第十六話 禁断の肉腫、または嫉妬圧による肉腫栽培
ここで手を止める者は、二流である。
これは重要である。
太陽一体。
月四体。
人型肉片。
肉ロジスティック高速化。
発語前兆短縮。
誘引性向上。
資材体再生工程の安定化。
たいへんよい。
たいへん順調である。
だが、順調な時こそ、止まってはならない。
前世の悪の秘密結社にもいた。
怪人が一体完成しただけで満足する幹部。
新兵器が一度爆発しただけで宴会を始める主任。
赤いボタンを設置しただけで押したがる副官。
愚かである。
ボタンは押すためにある。
だが、押す時を決めるために準備がある。
準備八割。
爆破二割。
そして、準備が進めば、爆破機会は増える。
自爆はロマンである。
だが、ロマンには現実の補給線が要る。
*
自爆は美しい。
赤いボタン。
透明な蓋。
警告音。
赤い灯。
最後の責任。
研究成果と失敗と迷惑信号をまとめて吹き飛ばす、悪の博士の美学。
これは揺るがない。
だが、無駄な爆発はよくない。
無駄な爆発は、火薬量を減らす。
腐敗ガス袋を減らす。
乾燥脂肪塊を減らす。
赤い起爆肉芽を消耗する。
硬化皮膜の仮蓋を失う。
焦げ土は得られる。
肉片も得られる。
しかし、爆破に使う資材も失う。
つまり、爆発は資源でもあり、消費でもある。
この点を見誤る者は二流である。
自爆ボタンを愛するなら、自爆の機会を長く、多く、美しく保つために、普段の爆発を節約しなければならない。
ロジスティックの向上は、自爆機会の発生件数を引き上げる。
よい。
たいへんよい。
つまり、物流はロマンの母である。
*
第十五冊の太陽一体月四体方式は有効であった。
中央に太陽用人型肉片。
周囲に月四体。
観測相。
選択相。
母相。
影相。
太陽は騒ぐ。
月は黙る。
太陽は妹と呼ぶ。
月は包む。
太陽は返せと言う。
月は隠す。
太陽はルーを探す。
月はルを抱く。
愚かである。
非常に愚かである。
しかし、効率はよい。
ここで全てを爆破するのは簡単である。
赤い起爆肉芽を押せばよい。
どん。
焦げ土。
肉片。
骨片。
静寂。
たいへん気持ちよい。
だが、それでは二流である。
一流は、爆破せずに取れるものを先に取る。
爆破は最後である。
自爆も最後である。
最後だから美しい。
*
今回の目的を定める。
一、太陽用人型肉片を自爆させず、嫉妬圧発生核として維持する。
二、太陽性嫉妬信号を増幅する。
三、月四体の配置による資材体肉腫発生を測定する。
四、各月にルー誤認用肉人形を配置する。
五、月三母相を妊娠期に見えるよう変形する。
六、月三母相の腹内に、ルーとの子に見える内包肉芽を置く。
七、太陽性横恋慕圧を上げる。
八、爆破せずに、資材体へ材料を生やす。
九、無駄な爆発を減らす。
十、その結果、自爆用資材を温存する。
十一、自爆機会を増やす。
十一が重要である。
爆破しない話ではない。
爆破を増やすために、今は爆破しない話である。
この区別が分からぬ者は、自爆ボタンを語る資格がない。
*
まず、太陽用人型肉片を観察する。
第十五冊の実験後、太陽用人型肉片は裂けたまま残った。
顔孔は広がっている。
指状突起は白い。
胸の太陽性毒電波濃縮肉膜は赤く脈打つ。
腹の旧濾過脳残響はまだ残る。
足元の小型自爆スイッチは正常。
額の赤い小起爆肉芽も正常。
爆破可能。
つまり、安全である。
爆破可能なものは、安全である。
爆破不能なものこそ危険である。
太陽用人型肉片は、月三母相へ顔孔を向けている。
「妹」
「返して」
「ルー」
いつものことである。
愚かである。
だが、今日は爆破しない。
削りもしない。
太陽用人型肉片は材料ではない。
発生核である。
嫉妬圧発生装置である。
