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ドクトル・ゼンゼンマンの研究ノート 十五文化圏周縁抄  作者: 黒瀬 量衡


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第十五話 月四体問題、または太陽一体月四体による肉ロジスティック高速化

 研究は、始める前に八割が決まる。


 これは前世でも同じであった。


 怪人を作る前に、素材を揃える。


 素材を揃える前に、培養槽を洗う。


 培養槽を洗う前に、排水路を確認する。


 排水路を確認する前に、爆発時の逃げ道を見る。


 逃げ道を見る前に、赤いボタンの位置を決める。


 つまり、研究の八割は準備である。


 残り二割は、実験と、記録と、後始末と、爆発である。


 爆発は二割に収まらないこともある。


 それはよい。


 爆発には、伸びしろがある。


     *


 第十四冊において、我輩は洞窟脳庫を得た。


 外で肉を回す。


 内で脳を冷やす。


 外では太陽性毒電波を扱う。


 内では月性慈しみ電波を濾過する。


 外では爆破する。


 内では記録する。


 たいへんよい。


 たいへん基地らしい。


 だが、施設ができると、次の問題が見える。


 速度である。


 肉ロジスティックは成立した。


 資材体を固定する。


 部分爆破する。


 回収する。


 太陽性毒電波で雑に戻す。


 月性慈しみ電波で太陽性反応を早める。


 台帳に記録する。


 再び爆破する。


 この流れは正しい。


 しかし、遅い。


 研究は進む。


 施設は増える。


 洞窟脳庫は拡張を求める。


 配線溝は蓋を求める。


 ブレード脳ラックは第二号を求める。


 管理肉芽は分割を求める。


 第三予備脳片は爆破を求める。


 資材が足りない。


 そして、資材確保の周期が遅い。


 つまり、肉ロジスティックの高速化が必要である。


     *


 現状の律速段階を整理する。


 一、太陽性小型女の発生待ち。


 二、同型生命体群の誘引待ち。


 三、部分爆破後の資材体再生待ち。


 四、回収物の分類待ち。


 五、焦げ土の毒電波残響抜き待ち。


 六、皮膜乾燥待ち。


 七、骨片整形待ち。


 八、第三予備脳片がうるさい。


 八は工程ではない。


 だが、実際に遅延要因である。


 うるさい脳片は判断を乱す。


 判断が乱れると、爆破時機を誤る。


 爆破時機を誤ると、資材が減る。


 したがって、第三予備脳片の情操教育も物流である。


 肉ロジスティックは広い。


     *


 もっとも大きい遅延は、太陽性小型女の発生待ちである。


 旧濾過脳を置く。


 毒電波を溜める。


 月袋を近づける。


 発語前兆を待つ。


 ルーは何処、まで待つ。


 誘引する。


 爆破する。


 この工程が遅い。


 月袋で早まるとはいえ、まだ待ち時間がある。


 ならば、待ち時間を短縮する。


 そのためには、太陽性毒電波が人型へ泡立つ前段階を、あらかじめ用意しておけばよい。


 準備八割である。


 小型女が湧くのを待つのではない。


 小型女が湧きやすい型を、先に置く。


 つまり、人型肉片である。


     *


 人型肉片。


 よい。


 たいへんよい。


 たいへん悪い言葉でもある。


 だが、正確である。


 肉を人の形に近づける。


 完全な個体ではない。


 意識も不要。


 自律性も不要。


 胃も不要。


 口も不要。


 ただし、腕らしきもの。


 顔らしきもの。


 胸らしきもの。


 腹らしきもの。


 立っているように見える形。


 これがあると、電波は入りやすい。


 太陽性毒電波は、ただの肉塊より、人型に近い肉へ宿りやすい。


 月性慈しみ電波も、ただの粘液袋より、人型の受信体へ相を分けて残しやすい。


 高次存在は形に弱い。


 愚かである。


 形があるだけで、感情が入り込む。


 非常に愚かである。


 しかし、有用である。


     *


 今回作るものは五体。


