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ドクトル・ゼンゼンマンの研究ノート 十五文化圏周縁抄  作者: 黒瀬 量衡


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第十六話 禁断の肉腫、または嫉妬圧による肉腫栽培

 ここで手を止める者は、二流である。


 これは重要である。


 太陽一体。


 月四体。


 人型肉片。


 肉ロジスティック高速化。


 発語前兆短縮。


 誘引性向上。


 資材体再生工程の安定化。


 たいへんよい。


 たいへん順調である。


 だが、順調な時こそ、止まってはならない。


 前世の悪の秘密結社にもいた。


 怪人が一体完成しただけで満足する幹部。


 新兵器が一度爆発しただけで宴会を始める主任。


 赤いボタンを設置しただけで押したがる副官。


 愚かである。


 ボタンは押すためにある。


 だが、押す時を決めるために準備がある。


 準備八割。


 爆破二割。


 そして、準備が進めば、爆破機会は増える。


 自爆はロマンである。


 だが、ロマンには現実の補給線が要る。


     *


 自爆は美しい。


 赤いボタン。


 透明な蓋。


 警告音。


 赤い灯。


 最後の責任。


 研究成果と失敗と迷惑信号をまとめて吹き飛ばす、悪の博士の美学。


 これは揺るがない。


 だが、無駄な爆発はよくない。


 無駄な爆発は、火薬量を減らす。


 腐敗ガス袋を減らす。


 乾燥脂肪塊を減らす。


 赤い起爆肉芽を消耗する。


 硬化皮膜の仮蓋を失う。


 焦げ土は得られる。


 肉片も得られる。


 しかし、爆破に使う資材も失う。


 つまり、爆発は資源でもあり、消費でもある。


 この点を見誤る者は二流である。


 自爆ボタンを愛するなら、自爆の機会を長く、多く、美しく保つために、普段の爆発を節約しなければならない。


 ロジスティックの向上は、自爆機会の発生件数を引き上げる。


 よい。


 たいへんよい。


 つまり、物流はロマンの母である。


     *


 第十五冊の太陽一体月四体方式は有効であった。


 中央に太陽用人型肉片。


 周囲に月四体。


 観測相。


 選択相。


 母相。


 影相。


 太陽は騒ぐ。


 月は黙る。


 太陽は妹と呼ぶ。


 月は包む。


 太陽は返せと言う。


 月は隠す。


 太陽はルーを探す。


 月はルを抱く。


 愚かである。


 非常に愚かである。


 しかし、効率はよい。


 ここで全てを爆破するのは簡単である。


 赤い起爆肉芽を押せばよい。


 どん。


 焦げ土。


 肉片。


 骨片。


 静寂。


 たいへん気持ちよい。


 だが、それでは二流である。


 一流は、爆破せずに取れるものを先に取る。


 爆破は最後である。


 自爆も最後である。


 最後だから美しい。


     *


 今回の目的を定める。


 一、太陽用人型肉片を自爆させず、嫉妬圧発生核として維持する。


 二、太陽性嫉妬信号を増幅する。


 三、月四体の配置による資材体肉腫発生を測定する。


 四、各月にルー誤認用肉人形を配置する。


 五、月三母相を妊娠期に見えるよう変形する。


 六、月三母相の腹内に、ルーとの子に見える内包肉芽を置く。


 七、太陽性横恋慕圧を上げる。


 八、爆破せずに、資材体へ材料を生やす。


 九、無駄な爆発を減らす。


 十、その結果、自爆用資材を温存する。


 十一、自爆機会を増やす。


 十一が重要である。


 爆破しない話ではない。


 爆破を増やすために、今は爆破しない話である。


 この区別が分からぬ者は、自爆ボタンを語る資格がない。


     *


 まず、太陽用人型肉片を観察する。