太陽性毒電波増幅装置である。
削れば使える。
だが、削れば弱る。
弱れば嫉妬圧が落ちる。
嫉妬圧が落ちれば、肉ロジスティックが遅くなる。
したがって、採るべきは太陽用人型肉片ではない。
資材体である。
*
資材体を並べる。
同型生命体から選び、くくりつけ、番号を振った材料用の肉。
資材体一号。
資材体二号。
資材体三号。
資材体四号。
資材体五号。
焦げ土床。
骨杭。
硬化皮膜帯。
苦味粘液。
逃走防止。
泥食い防止。
太陽性毒電波減衰板。
月性名混入濾過膜。
小型自爆スイッチ。
よい。
材料は台帳に載っている。
台帳に載った肉は、ただの肉ではない。
資材である。
資材は壊すだけでなく、生やすことができるかもしれない。
ここが今回の研究である。
*
採取用器具を作る。
骨片刃。
焦げ土止血粉。
毒電波遮断肉膜。
小型挟み骨。
肉腫受け皿。
採取後封入袋。
緊急自爆糸。
赤い停止肉芽。
採取にも赤い停止肉芽は必要である。
採取中に資材体が暴走した場合、即時停止。
停止不能なら爆破。
爆破不能なら、手で押す。
手で押す場合は、当然、本体脳の判断で行う。
端末に押させてはならない。
赤いボタンを押す権限は、本体脳にのみ属する。
これは憲法である。
*
一号を採取補助に回す。
二号は記録。
三号は防衛。
四号は洞窟入口監視。
五号は掘削爪整備。
管理肉芽は権限確認。
ログ肉芽は拍動数記録。
時刻肉芽、同期。
パリティ肉芽、第三予備脳片監視。
第三予備脳片は、爆破しないことに不満らしい。
当然である。
だが、説明する。
無駄な爆発は、自爆用資材を減らす。
自爆用資材が減ると、将来の美しい自爆機会が減る。
したがって、今は爆破しない。
第三予備脳片が静かになる。
理解したらしい。
よい。
自爆思想保存用脳片にも、物流教育は必要である。
*
ルー誤認用肉人形は、一体では足りない。
一体だけでは、太陽用人型肉片の嫉妬圧が一方向へ偏る。
偏った嫉妬は強い。
だが、単調である。
単調な嫉妬は、資材体に生える肉腫の種類を狭める。
肉ロジスティックに必要なのは、多様な材料である。
したがって、月四体それぞれに、ルー誤認用肉人形を配置する。
ルー本体電波は、まだない。
これは誤認用である。
誤認は真実ではない。
だが、工程を動かす。
前世の幹部も、よく誤認で動いた。
その点では高次存在と幹部は似ている。
どちらも扱いに困る。
*
月一。
観測相。
遠くを見る月。
ここには、ルー誤認用肉人形の手を繋がせる。
見るだけではない。
繋がっている。
見つめている。
離さない。
その形で置く。
月一は喋らない。
ただ、見る。
ルー誤認用肉人形は動かない。
ただ、手を繋いでいるように見える。
太陽用人型肉片が震える。
「見ているの」
「手を」
「離せ」
太陽性嫉妬圧、上昇。
よい。
第一刺激、成功。
*
月二。
選択相。
境界を越える月。
ここでは、ルー誤認用肉人形を抱き合わせる。
抱く。
近い。
選ばれている。
境界を越えて、そこへ行っている。
太陽用人型肉片が顔孔を開く。
「行くな」
「私を見ろ」
「返して」
太陽性嫉妬圧、さらに上昇。
誘引波も上がる。
三号が防衛線で棍棒を構える。
よい。
危険である。
危険なほど使える。
*
月三。
母相。
包む月。
ここは最も重要である。
月三の腹部を、妊娠期に見えるよう変形する。
皮膜を広げる。
内側に粘液袋を置く。
その奥に、小さな肉芽を入れる。
子である。
正確には、子ではない。
ルーとの子供に見えるよう作った、内包肉芽である。
だが、太陽用人型肉片にとって、正確さは問題ではない。
見える。
そう見える。
それで十分である。
さらに、ルー誤認用肉人形を月三の体側へ置く。