 太陽用一体。


 月用四体。


 太陽一。


 月四。


 第十三冊の分類を、肉片として実装する。


 太陽用人型肉片。


 目的。


 一、太陽性毒電波を受ける。


 二、探索、執着、扇動、増殖、再生命令を濃縮する。


 三、小型女化の核となる。


 四、ただし完全自由化させない。


 五、必要時に爆破する。


 月用人型肉片。


 四体。


 観測相。


 選択相。


 母相。


 影相。


 目的。


 一、月性慈しみ電波を相ごとに受ける。


 二、太陽性人型肉片を煽る。


 三、未知名混入を記録する。


 四、ルー中心音の変化を見る。


 五、太陽性小型女発生速度を上げる。


 六、治療はしない。


 六は重要である。


 月は治さない。


 何度でも刻む。


     *


 材料を出庫する。


 肉ロジスティック台帳を開く。


 資材体二号、再生済み皮膜。


 資材体四号、部分爆破後肉片。


 骨片中、十六本。


 骨片小、多数。


 神経束、六本。


 硬化皮膜、五枚。


 焦げ土A、籠一つ。


 焦げ土B、隔離済み少量。


 太陽性旧濾過脳残響、少量。


 月袋粘液、四滴。


 毒電波遮断肉膜。


 小型自爆スイッチ五つ。


 赤い小起爆肉芽五つ。


 準備は多い。


 だが、これが八割である。


 準備を怠る者は、爆発後に材料を探す。


 準備をする者は、爆発前に材料を分類している。


 我輩は後者である。


 悪の博士とは、爆破前に台帳を書く者である。


     *


 まず、太陽用人型肉片を作る。


 骨片で芯を作る。


 頭。


 胴。


 腕。


 脚。


 脚は飾りでよい。


 歩かない。


 腕も動かない。


 ただし、手のような突起は必要である。


 太陽性小型女は、指を作りたがる。


 指から出る。


 顔も必要である。


 目の窪み。


 口の裂け目。


 声が出る孔。


 声が出すぎると困るので、孔は小さくする。


 腹に旧濾過脳残響を埋める。


 胸に太陽性毒電波濃縮肉膜を巻く。


 背に焦げ土減衰板。


 足元に小型自爆スイッチ。


 額に赤い小起爆肉芽。


 赤い。


 よい。


 ただし仮蓋は濁っている。


 まだ透明ではない。


 不満である。


     *


 太陽用人型肉片を立てる。


 完全な女ではない。


 肉片である。


 だが、太陽性毒電波を当てると、顔の窪みが震える。


 探せ。


 戻れ。


 見つけろ。


 増えろ。


 ルー。


 早い。


 非常に早い。


 人型にしておくと、発語前兆が早い。


 仮説通りである。


 我輩は記録する。


 ――太陽性毒電波、人型構造により濃縮速度上昇。


 ――顔孔、発語前兆を誘導。


 ――指状突起、白化開始点として機能。


 ――小型女化核として有用。


 ――完全自由化前に制御可能。


 よい。


 非常によい。


 準備八割である。


     *


 次に、月用人型肉片を四体作る。


 月一。


 観測相。


 目の窪みを大きくする。


 顔は正面ではなく少し横を向ける。


 遠くを見るためである。


 月二。


 選択相。


 片腕を前へ伸ばした形。


 境界を越える波を受ける。


 月三。


 母相。


 腹部を広くする。


 腕を内側へ曲げる。


 抱く形である。


 月四。


 影相。


 頭を少し伏せる。


 胸に影用焦げ土を薄く塗る。


 欠ける波を受ける。


 四体とも、歩かない。


 喋らない。


 治さない。


 ただ、受ける。


 月性慈しみ電波を相ごとに受ける。


 そして、太陽用人型肉片を煽る。


 たいへん嫌な装置である。


 たいへん有用である。


     *


 五体を棚に置く。


 場所は外資材場。


 洞窟脳庫には入れない。


 未知名混入が起きるからである。


 太陽用人型肉片を中央。


 月一を北側。


 月二を東側。


 月三を南側。


 月四を西側。


 意味はない。


 いや、意味はある。


 配置には意味が必要である。