 第十五冊の実験後、太陽用人型肉片は裂けたまま残った。


 顔孔は広がっている。


 指状突起は白い。


 胸の太陽性毒電波濃縮肉膜は赤く脈打つ。


 腹の旧濾過脳残響はまだ残る。


 足元の小型自爆スイッチは正常。


 額の赤い小起爆肉芽も正常。


 爆破可能。


 つまり、安全である。


 爆破可能なものは、安全である。


 爆破不能なものこそ危険である。


 太陽用人型肉片は、月三母相へ顔孔を向けている。


「妹」


「返して」


「ルー」


 いつものことである。


 愚かである。


 だが、今日は爆破しない。


 削りもしない。


 太陽用人型肉片は材料ではない。


 発生核である。


 嫉妬圧発生装置である。


 太陽性毒電波増幅装置である。


 削れば使える。


 だが、削れば弱る。


 弱れば嫉妬圧が落ちる。


 嫉妬圧が落ちれば、肉ロジスティックが遅くなる。


 したがって、採るべきは太陽用人型肉片ではない。


 資材体である。


     *


 資材体を並べる。


 同型生命体から選び、くくりつけ、番号を振った材料用の肉。


 資材体一号。


 資材体二号。


 資材体三号。


 資材体四号。


 資材体五号。


 焦げ土床。


 骨杭。


 硬化皮膜帯。


 苦味粘液。


 逃走防止。


 泥食い防止。


 太陽性毒電波減衰板。


 月性名混入濾過膜。


 小型自爆スイッチ。


 よい。


 材料は台帳に載っている。


 台帳に載った肉は、ただの肉ではない。


 資材である。


 資材は壊すだけでなく、生やすことができるかもしれない。


 ここが今回の研究である。


     *


 採取用器具を作る。


 骨片刃。


 焦げ土止血粉。


 毒電波遮断肉膜。


 小型挟み骨。


 肉腫受け皿。


 採取後封入袋。


 緊急自爆糸。


 赤い停止肉芽。


 採取にも赤い停止肉芽は必要である。


 採取中に資材体が暴走した場合、即時停止。


 停止不能なら爆破。


 爆破不能なら、手で押す。


 手で押す場合は、当然、本体脳の判断で行う。


 端末に押させてはならない。


 赤いボタンを押す権限は、本体脳にのみ属する。


 これは憲法である。


     *


 一号を採取補助に回す。


 二号は記録。


 三号は防衛。


 四号は洞窟入口監視。


 五号は掘削爪整備。


 管理肉芽は権限確認。


 ログ肉芽は拍動数記録。


 時刻肉芽、同期。


 パリティ肉芽、第三予備脳片監視。


 第三予備脳片は、爆破しないことに不満らしい。


 当然である。


 だが、説明する。


 無駄な爆発は、自爆用資材を減らす。


 自爆用資材が減ると、将来の美しい自爆機会が減る。


 したがって、今は爆破しない。


 第三予備脳片が静かになる。


 理解したらしい。


 よい。


 自爆思想保存用脳片にも、物流教育は必要である。


     *


 ルー誤認用肉人形は、一体では足りない。


 一体だけでは、太陽用人型肉片の嫉妬圧が一方向へ偏る。


 偏った嫉妬は強い。


 だが、単調である。


 単調な嫉妬は、資材体に生える肉腫の種類を狭める。


 肉ロジスティックに必要なのは、多様な材料である。


 したがって、月四体それぞれに、ルー誤認用肉人形を配置する。


 ルー本体電波は、まだない。


 これは誤認用である。


 誤認は真実ではない。


 だが、工程を動かす。


 前世の幹部も、よく誤認で動いた。


 その点では高次存在と幹部は似ている。


 どちらも扱いに困る。


     *


 月一。


 観測相。


 遠くを見る月。


 ここには、ルー誤認用肉人形の手を繋がせる。


 見るだけではない。


 繋がっている。


 見つめている。


 離さない。


 その形で置く。


 月一は喋らない。