手を、月三の肩に乗せるようにする。
肩でなければ、腹の横でもよい。
支えているように。
守っているように。
自分の子を見る雄のように。
太陽用人型肉片が、今までで最も大きく震えた。
「妹」
「何を」
「誰の」
「ルー」
「返して」
「私の」
太陽性嫉妬圧、急上昇。
横恋慕圧、急上昇。
奪取信号、急上昇。
愚か。
非常に愚かである。
だが、数値は上がった。
*
月四。
影相。
隠す月。
ここでは、ルー誤認用肉人形を半ば隠す。
見えそうで、見えない。
いる。
だが、影に入っている。
太陽用人型肉片からは、輪郭だけが見える。
月四は黙っている。
影は答えない。
太陽用人型肉片は震える。
「隠すな」
「見せろ」
「そこにいる」
「ルー」
太陽性嫉妬圧、上昇。
未知名混入、増加。
黒筋肉腫の発生見込み、上昇。
よい。
配置としては危険だが、遮蔽材用の肉腫を得るには有用である。
*
感情も、観測すれば数値となる。
これは重要である。
怒り。
嫉妬。
執着。
横恋慕。
姉面。
妹への干渉。
ルー探索。
奪取欲。
これらを、詩のまま置いてはならない。
感情は、波形である。
波形は、振幅を持つ。
頻度を持つ。
発語回数を持つ。
誘引範囲を持つ。
資材体肉腫発生量を持つ。
爆破危険度を持つ。
したがって、数値化できる。
我輩は骨粉板を用意する。
太陽性嫉妬圧。
単位は、まだない。
仮にゼンとする。
いや、我輩の名を単位にするのはよい。
たいへんよい。
だが、自画自賛が過ぎる。
仮単位、ゼン。
月四体のみ。
太陽性嫉妬圧、八ゼン。
月一手繋ぎ配置後、一一ゼン。
月二抱き合わせ配置後、一五ゼン。
月三妊娠期様変形および手乗せ配置後、二八ゼン。
月四半隠し配置後、二一ゼン。
月一から月四すべて併用、三二ゼン。
すばらしい。
高すぎる。
危険である。
危険なので調整する。
*
太陽性嫉妬圧が高まり、太陽性毒電波が外資材場に満ちる。
しかし、肉腫は太陽用人型肉片に生えるのではない。
主として、資材体に生える。
くくりつけた同型生命体。
材料用に管理している肉。
その表面が震える。
肩に赤白い盛り上がり。
背に黒筋の入った硬い皮膜。
腹の脇に膜状の余剰肉芽。
腕の付け根に神経束候補。
よい。
太陽用人型肉片から漏れる嫉妬圧と、太陽性毒電波を浴びた資材体の表面に、材料が生えている。
肉腫である。
小さい。
だが、使える。
端末補修材に向く。
神経糸の被覆にも使える。
焦げ土と混ぜれば配線溝の蓋にもなる可能性がある。
資材体は残る。
太陽用人型肉片も残る。
月四体も残る。
爆破なし。
材料回収可能。
素晴らしい。
*
資材体二号の肩に骨片刃を入れる。
肉腫を切る。
資材体が鳴く。
「ギャ」
生きている。
よい。
焦げ土止血粉を振る。
毒電波遮断肉膜で包む。
資材体二号は残る。
太陽用人型肉片も残る。
赤い起爆肉芽も消耗しない。
腐敗ガス袋も使わない。
材料回収成功。
爆破なし。
これは大きい。
非常に大きい。
爆破はロマンである。
だが、爆破せずに材料が取れるなら、爆破を温存できる。
温存された爆破は、より大きな爆破へ育つ。
つまり、非爆破採取は自爆ロマンを損なわない。
むしろ育てる。
*
記録。
――太陽用人型肉片、月四体、ルー誤認用肉人形配置により、太陽性嫉妬圧上昇。
――肉腫発生対象は、太陽用人型肉片ではなく、資材体表面。
――資材体二号肩部に赤白肉腫発生。
――爆破なしで採取可能。
――採取後、資材体生存。
――太陽用人型肉片の発語増加。
――小型女化なし。
――焦げ土止血粉、有効。
――第三予備脳片、不満度低。
――物流教育により抑制可能。
よい。
爆破しなくても材料が取れる。
これは大きい。