 北は見る。


 東は進む。


 南は抱く。


 西は沈む。


 適当である。


 だが、配置に名を与えると運用しやすい。


 運用しやすければよい。


     *


 月袋を四体の上へ薄く吊るす。


 月性慈しみ電波が降りる。


 観測相。


 月一が震える。


 選択相。


 月二の腕がわずかに伸びる。


 母相。


 月三の腹が膨らむ。


 影相。


 月四の焦げ土が黒く濡れる。


 よい。


 四相分離、成功。


 治癒反応なし。


 資材体には変化なし。


 切断面も閉じない。


 やはり月は治さない。


 ただし、中央の太陽用人型肉片が騒ぎ始めた。


 早い。


 非常に早い。


 月四体が周囲にあるだけで、太陽用人型肉片の赤筋が増える。


 発語前兆。


 戻れ。


 探せ。


 見つけろ。


 ルー。


 よい。


 たいへんよい。


     *


 ここで、予想外の現象が起きた。


 太陽用人型肉片が、月三へ顔を向けた。


 顔、といっても肉の窪みである。


 だが、向いた。


 そして、女の声に近い湿った音を出した。


「妹」


 ほう。


 太陽性残滓は、月性母相に対して妹信号を返す。


 続けて、月一にも反応した。


「見ているの」


 月二へ。


「行くの」


 月四へ。


「隠すの」


 発語が早い。


 明確である。


 太陽性人型肉片は、月四体を妹として認識している。


 あるいは、妹に相当する対象として認識している。


 しかし、その波形は姉妹愛ではない。


 姉の慈しみでもない。


 保護でもない。


 明らかに、奪取である。


 横恋慕である。


 妹の持つものを欲しがっている。


 妹の内にあるものを見ている。


 妹を見ているのではない。


 妹が抱いているルーを見ている。


 愚かである。


 たいへん愚かである。


     *


 我輩は記録する。


 ――太陽性人型肉片、月性四相体を妹相当として認識。


 ――ただし保護信号ではない。


 ――主成分、奪取、嫉妬、探索、横恋慕。


 ――月三母相への反応、強。


 ――月四影相への反応、不快および追跡。


 ――月一観測相への反応、被観測嫌悪。


 ――月二選択相への反応、追跡欲求。


 ――姉として接しているように見えるが、明らかに妹の所有物を欲しがっている。


 ――愚か。


 愚かを深く刻む。


 科学的語ではない。


 だが、必要である。


 高次存在の感情干渉を記録するには、時に愚かという語が最も正確である。


     *


 太陽用人型肉片が、さらに騒ぐ。


「返して」


「私を見る」


「今度こそ」


「ルー」


 月四体は喋らない。


 月性慈しみ電波は、静かに震えるだけである。


 見る。


 戻す。


 包む。


 隠す。


 太陽性残滓は、それを挑発として受ける。


 月が黙るほど、太陽が騒ぐ。


 月が包むほど、太陽が奪おうとする。


 月が隠すほど、太陽が探す。


 構造としては単純である。


 姉が妹の持つものを横から欲しがっている。


 幼稚である。


 高次存在とは、もっと高次であるべきではないか。


 我輩は思う。


 だが、前世の悪の秘密結社幹部も、会議室で同じ菓子を取り合っていた。


 高次も低次も、欲しいものを前にすると大差ないのかもしれない。


     *


 実験の成果は明確であった。


 太陽用一体のみ。


 発語前兆まで三日相当。


 太陽用一体+月袋。


 発語前兆まで二日相当。


 太陽用一体+月四体。


 発語前兆まで一日未満。


 太陽用一体+月四体+月袋。


 発語前兆まで半日相当。


 小型女化危険、非常に高。


 誘引性、高。


 資材体再生用太陽性毒電波量、高。


 危険。


 有用。


 非常に有用。


 準備八割の勝利である。


 太陽性小型女を発生させるのではなく、発生しやすい場を作る。


 場を作れば、待ち時間が減る。


 待ち時間が減れば、資材周期が短くなる。


 資材周期が短くなれば、開発環境が加速する。


 開発環境が加速すれば、洞窟脳庫が広がる。


