。


     *


 夜。


 外資材場では、太陽用人型肉片がまだ震えている。


 月四体は黙っている。


 四つのルー誤認用肉人形も動かない。


 資材体の肩には、また小さな肉腫が生えている。


 すぐには採らない。


 ロット番号を振る。


 嫉妬圧を見る。


 発語を記録する。


 月配置を確認する。


 採取予定を台帳へ入れる。


 準備八割である。


     *


 洞窟脳庫では、冷気が流れる。


 M四系黒筋肉腫で補強した濾過膜が、静かに震える。


 ゴ――


 そこで止まる。


 通さない。


 よい。


 月性名混入、低下。


 第一予備脳片は静か。


 第二予備脳片は手順を確認。


 第三予備脳片は、週次爆破予定を見ている。


 待っている。


 よい。


 待てる爆破脳片は、使える爆破脳片である。


     *


 爆破安全管理肉芽が、小さく震えた。


 危険保留棚。


 M三・S五・三二ゼン・二。


 袋内膨張。


 発語前兆。


 処理推奨。


 我輩は確認する。


 小型爆破で足りる。


 棚被害なし。


 周辺ロット避難済み。


 端末退避。


 洞窟脳庫遮断。


 よい。


 これは無駄な爆発ではない。


 必要な爆発である。


 我輩は赤い小型停止肉芽を見る。


 押す。


 ぱん。


 小さな音。


 袋だけが焦げる。


 棚は無事。


 第三予備脳片、満足。


 爆破安全管理肉芽、正常。


 ロット台帳、更新。


 美しい。


 小さいが、美しい。


     *


 我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。


 ――材料は、増えた後に乱れる。


 少し考え、もう一行加える。


 ――乱れた材料は、番号で飼いならせ。


 さらに一行。


 ――ロットなき肉は、ただの腫れ物である。


 よい。


 たいへんよい。


 さらに一行。


 ――試験片だけ爆破せよ。全量爆破は祭りである。


 これもよい。


 最後にもう一行。


 ――予定がある爆破は、待てる。


 完璧である。


 肉製ユーピーエスが、どくん、と鳴る。


 洞窟脳庫が、すう、と息を吸う。


 外資材場管理肉芽が嫉妬圧を刻む。


 洞窟脳庫管理肉芽が冷気を測る。


 爆破安全管理肉芽が赤い点を震わせる。


 赤い点は、ボタンではない。


 ボタンは、我輩の前にある。


 まだ押さない。


 必要な時まで、押さない。


 ただし、必要な時は押す。


 研究は続く。


 物流は整う。


 肉は番号を持つ。


 爆破は予定を持つ。


 自爆ロマンは、また一歩守られた。


 以上。


 研究ノート第十七冊、終了。

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