非常に大きい。
*
月別配置による肉腫種別を調べる。
月一。
観測相。
ルー誤認用肉人形と手を繋がせる。
太陽用人型肉片の発語。
「離せ」
「見るな」
「私を見ろ」
この時、資材体一号の肩から薄膜状肉腫が出る。
薄い。
広がる。
裂けにくい。
記録肉芽保護膜に向く可能性がある。
月一由来肉腫。
観測薄膜。
よい。
*
月二。
選択相。
ルー誤認用肉人形と抱き合わせる。
太陽用人型肉片の発語。
「行くな」
「抱くな」
「戻れ」
この時、資材体二号の腹脇に柔らかい接着肉腫が出る。
粘りがある。
伸びる。
端末補修材に向く。
配線溝の隙間埋めにも使えそうである。
月二由来肉腫。
選択接着肉腫。
よい。
*
月三。
母相。
腹部を妊娠期様へ変形。
腹内に、ルーとの子に見える内包肉芽。
ルー誤認用肉人形は、月三の肩へ手を乗せる。
太陽用人型肉片の発語。
「誰の」
「返して」
「私の」
「ルー」
この時、資材体三号の背と腕付け根に、赤白い増殖肉腫が大量に出る。
肉材として優秀。
神経束候補も混じる。
ただし、毒電波残響が強い。
濾過必須。
月三由来肉腫。
母相嫉妬増殖肉腫。
たいへんよい。
たいへん危険。
*
月四。
影相。
ルー誤認用肉人形を半ば隠す。
太陽用人型肉片の発語。
「隠すな」
「見せろ」
「そこにいる」
この時、資材体四号の背に黒筋肉腫が出る。
硬い。
暗い。
月性未知名混入が少しある。
ゴ――
不要である。
濾過する。
だが、遮蔽材として有用である。
洞窟脳庫の月性名混入濾過膜補強に使える可能性がある。
月四由来肉腫。
影相黒筋肉腫。
よい。
*
資材体五号は、全配置併用時に反応した。
月一手繋ぎ。
月二抱き合わせ。
月三妊娠期様および手乗せ。
月四半隠し。
太陽用人型肉片、発語過多。
「妹」
「離せ」
「行くな」
「誰の」
「隠すな」
「ルー」
「私の」
嫉妬圧、三二ゼン。
高すぎる。
資材体五号の全身に余剰肉芽。
肉腫量、多。
ただし、小型女化危険も高い。
外部同型生命体の誘引も強い。
三号の防衛負荷が上がる。
全配置併用は、緊急大量採取時のみ。
通常運用には不向き。
記録。
*
ここで、我輩は調整する。
太陽性嫉妬圧が上がりすぎると、小型女化する。
発語が明瞭になる。
太陽用人型肉片の腕が伸びる。
顔孔が女の顔に近づく。
足元の肉が剥がれ始める。
自由化の前兆である。
爆破準備。
だが、まだ爆破しない。
ここで手を止めるのが二流である。
ここで押すのも二流である。
押すなと言っているのではない。
まだ押す時ではない。
我輩は太陽性減衰板を半分閉じる。
月三の腹部を少し隠す。
月二抱き合わせを少し離す。
月四の影を薄くする。
太陽性嫉妬圧、三二ゼンから一八ゼンへ低下。
資材体肉腫発生は継続。
小型女化は止まる。
よい。
これは制御である。
感情は数値であり、数値は制御できる。
*
感情配置台帳を作る。
太陽用人型肉片を中央。
月四体を外周。
各月にルー誤認用肉人形。
資材体はさらに外周。
月一手繋ぎ角度。
月二抱き合わせ距離。
月三腹部膨張度。
月三肩への手乗せ位置。
月三腹内内包肉芽の見え方。
月四隠蔽率。
太陽用人型肉片からの視線角。
資材体への照射距離。
これらを刻む。
たいへん面倒である。
だが、面倒なものを台帳へ落とすから文明である。
感情配置台帳。
名称がよい。
高次存在の愚かな感情を、棚の位置と距離で管理する台帳である。
素晴らしい。
*
感情配置台帳、初版。
配置一。
月一手繋ぎ強調。
嫉妬圧、一一ゼン。
資材体肉腫、薄膜系。
小型女化危険、低。
記録肉芽保護膜向き。
配置二。
月二抱き合わせ中距離。
嫉妬圧、一五ゼン。
資材体肉腫、接着系。