 洞窟脳庫が広がれば、我輩はさらに研究できる。


 完璧である。


     *


 ただし、危険も増えた。


 太陽用人型肉片は、小型女化が早い。


 月四体は、それを煽る。


 月性未知名混入も増える。


 ゴードン。


 待つ。


 止まる。


 壊さない。


 来ない。


 また濾過膜に引っかかった。


 我輩は叩く。


 不要である。


 今は不要である。


 だが、月四体を作ったことで、月性信号の解像度が上がった。


 遠い名が引っかかりやすくなった。


 これは副作用である。


 月電波は治療しない。


 月電波は太陽を煽る。


 月電波は名を運ぶ。


 そして、月四体に分けると、より細かい名を運ぶ。


 面倒である。


 非常に面倒である。


 だが、効率は上がる。


 我輩は苦い顔をした。


 肉の顔なので、どれほど苦く見えるかは不明である。


     *


 ここで、さらに重要な欠落が見えた。


 ルーである。


 太陽性人型肉片はルーを探す。


 月性四相体は、中心音ルを抱く。


 太陽はルーを欲しがる。


 月はルーを戻し、包み、隠す。


 だが、ルーそのものの電波がない。


 ルーという存在から出る電波。


 それは検出されていない。


 太陽が叫ぶルー。


 月が抱くル。


 これらは、太陽側と月側の信号である。


 対象そのものの発信ではない。


 ここを混同してはならない。


 太陽が「ルー」と叫んでいるからといって、ルーがそこにいるわけではない。


 月が「ル」を抱いているからといって、ルーの本体信号を受けているとは限らない。


 現時点では、ルー電波なし。


 これは重要である。


     *


 我輩は受信用肉芽を増やす。


 太陽性。


 月性。


 第三系統。


 未知対象ルー探索用。


 しかし、反応はない。


 太陽用人型肉片は騒ぐ。


 月四体は震える。


 資材体は鳴く。


 同型生命体群は寄る。


 第三予備脳片は爆破を求める。


 だが、ルーそのものの電波はない。


 沈黙である。


 無信号。


 欠落。


 これは惜しい。


 もしルー本体、またはルー由来信号を捕捉できれば、太陽性小型女の発生速度はさらに上がる可能性がある。


 月性四相の解像度も上がる可能性がある。


 資材体再生も、より強く、あるいはより安定して進む可能性がある。


 誘引性も増すであろう。


 危険も増すであろう。


 つまり、極めて有用である。


 だが、ない。


 ないものは使えない。


 ないものを前提に工程を組む者は、無能である。


 前世の幹部はよくやった。


「博士、伝説の素材が手に入る予定だから、それを前提に怪人を作れ」


 手に入ってから言え。


     *


 したがって、現行の肉ロジスティックは、ルー電波なしで最適化する。


 太陽一体。


 月四体。


 月袋。


 太陽性旧濾過脳。


 資材体固定区画。


 部分爆破線。


 太陽性弱照射棚。


 月性名混入濾過膜。


 未知対象ルー探索肉芽。


 これらを並べる。


 新しい配置はこうである。


 中央、太陽用人型肉片。


 外周、月四体。


 その外側、資材体。


 さらに外側、防衛線。


 太陽用人型肉片の背後に、太陽性旧濾過脳。


 月四体の上に、月袋。


 地面には焦げ土A。


 汚染焦げ土Bは隔離。


 逃がし路は外。


 爆破線は内向き。


 月性未知名は濾過して洞窟へ入れない。


 太陽性毒電波は減衰して資材体へ当てる。


 小型女化したら、爆破する。


 準備八割である。


     *


 第一回高速化試験。


 太陽用人型肉片、発語前兆。


「戻れ」


「探せ」


「ルー」


 まだ完全ではない。


 月一観測相が震える。


 月二選択相が腕をわずかに伸ばす。


 月三母相が腹を膨らませる。


 月四影相が黒く濡れる。


 太陽用が怒る。


「隠すな」


 同型生命体群が寄る。


 資材体五号が鳴く。


 三号が棍棒を地面に打つ。


 どん。


 一部は止まる。


 だが、誘引性が高い。