 ただ、見る。


 ルー誤認用肉人形は動かない。


 ただ、手を繋いでいるように見える。


 太陽用人型肉片が震える。


「見ているの」


「手を」


「離せ」


 太陽性嫉妬圧、上昇。


 よい。


 第一刺激、成功。


     *


 月二。


 選択相。


 境界を越える月。


 ここでは、ルー誤認用肉人形を抱き合わせる。


 抱く。


 近い。


 選ばれている。


 境界を越えて、そこへ行っている。


 太陽用人型肉片が顔孔を開く。


「行くな」


「私を見ろ」


「返して」


 太陽性嫉妬圧、さらに上昇。


 誘引波も上がる。


 三号が防衛線で棍棒を構える。


 よい。


 危険である。


 危険なほど使える。


     *


 月三。


 母相。


 包む月。


 ここは最も重要である。


 月三の腹部を、妊娠期に見えるよう変形する。


 皮膜を広げる。


 内側に粘液袋を置く。


 その奥に、小さな肉芽を入れる。


 子である。


 正確には、子ではない。


 ルーとの子供に見えるよう作った、内包肉芽である。


 だが、太陽用人型肉片にとって、正確さは問題ではない。


 見える。


 そう見える。


 それで十分である。


 さらに、ルー誤認用肉人形を月三の体側へ置く。


 手を、月三の肩に乗せるようにする。


 肩でなければ、腹の横でもよい。


 支えているように。


 守っているように。


 自分の子を見る雄のように。


 太陽用人型肉片が、今までで最も大きく震えた。


「妹」


「何を」


「誰の」


「ルー」


「返して」


「私の」


 太陽性嫉妬圧、急上昇。


 横恋慕圧、急上昇。


 奪取信号、急上昇。


 愚か。


 非常に愚かである。


 だが、数値は上がった。


     *


 月四。


 影相。


 隠す月。


 ここでは、ルー誤認用肉人形を半ば隠す。


 見えそうで、見えない。


 いる。


 だが、影に入っている。


 太陽用人型肉片からは、輪郭だけが見える。


 月四は黙っている。


 影は答えない。


 太陽用人型肉片は震える。


「隠すな」


「見せろ」


「そこにいる」


「ルー」


 太陽性嫉妬圧、上昇。


 未知名混入、増加。


 黒筋肉腫の発生見込み、上昇。


 よい。


 配置としては危険だが、遮蔽材用の肉腫を得るには有用である。


     *


 感情も、観測すれば数値となる。


 これは重要である。


 怒り。


 嫉妬。


 執着。


 横恋慕。


 姉面。


 妹への干渉。


 ルー探索。


 奪取欲。


 これらを、詩のまま置いてはならない。


 感情は、波形である。


 波形は、振幅を持つ。


 頻度を持つ。


 発語回数を持つ。


 誘引範囲を持つ。


 資材体肉腫発生量を持つ。


 爆破危険度を持つ。


 したがって、数値化できる。


 我輩は骨粉板を用意する。


 太陽性嫉妬圧。


 単位は、まだない。


 仮にゼンとする。


 いや、我輩の名を単位にするのはよい。


 たいへんよい。


 だが、自画自賛が過ぎる。


 仮単位、ゼン。


 月四体のみ。


 太陽性嫉妬圧、八ゼン。


 月一手繋ぎ配置後、一一ゼン。


 月二抱き合わせ配置後、一五ゼン。


 月三妊娠期様変形および手乗せ配置後、二八ゼン。


 月四半隠し配置後、二一ゼン。


 月一から月四すべて併用、三二ゼン。


 すばらしい。


 高すぎる。


 危険である。


 危険なので調整する。


     *


 太陽性嫉妬圧が高まり、太陽性毒電波が外資材場に満ちる。


 しかし、肉腫は太陽用人型肉片に生えるのではない。


 主として、資材体に生える。


 くくりつけた同型生命体。


 材料用に管理している肉。


 その表面が震える。