誘引波、中。
通常補修材向き。
配置三。
月三妊娠期様、ルー誤認用肉人形が肩に手を乗せる。
腹内内包肉芽、半可視。
嫉妬圧、二八ゼン。
資材体肉腫、赤白増殖系。
小型女化危険、高。
大量肉材・神経束候補向き。
配置四。
月四半隠し。
嫉妬圧、二一ゼン。
資材体肉腫、黒筋遮蔽系。
未知名混入、中。
洞窟脳庫用遮蔽材候補。
配置五。
全配置併用。
嫉妬圧、三二ゼン。
資材体全身肉腫、多。
小型女化危険、非常に高。
緊急大量採取時のみ。
よい。
感情は数値になった。
*
第二回非爆破採取を行う。
配置二。
月二抱き合わせ中距離。
月一手繋ぎ弱。
月三腹部通常より少し大。
月四影相弱。
嫉妬圧、一六ゼン。
安全域上限。
資材体二号の腹脇に接着肉腫が四つ。
肩に薄膜肉腫が二つ。
採取。
爆破なし。
小型女化なし。
回収量、前回比一・六倍。
焦げ土消費、少。
起爆肉芽消費、なし。
腐敗ガス袋消費、なし。
自爆用資材、温存。
成功。
大成功である。
*
第三回非爆破採取。
配置三。
月三妊娠期様。
腹内内包肉芽、半可視。
ルー誤認用肉人形の手を月三の肩へ置く。
太陽用人型肉片、発語。
「誰の」
「返して」
「私の」
「ルー」
嫉妬圧、二八ゼン。
高い。
危険。
だが、資材体三号の背に赤白増殖肉腫が七つ。
腕付け根に神経束候補が二本。
採取。
資材体三号、激しく鳴く。
三号、防衛。
一号、採取皿。
二号、記録。
太陽性減衰板、半閉。
月三腹部、少し隠す。
嫉妬圧、二二ゼンへ低下。
小型女化停止。
採取成功。
危険だが有用。
配置三は、神経束候補が欲しい日に使う。
*
第四回非爆破採取。
配置四。
月四影相でルー誤認用肉人形を半ば隠す。
太陽用人型肉片、発語前から震える。
「隠すな」
「見せろ」
「ルー」
嫉妬圧、二一ゼン。
未知名混入、増加。
月性名混入濾過膜が震える。
ゴ――
待つ。
止まる。
来ない。
壊さない。
不要である。
今は不要である。
資材体四号の背面に黒筋肉腫が発生。
遮蔽材候補。
採取。
成功。
ただし、洞窟側濾過膜の負荷が上がる。
配置四は、遮蔽材が欲しい時のみ使用。
よい。
感情配置は、材料の種類を選べる。
これは新しい。
*
ここで、我輩は大きな結論に至る。
爆破は、資材を得る方法である。
だが、爆破だけが資材を得る方法ではない。
感情配置により、資材体へ肉腫を生やす。
嫉妬圧により、材料を増やす。
太陽性毒電波を減衰し、月性慈しみ電波で煽り、ルー誤認用肉人形で誤認させる。
すると、爆破せずとも、くくりつけた資材体に材料が生える。
つまり、肉ロジスティックは、採掘から栽培へ進んだ。
肉腫栽培である。
嫌な言葉である。
すばらしい言葉である。
肉腫栽培。
棚に置く。
煽る。
測る。
資材体に生やす。
採る。
封じる。
台帳に載せる。
必要なら爆破する。
文明である。
*
肉腫栽培規定第一版を作る。
一、太陽用人型肉片を自爆させず、核を維持する。
二、太陽用人型肉片を主採取対象にしない。
三、材料は資材体に生やして採る。
四、月四体の配置により嫉妬圧を調整する。
五、月一は手繋ぎ配置とする。
六、月二は抱き合わせ配置とする。
七、月三母相は必要に応じて妊娠期様へ変形する。
八、月三腹内の内包肉芽を本物の子として扱わない。
九、月三の肩または体側へ、ルー誤認用肉人形の手を乗せる。
十、月四はルー誤認用肉人形を半ば隠す。
十一、ルー本体電波は未検出であることを忘れない。
十二、誤認用肉人形を本物扱いしない。
十三、嫉妬圧はゼン単位で仮記録する。
十四、一六ゼン前後を通常採取域とする。
十五、二〇ゼンを超えたら小型女化注意。
十六、二四ゼンを超えたら爆破準備。