 数体が部分爆破線へ入る。


 よい。


 密度、適正。


 我輩は小型起爆肉芽の仮蓋を開ける。


 赤い。


 押すな札。


 端末退避。


 洞窟脳庫遮断。


 月性名混入濾過膜閉鎖。


 太陽性減衰板、半閉。


 準備完了。


 押す。


     *


 爆発。


 中小爆発。


 よい。


 資材体五号の片腕が飛ぶ。


 外から入った同型生命体二体が半資材化。


 太陽用人型肉片は裂けるが、核は残る。


 月四体は保護膜で無事。


 小型女化は完全化前に阻止。


 焦げ土少。


 肉片中。


 骨片小。


 神経束一本。


 硬化皮膜少。


 太陽性残響、多。


 危険。


 だが、再利用可能。


 発生核が残っている。


 つまり、次回の発生がさらに早い可能性がある。


 すばらしい。


 爆破しても核を残す。


 資材体だけでなく、太陽用人型肉片も再利用できる。


 これは大きい。


     *


 第二回高速化試験。


 太陽用人型肉片、前回裂けたまま。


 焦げ土で被覆。


 太陽性旧濾過脳残響を少量追加。


 月四体はそのまま。


 月袋を少し近づける。


 発語前兆。


 早い。


 非常に早い。


 前回より早い。


 裂けた太陽用人型肉片は、発生核として育っている。


 危険である。


 有用である。


 発語。


「妹」


「返して」


「ルー」


 またである。


 月三母相への横恋慕反応、強。


 月四影相への敵意、強。


 月一観測相への不快、強。


 月二選択相への追跡、強。


 愚か。


 しかし、誘引性は高い。


 資材体再生用太陽性毒電波も増える。


 肉ロジスティックの効率は上がっている。


 感情が愚かでも、物流に貢献するなら採用である。


     *


 開発環境が加速する。


 材料待ちが減る。


 焦げ土の供給が安定する。


 骨片が増える。


 硬化皮膜も増える。


 神経束の確保も進む。


 資材体の再生周期も短くなる。


 洞窟脳庫の配線溝拡張に着手できる。


 ブレード脳ラック第二号も見えてきた。


 管理肉芽分割も可能である。


 時刻肉芽の複製も作れる。


 洞窟門番肉芽に警告表示を追加できる。


 赤いボタンの仮蓋も、より硬いものへ更新できる。


 透明ではない。


 まだ透明ではない。


 しかし、近づいている。


 全ては準備である。


 準備が八割。


 爆破は、その準備を現実に変える二割である。


 よい。


 たいへんよい。


     *


 太陽用人型肉片と月四体の管理規定を作る。


 一、太陽用人型肉片は中央棚に固定する。


 二、月四体は観測、選択、母、影の順に配置する。


 三、月四体は治療装置ではない。


 四、月四体は太陽性反応促進材である。


 五、太陽用人型肉片は小型女化前に処理する。


 六、完全自由化させてはならない。


 七、太陽用人型肉片が月三へ執着した場合、発生速度上昇の兆候と見る。


 八、太陽用人型肉片が「妹」と発語した場合、防衛線を強化する。


 九、太陽用人型肉片が「返して」と発語した場合、爆破準備。


 十、「ルーは何処」と明瞭に発語した場合、即時または密度確認後に爆破。


 十一、ルー本体電波は未検出。


 十二、未検出のものを工程前提にしない。


 十三、ただし探索は続ける。


 十四、月性未知名混入は洞窟へ通さない。


 十五、愚かな感情でも、物流に寄与するなら使う。


 十五は重要である。


 高次存在の尊厳より、研究資材の安定供給である。


     *


 第三予備脳片は、今回の実験に満足している。


 小爆発。


 中小爆発。


 制御爆破。


 自爆スイッチ。


 赤い起爆肉芽。


 処理手順。


 これらが定期的に発生するからである。


 ただし、第三予備脳片は全体爆破をまだ諦めていない。


 洞窟を爆破区画と誤認しないよう、引き続き教育が必要である。


 我輩は第三予備脳片へ問いを送る。


 洞窟とは。


 返り。


 冷たい脳庫。


 よい。


 爆破区画とは。


 返り。


 外。


 よい。