 肩に赤白い盛り上がり。


 背に黒筋の入った硬い皮膜。


 腹の脇に膜状の余剰肉芽。


 腕の付け根に神経束候補。


 よい。


 太陽用人型肉片から漏れる嫉妬圧と、太陽性毒電波を浴びた資材体の表面に、材料が生えている。


 肉腫である。


 小さい。


 だが、使える。


 端末補修材に向く。


 神経糸の被覆にも使える。


 焦げ土と混ぜれば配線溝の蓋にもなる可能性がある。


 資材体は残る。


 太陽用人型肉片も残る。


 月四体も残る。


 爆破なし。


 材料回収可能。


 素晴らしい。


     *


 資材体二号の肩に骨片刃を入れる。


 肉腫を切る。


 資材体が鳴く。


「ギャ」


 生きている。


 よい。


 焦げ土止血粉を振る。


 毒電波遮断肉膜で包む。


 資材体二号は残る。


 太陽用人型肉片も残る。


 赤い起爆肉芽も消耗しない。


 腐敗ガス袋も使わない。


 材料回収成功。


 爆破なし。


 これは大きい。


 非常に大きい。


 爆破はロマンである。


 だが、爆破せずに材料が取れるなら、爆破を温存できる。


 温存された爆破は、より大きな爆破へ育つ。


 つまり、非爆破採取は自爆ロマンを損なわない。


 むしろ育てる。


     *


 記録。


 ――太陽用人型肉片、月四体、ルー誤認用肉人形配置により、太陽性嫉妬圧上昇。


 ――肉腫発生対象は、太陽用人型肉片ではなく、資材体表面。


 ――資材体二号肩部に赤白肉腫発生。


 ――爆破なしで採取可能。


 ――採取後、資材体生存。


 ――太陽用人型肉片の発語増加。


 ――小型女化なし。


 ――焦げ土止血粉、有効。


 ――第三予備脳片、不満度低。


 ――物流教育により抑制可能。


 よい。


 爆破しなくても材料が取れる。


 これは大きい。


 非常に大きい。


     *


 月別配置による肉腫種別を調べる。


 月一。


 観測相。


 ルー誤認用肉人形と手を繋がせる。


 太陽用人型肉片の発語。


「離せ」


「見るな」


「私を見ろ」


 この時、資材体一号の肩から薄膜状肉腫が出る。


 薄い。


 広がる。


 裂けにくい。


 記録肉芽保護膜に向く可能性がある。


 月一由来肉腫。


 観測薄膜。


 よい。


     *


 月二。


 選択相。


 ルー誤認用肉人形と抱き合わせる。


 太陽用人型肉片の発語。


「行くな」


「抱くな」


「戻れ」


 この時、資材体二号の腹脇に柔らかい接着肉腫が出る。


 粘りがある。


 伸びる。


 端末補修材に向く。


 配線溝の隙間埋めにも使えそうである。


 月二由来肉腫。


 選択接着肉腫。


 よい。


     *


 月三。


 母相。


 腹部を妊娠期様へ変形。


 腹内に、ルーとの子に見える内包肉芽。


 ルー誤認用肉人形は、月三の肩へ手を乗せる。


 太陽用人型肉片の発語。


「誰の」


「返して」


「私の」


「ルー」


 この時、資材体三号の背と腕付け根に、赤白い増殖肉腫が大量に出る。


 肉材として優秀。


 神経束候補も混じる。


 ただし、毒電波残響が強い。


 濾過必須。


 月三由来肉腫。


 母相嫉妬増殖肉腫。


 たいへんよい。


 たいへん危険。


     *


 月四。


 影相。


 ルー誤認用肉人形を半ば隠す。


 太陽用人型肉片の発語。


「隠すな」


「見せろ」


「そこにいる」


 この時、資材体四号の背に黒筋肉腫が出る。


 硬い。


 暗い。


 月性未知名混入が少しある。


 ゴ――


 不要である。


 濾過する。


 だが、遮蔽材として有用である。


 洞窟脳庫の月性名混入濾過膜補強に使える可能性がある。


 月四由来肉腫。


 影相黒筋肉腫。


 よい。