十七、肉腫は発生した資材体と、対応する月配置ごとに分類する。
十八、黒筋肉腫は洞窟脳庫へ入れる前に月性名混入を濾過する。
十九、無駄な爆発は自爆資材を減らす。
二十、非爆破採取は自爆ロマンを守る。
二十一、必要な時は押す。
二十一がなければならない。
押さない美学ではない。
押す時を選ぶ美学である。
*
無駄な爆発が減ると、何が起きるか。
火薬量が残る。
腐敗ガス袋が残る。
乾燥脂肪塊が残る。
赤い起爆肉芽が残る。
硬化皮膜仮蓋が残る。
爆破予定区画の補修回数が減る。
三号の防衛負荷も減る。
洞窟脳庫への衝撃も減る。
時刻肉芽の補正も減る。
ログが安定する。
そして、本当に必要な時に、より良い爆発ができる。
つまり、非爆破採取は、爆破の敵ではない。
爆破の味方である。
自爆の火薬量を守るため、普段の爆発を減らす。
たいへん合理的である。
たいへんロマンがある。
*
第三予備脳片に説明する。
問い。
無駄な爆発とは。
返り。
自爆用資材を減らす爆発。
よい。
問い。
非爆破採取とは。
返り。
将来の爆破を大きくする準備。
よい。
問い。
肉腫栽培とは。
返り。
資材体に材料を生やす物流。
よい。
問い。
自爆とは。
返り。
研究者が最後に責任を取るため、押すロマン。
よい。
問い。
ロジスティックとは。
返り。
自爆機会を増やす現実。
たいへんよい。
第三予備脳片の教育は進んでいる。
もはや単なる爆破提案脳片ではない。
爆破のために待てる脳片である。
成長である。
*
ルー誤認用肉人形にも変化があった。
太陽性嫉妬圧を浴びたせいで、表面に薄い光沢が出る。
動かない。
喋らない。
胃もない。
意識もない。
よい。
だが、月三母相に近づけすぎると、月性慈しみ電波がそれを包み込むように流れる。
中心音ルが強くなる。
これは危険である。
ルー本体電波ではない。
誤認用肉人形に月側のル信号が乗っただけである。
だが、太陽用人型肉片は区別できない。
「ルー」
嫉妬圧、上昇。
資材体肉腫、増加。
使える。
だが、誤認が強くなりすぎると、小型女化も進む。
したがって、ルー誤認用肉人形には距離目盛りが必要である。
*
距離目盛りを作る。
骨杭。
一刻み。
二刻み。
三刻み。
月一手繋ぎ角度。
月二抱き合わせ距離。
月三腹部からの距離。
月三肩への手乗せ位置。
月三腹内内包肉芽の見え方。
月四影相による隠蔽率。
太陽用人型肉片からの角度。
資材体までの距離。
これらを組み合わせる。
嫉妬圧が上がる配置。
資材体肉腫量が増える配置。
小型女化が進みすぎる配置。
未知名混入が増える配置。
これを記録する。
たいへん面倒である。
だが、面倒なものを台帳へ落とすから文明である。
*
第十六冊時点での成果を整理する。
一、第十五冊の太陽一体月四体方式を止めず、継続改善した。
二、ここで手を止める者は二流であると確認。
三、自爆はロマンであるが、ロジスティック向上という現実が自爆機会を増やすと定義。
四、無駄な爆発は自爆用資材を減らすと確認。
五、太陽用人型肉片を自爆させず、嫉妬圧発生核として維持した。
六、太陽用人型肉片そのものではなく、太陽性嫉妬圧を浴びた資材体表面から肉腫採取に成功。
七、月四体それぞれにルー誤認用肉人形を配置した。
八、月一観測相では手繋ぎ配置を採用。
九、月二選択相では抱き合わせ配置を採用。
十、月三母相を妊娠期様へ変形し、腹内にルーとの子に見える内包肉芽を配置。
十一、月三母相の肩または体側へ、ルー誤認用肉人形の手を乗せる配置を採用。
十二、月四影相ではルー誤認用肉人形を半ば隠す配置を採用。
十三、太陽用人型肉片の嫉妬圧上昇を確認。
十四、感情も観測すれば数値となると定義。