 赤いボタンとは。


 返り。


 研究者が最後に責任を取るため、押すロマン。


 よい。


 準備とは。


 返り。


 爆破を美しくする八割。


 たいへんよい。


 教育成果あり。


     *


 第十五冊時点での成果を整理する。


 一、肉ロジスティックの律速段階を確認。


 二、準備八割の原則を研究場運用へ導入。


 三、太陽用人型肉片一体を作成。


 四、月用人型肉片四体を作成。


 五、月四体を観測相、選択相、母相、影相に分けて配置。


 六、人型構造により太陽性毒電波濃縮速度が上がると確認。


 七、太陽用人型肉片と月四体の組み合わせにより、小型女発生速度が大幅に向上。


 八、月袋併用により発語前兆がさらに早まると確認。


 九、太陽用人型肉片は月四体を妹相当として認識する。


 十、ただし主成分は姉妹愛ではなく、奪取、嫉妬、探索、横恋慕である。


 十一、愚か。


 十二、しかし肉ロジスティック向上に貢献。


 十三、ルー本体またはルー由来電波は未検出。


 十四、太陽側と月側のルー信号は、対象そのものの発信ではなく、各々の執着および内包信号であると区別。


 十五、もしルー電波を検出できれば、発生速度、誘引効率、資材体再生工程がさらに加速する可能性あり。


 十六、未検出のものを工程前提にしない。


 十七、太陽用人型肉片の核を残すことで、次回発生が早まる可能性あり。


 十八、太陽一体月四体方式を、肉ロジスティック高速化装置として採用。


 十九、月性未知名混入は引き続き濾過。


 二十、準備は八割。


 二十を深く刻む。


 これは基本である。


     *


 夜。


 外資材場には、五つの人型肉片が並んでいる。


 中央に太陽用。


 周囲に月四体。


 月一は見る。


 月二は伸ばす。


 月三は抱く。


 月四は隠す。


 太陽用人型肉片は、裂けた顔孔を震わせる。


「妹」


「返して」


「ルー」


 愚かである。


 たいへん愚かである。


 だが、その愚かさが同型生命体を集める。


 太陽性毒電波を濃くする。


 資材体の肉を雑に戻す。


 爆破の時機を早める。


 物流を加速する。


 ならば、使う。


     *


 洞窟脳庫の奥では、脳片が冷えている。


 月性未知名混入濾過膜が、時々震える。


 ゴ――


 我輩は叩く。


 不要である。


 今は不要である。


 だが、未知対象ルー探索肉芽は沈黙している。


 ルー電波なし。


 太陽は叫ぶ。


 月は抱く。


 だが、ルーそのものは沈黙。


 不在か。


 遠いのか。


 消えたのか。


 変質したのか。


 まだ受信器が粗いのか。


 不明である。


 不明は不明と記録する。


 分からぬものを分かったことにする者は、研究者ではない。


 予言者である。


 予言者はよく迷惑をかける。


     *


 我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。


 ――準備八割、爆破二割。


 少し考え、もう一行加えた。


 ――太陽一体、月四体を棚に置けば、肉は早く回る。


 さらに一行。


 ――姉の横恋慕は愚かだが、物流には使える。


 よい。


 たいへんよい。


 さらに一行。


 ――ルー電波、未検出。


 さらに一行。


 ――検出できれば、さらに加速の可能性あり。


 完璧である。


 太陽用人型肉片が震える。


 月四体が白く沈黙する。


 資材体五号が鳴く。


「ギ」


 三号が棍棒を地面に打つ。


 どん。


 五号は黙る。


 洞窟脳庫が、すう、と息を吸う。


 肉製ユーピーエスが、どくん、と鳴る。


 第三予備脳片が、次の爆破予定を静かに待つ。


 待てるようになった。


 よい。


 開発環境は加速した。


 物流は速くなった。


 準備は整いつつある。


 次は、より大きな管理である。


 そして、いつか透明な蓋である。


 以上。


 研究ノート第十五冊、終了。

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