     *


 資材体五号は、全配置併用時に反応した。


 月一手繋ぎ。


 月二抱き合わせ。


 月三妊娠期様および手乗せ。


 月四半隠し。


 太陽用人型肉片、発語過多。


「妹」


「離せ」


「行くな」


「誰の」


「隠すな」


「ルー」


「私の」


 嫉妬圧、三二ゼン。


 高すぎる。


 資材体五号の全身に余剰肉芽。


 肉腫量、多。


 ただし、小型女化危険も高い。


 外部同型生命体の誘引も強い。


 三号の防衛負荷が上がる。


 全配置併用は、緊急大量採取時のみ。


 通常運用には不向き。


 記録。


     *


 ここで、我輩は調整する。


 太陽性嫉妬圧が上がりすぎると、小型女化する。


 発語が明瞭になる。


 太陽用人型肉片の腕が伸びる。


 顔孔が女の顔に近づく。


 足元の肉が剥がれ始める。


 自由化の前兆である。


 爆破準備。


 だが、まだ爆破しない。


 ここで手を止めるのが二流である。


 ここで押すのも二流である。


 押すなと言っているのではない。


 まだ押す時ではない。


 我輩は太陽性減衰板を半分閉じる。


 月三の腹部を少し隠す。


 月二抱き合わせを少し離す。


 月四の影を薄くする。


 太陽性嫉妬圧、三二ゼンから一八ゼンへ低下。


 資材体肉腫発生は継続。


 小型女化は止まる。


 よい。


 これは制御である。


 感情は数値であり、数値は制御できる。


     *


 感情配置台帳を作る。


 太陽用人型肉片を中央。


 月四体を外周。


 各月にルー誤認用肉人形。


 資材体はさらに外周。


 月一手繋ぎ角度。


 月二抱き合わせ距離。


 月三腹部膨張度。


 月三肩への手乗せ位置。


 月三腹内内包肉芽の見え方。


 月四隠蔽率。


 太陽用人型肉片からの視線角。


 資材体への照射距離。


 これらを刻む。


 たいへん面倒である。


 だが、面倒なものを台帳へ落とすから文明である。


 感情配置台帳。


 名称がよい。


 高次存在の愚かな感情を、棚の位置と距離で管理する台帳である。


 素晴らしい。


     *


 感情配置台帳、初版。


 配置一。


 月一手繋ぎ強調。


 嫉妬圧、一一ゼン。


 資材体肉腫、薄膜系。


 小型女化危険、低。


 記録肉芽保護膜向き。


 配置二。


 月二抱き合わせ中距離。


 嫉妬圧、一五ゼン。


 資材体肉腫、接着系。


 誘引波、中。


 通常補修材向き。


 配置三。


 月三妊娠期様、ルー誤認用肉人形が肩に手を乗せる。


 腹内内包肉芽、半可視。


 嫉妬圧、二八ゼン。


 資材体肉腫、赤白増殖系。


 小型女化危険、高。


 大量肉材・神経束候補向き。


 配置四。


 月四半隠し。


 嫉妬圧、二一ゼン。


 資材体肉腫、黒筋遮蔽系。


 未知名混入、中。


 洞窟脳庫用遮蔽材候補。


 配置五。


 全配置併用。


 嫉妬圧、三二ゼン。


 資材体全身肉腫、多。


 小型女化危険、非常に高。


 緊急大量採取時のみ。


 よい。


 感情は数値になった。


     *


 第二回非爆破採取を行う。


 配置二。


 月二抱き合わせ中距離。


 月一手繋ぎ弱。


 月三腹部通常より少し大。


 月四影相弱。


 嫉妬圧、一六ゼン。


 安全域上限。


 資材体二号の腹脇に接着肉腫が四つ。


 肩に薄膜肉腫が二つ。


 採取。


 爆破なし。


 小型女化なし。


 回収量、前回比一・六倍。


 焦げ土消費、少。


 起爆肉芽消費、なし。


 腐敗ガス袋消費、なし。


 自爆用資材、温存。


 成功。


 大成功である。


     *


 第三回非爆破採取。


 配置三。


 月三妊娠期様。


 腹内内包肉芽、半可視。