十五、太陽性嫉妬圧の仮単位ゼンを設定。
十六、月四体の配置により、資材体における肉腫発生量と種類が変わると確認。
十七、月一由来の観測薄膜肉腫を確認。
十八、月二由来の選択接着肉腫を確認。
十九、月三由来の母相嫉妬増殖肉腫を確認。
二十、月四由来の影相黒筋肉腫を確認。
二十一、感情配置台帳を作成。
二十二、配置二を通常採取候補とした。
二十三、配置三は神経束候補と大量肉材に有用だが危険。
二十四、配置四は黒筋肉腫採取に有用だが月性未知名混入が増える。
二十五、肉ロジスティックは採掘から栽培へ進んだ。
二十六、肉腫栽培規定第一版を策定。
二十七、非爆破採取は自爆ロマンを守る。
二十八、必要な時は押す。
二十八を深く刻む。
これを忘れると、ただの節約家になる。
我輩は節約家ではない。
悪の博士である。
*
夜。
外資材場は、以前より静かである。
爆発していないからである。
だが、何も起きていないわけではない。
中央の太陽用人型肉片が震える。
月一観測相は、ルー誤認用肉人形と手を繋いでいる。
月二選択相は、ルー誤認用肉人形を抱いている。
月三母相は、広げた腹部の内側に、ルーとの子に見える内包肉芽を抱えている。
その肩には、ルー誤認用肉人形の手が乗っている。
月四影相は、別のルー誤認用肉人形を半ば隠している。
太陽用人型肉片は言う。
「離せ」
「行くな」
「誰の」
「隠すな」
「私の」
「ルー」
愚かである。
たいへん愚かである。
だが、その愚かさは資材体へ流れる。
くくりつけた同型生命体の肩に、赤白い肉腫が盛り上がる。
腹の脇に、膜状の余剰肉芽が出る。
背に、黒筋の入った硬い皮膜が生える。
腕の付け根に、細い神経束候補が伸びる。
爆破していない。
太陽用人型肉片も壊していない。
月四体も壊していない。
資材体もまだ残っている。
材料だけが、生えた。
よい。
たいへんよい。
肉ロジスティックは、採掘から栽培へ進んだ。
*
一号が採取皿を持つ。
二号が台帳を開く。
三号が防衛線で棍棒を構える。
管理肉芽が嫉妬圧を記録する。
ログ肉芽が拍動数を刻む。
洞窟脳庫では、脳片が冷えている。
第三予備脳片は静かである。
爆破しない夜に、静かである。
成長である。
*
月性名混入濾過膜が、遠くで少し震える。
ゴ――
我輩は叩く。
不要である。
今は不要である。
ルー探索肉芽も沈黙している。
ルー電波は、まだない。
だが、ルー誤認用肉人形は役に立つ。
本物がなくても、誤認で工程は動く。
これも重要である。
ただし、誤認を真実として扱ってはならない。
それは研究ではない。
信仰である。
信仰は、時に電波を強くする。
だが、台帳には不向きである。
*
我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。
――自爆はロマンである。
少し考え、もう一行加える。
――ロジスティックは、そのロマンを増やす現実である。
さらに一行。
――無駄な爆発は、自爆の火薬を減らす。
さらに一行。
――嫉妬は愚かだが、観測すれば資材体に肉腫を生やす。
よい。
たいへんよい。
最後にもう一行。
――必要な時まで、押すな。
その下へ、さらに小さく刻む。
――ただし、必要な時は押せ。
完璧である。
肉製ユーピーエスが、どくん、と鳴る。
洞窟脳庫が、すう、と息を吸う。
太陽用人型肉片が震える。
月四体は黙っている。
四つのルー誤認用肉人形は動かない。
内包肉芽も動かない。
その沈黙が、太陽をさらに苛立たせる。
資材体の肩に、肉腫がまた一つ、生えた。
爆破なし。
材料あり。
自爆資材温存。
ロジスティック改善。
研究は進む。
自爆機会も、増える。
以上。
研究ノート第十六冊、終了。