 ルー誤認用肉人形の手を月三の肩へ置く。


 太陽用人型肉片、発語。


「誰の」


「返して」


「私の」


「ルー」


 嫉妬圧、二八ゼン。


 高い。


 危険。


 だが、資材体三号の背に赤白増殖肉腫が七つ。


 腕付け根に神経束候補が二本。


 採取。


 資材体三号、激しく鳴く。


 三号、防衛。


 一号、採取皿。


 二号、記録。


 太陽性減衰板、半閉。


 月三腹部、少し隠す。


 嫉妬圧、二二ゼンへ低下。


 小型女化停止。


 採取成功。


 危険だが有用。


 配置三は、神経束候補が欲しい日に使う。


     *


 第四回非爆破採取。


 配置四。


 月四影相でルー誤認用肉人形を半ば隠す。


 太陽用人型肉片、発語前から震える。


「隠すな」


「見せろ」


「ルー」


 嫉妬圧、二一ゼン。


 未知名混入、増加。


 月性名混入濾過膜が震える。


 ゴ――


 待つ。


 止まる。


 来ない。


 壊さない。


 不要である。


 今は不要である。


 資材体四号の背面に黒筋肉腫が発生。


 遮蔽材候補。


 採取。


 成功。


 ただし、洞窟側濾過膜の負荷が上がる。


 配置四は、遮蔽材が欲しい時のみ使用。


 よい。


 感情配置は、材料の種類を選べる。


 これは新しい。


     *


 ここで、我輩は大きな結論に至る。


 爆破は、資材を得る方法である。


 だが、爆破だけが資材を得る方法ではない。


 感情配置により、資材体へ肉腫を生やす。


 嫉妬圧により、材料を増やす。


 太陽性毒電波を減衰し、月性慈しみ電波で煽り、ルー誤認用肉人形で誤認させる。


 すると、爆破せずとも、くくりつけた資材体に材料が生える。


 つまり、肉ロジスティックは、採掘から栽培へ進んだ。


 肉腫栽培である。


 嫌な言葉である。


 すばらしい言葉である。


 肉腫栽培。


 棚に置く。


 煽る。


 測る。


 資材体に生やす。


 採る。


 封じる。


 台帳に載せる。


 必要なら爆破する。


 文明である。


     *


 肉腫栽培規定第一版を作る。


 一、太陽用人型肉片を自爆させず、核を維持する。


 二、太陽用人型肉片を主採取対象にしない。


 三、材料は資材体に生やして採る。


 四、月四体の配置により嫉妬圧を調整する。


 五、月一は手繋ぎ配置とする。


 六、月二は抱き合わせ配置とする。


 七、月三母相は必要に応じて妊娠期様へ変形する。


 八、月三腹内の内包肉芽を本物の子として扱わない。


 九、月三の肩または体側へ、ルー誤認用肉人形の手を乗せる。


 十、月四はルー誤認用肉人形を半ば隠す。


 十一、ルー本体電波は未検出であることを忘れない。


 十二、誤認用肉人形を本物扱いしない。


 十三、嫉妬圧はゼン単位で仮記録する。


 十四、一六ゼン前後を通常採取域とする。


 十五、二〇ゼンを超えたら小型女化注意。


 十六、二四ゼンを超えたら爆破準備。


 十七、肉腫は発生した資材体と、対応する月配置ごとに分類する。


 十八、黒筋肉腫は洞窟脳庫へ入れる前に月性名混入を濾過する。


 十九、無駄な爆発は自爆資材を減らす。


 二十、非爆破採取は自爆ロマンを守る。


 二十一、必要な時は押す。


 二十一がなければならない。


 押さない美学ではない。


 押す時を選ぶ美学である。


     *


 無駄な爆発が減ると、何が起きるか。


 火薬量が残る。


 腐敗ガス袋が残る。


 乾燥脂肪塊が残る。


 赤い起爆肉芽が残る。


 硬化皮膜仮蓋が残る。


 爆破予定区画の補修回数が減る。


 三号の防衛負荷も減る。


 洞窟脳庫への衝撃も減る。


 時刻肉芽の補正も減る。


 ログが安定する。


 そして、本当に必要な時に、より良い爆発ができる。


 つまり、非爆破採取は、爆破の敵ではない。


 爆破の味方である。


 自爆の火薬量を守るため、普段の爆発を減らす。


 たいへん合理的である。


 たいへんロマンがある。


     *


 第三予備脳片に説明する。


 問い。


 無駄な爆発とは。


 返り。


 自爆用資材を減らす爆発。


 よい。


 問い。


 非爆破採取とは。


 返り。


 将来の爆破を大きくする準備。


 よい。


 問い。


 肉腫栽培とは。


 返り。


 資材体に材料を生やす物流。


 よい。


 問い。


 自爆とは。


 返り。


 研究者が最後に責任を取るため、押すロマン。


 よい。


 問い。


 ロジスティックとは。


 返り。


 自爆機会を増やす現実。


 たいへんよい。


 第三予備脳片の教育は進んでいる。


 もはや単なる爆破提案脳片ではない。


 爆破のために待てる脳片である。


 成長である。


     *


 ルー誤認用肉人形にも変化があった。


 太陽性嫉妬圧を浴びたせいで、表面に薄い光沢が出る。


 動かない。


 喋らない。


 胃もない。


 意識もない。


 よい。


 だが、月三母相に近づけすぎると、月性慈しみ電波がそれを包み込むように流れる。


 中心音ルが強くなる。


 これは危険である。


 ルー本体電波ではない。


 誤認用肉人形に月側のル信号が乗っただけである。


 だが、太陽用人型肉片は区別できない。


「ルー」


 嫉妬圧、上昇。


 資材体肉腫、増加。


 使える。


 だが、誤認が強くなりすぎると、小型女化も進む。


 したがって、ルー誤認用肉人形には距離目盛りが必要である。


     *


 距離目盛りを作る。


 骨杭。


 一刻み。


 二刻み。


 三刻み。


 月一手繋ぎ角度。


 月二抱き合わせ距離。


 月三腹部からの距離。


 月三肩への手乗せ位置。


 月三腹内内包肉芽の見え方。


 月四影相による隠蔽率。


 太陽用人型肉片からの角度。


 資材体までの距離。


 これらを組み合わせる。


 嫉妬圧が上がる配置。


 資材体肉腫量が増える配置。


 小型女化が進みすぎる配置。


 未知名混入が増える配置。


 これを記録する。


 たいへん面倒である。


 だが、面倒なものを台帳へ落とすから文明である。


     *


 第十六冊時点での成果を整理する。


 一、第十五冊の太陽一体月四体方式を止めず、継続改善した。


 二、ここで手を止める者は二流であると確認。


 三、自爆はロマンであるが、ロジスティック向上という現実が自爆機会を増やすと定義。


 四、無駄な爆発は自爆用資材を減らすと確認。


 五、太陽用人型肉片を自爆させず、嫉妬圧発生核として維持した。


 六、太陽用人型肉片そのものではなく、太陽性嫉妬圧を浴びた資材体表面から肉腫採取に成功。


 七、月四体それぞれにルー誤認用肉人形を配置した。


 八、月一観測相では手繋ぎ配置を採用。


 九、月二選択相では抱き合わせ配置を採用。


 十、月三母相を妊娠期様へ変形し、腹内にルーとの子に見える内包肉芽を配置。


 十一、月三母相の肩または体側へ、ルー誤認用肉人形の手を乗せる配置を採用。


 十二、月四影相ではルー誤認用肉人形を半ば隠す配置を採用。


 十三、太陽用人型肉片の嫉妬圧上昇を確認。


 十四、感情も観測すれば数値となると定義。


 十五、太陽性嫉妬圧の仮単位ゼンを設定。


 十六、月四体の配置により、資材体における肉腫発生量と種類が変わると確認。


 十七、月一由来の観測薄膜肉腫を確認。


 十八、月二由来の選択接着肉腫を確認。


 十九、月三由来の母相嫉妬増殖肉腫を確認。


 二十、月四由来の影相黒筋肉腫を確認。


 二十一、感情配置台帳を作成。


 二十二、配置二を通常採取候補とした。


 二十三、配置三は神経束候補と大量肉材に有用だが危険。


 二十四、配置四は黒筋肉腫採取に有用だが月性未知名混入が増える。


 二十五、肉ロジスティックは採掘から栽培へ進んだ。


 二十六、肉腫栽培規定第一版を策定。


 二十七、非爆破採取は自爆ロマンを守る。


 二十八、必要な時は押す。


 二十八を深く刻む。


 これを忘れると、ただの節約家になる。


 我輩は節約家ではない。


 悪の博士である。


     *


 夜。


 外資材場は、以前より静かである。


 爆発していないからである。


 だが、何も起きていないわけではない。


 中央の太陽用人型肉片が震える。


 月一観測相は、ルー誤認用肉人形と手を繋いでいる。


 月二選択相は、ルー誤認用肉人形を抱いている。


 月三母相は、広げた腹部の内側に、ルーとの子に見える内包肉芽を抱えている。


 その肩には、ルー誤認用肉人形の手が乗っている。


 月四影相は、別のルー誤認用肉人形を半ば隠している。


 太陽用人型肉片は言う。


「離せ」


「行くな」


「誰の」


「隠すな」


「私の」


「ルー」


 愚かである。


 たいへん愚かである。


 だが、その愚かさは資材体へ流れる。


 くくりつけた同型生命体の肩に、赤白い肉腫が盛り上がる。


 腹の脇に、膜状の余剰肉芽が出る。


 背に、黒筋の入った硬い皮膜が生える。


 腕の付け根に、細い神経束候補が伸びる。


 爆破していない。


 太陽用人型肉片も壊していない。


 月四体も壊していない。


 資材体もまだ残っている。


 材料だけが、生えた。


 よい。


 たいへんよい。


 肉ロジスティックは、採掘から栽培へ進んだ。


     *


 一号が採取皿を持つ。


 二号が台帳を開く。


 三号が防衛線で棍棒を構える。


 管理肉芽が嫉妬圧を記録する。


 ログ肉芽が拍動数を刻む。


 洞窟脳庫では、脳片が冷えている。


 第三予備脳片は静かである。


 爆破しない夜に、静かである。


 成長である。


     *


 月性名混入濾過膜が、遠くで少し震える。


 ゴ――


 我輩は叩く。


 不要である。


 今は不要である。


 ルー探索肉芽も沈黙している。


 ルー電波は、まだない。


 だが、ルー誤認用肉人形は役に立つ。


 本物がなくても、誤認で工程は動く。


 これも重要である。


 ただし、誤認を真実として扱ってはならない。


 それは研究ではない。


 信仰である。


 信仰は、時に電波を強くする。


 だが、台帳には不向きである。


     *


 我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。


 ――自爆はロマンである。


 少し考え、もう一行加える。


 ――ロジスティックは、そのロマンを増やす現実である。


 さらに一行。


 ――無駄な爆発は、自爆の火薬を減らす。


 さらに一行。


 ――嫉妬は愚かだが、観測すれば資材体に肉腫を生やす。


 よい。


 たいへんよい。


 最後にもう一行。


 ――必要な時まで、押すな。


 その下へ、さらに小さく刻む。


 ――ただし、必要な時は押せ。


 完璧である。


 肉製ユーピーエスが、どくん、と鳴る。


 洞窟脳庫が、すう、と息を吸う。


 太陽用人型肉片が震える。


 月四体は黙っている。


 四つのルー誤認用肉人形は動かない。


 内包肉芽も動かない。


 その沈黙が、太陽をさらに苛立たせる。


 資材体の肩に、肉腫がまた一つ、生えた。


 爆破なし。


 材料あり。


 自爆資材温存。


 ロジスティック改善。


 研究は進む。


 自爆機会も、増える。


 以上。


 研究ノート第十六冊、終了。

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