第十三話 月は無慈悲な肉ロジスティック、または慈しみ電波による定期資材確保
材料は、使えば減る。
これは当然である。
骨を棚にする。
肉を端末にする。
神経糸を配線にする。
皮膜を蓋にする。
焦げ土を防臭にする。
粘液管を冷却に使う。
そうすれば、材料は減る。
材料が減れば、研究は止まる。
研究が止まれば、我輩は不機嫌になる。
我輩が不機嫌になると、赤いボタンを見たくなる。
危険である。
したがって、材料は定期的に確保しなければならない。
臨時では駄目である。
拾うだけでは駄目である。
偶然死んだ同型生命体を待つのも駄目である。
資材確保は、物流でなければならない。
肉の物流。
肉ロジスティックである。
よい。
たいへんよい。
少し嫌な言葉である。
だが、正確である。
*
第十二冊において、我輩は小型女を意図的に発生させた。
旧濾過脳。
毒電波。
祝福残滓。
発語。
「ルーは何処」
同型生命体群の誘引。
爆破予定区画への集積。
制御爆破。
焦げ土。
骨片。
肉片。
神経束。
硬化皮膜。
成果は良好であった。
たいへん良好であった。
施設は拡張された。
防衛線は太くなった。
黒骨筒棚は乾いた。
配線溝は補修された。
第三予備脳片も、一時的に静かになった。
爆破は有用である。
しかし、一度の爆破では足りない。
施設は育つ。
装置は増える。
端末は増える。
棚は増える。
管理肉芽は熱を持つ。
熱を持てば冷却が要る。
冷却が増えれば配管が要る。
配管が増えれば配線溝が要る。
配線溝が増えれば蓋が要る。
蓋が要れば皮膜が要る。
皮膜が要れば同型生命体が要る。
同型生命体が要れば、集めて、焼いて、砕いて、分類しなければならない。
そして、減りすぎないように戻さなければならない。
すなわち、定期資材確保である。
*
問題は発信源である。
第三冊と第十二冊の小型女は、どこから来たのか。
旧濾過脳に毒電波が溜まったから湧いた。
これは正しい。
だが、毒電波そのものはどこから来るのか。
同型生命体の中に最初からあるのか。
巣全体から出ているのか。
大地から染みるのか。
空から降るのか。
高次存在の迷惑恋愛感情が、世界のどこかから垂れ流されているのか。
おそらく最後である。
迷惑である。
非常に迷惑である。
しかし、迷惑であることと、利用できないことは同じではない。
発信源を特定できれば、濾過できる。
濾過できれば、蓄積できる。
蓄積できれば、発生させられる。
発生させられれば、誘引できる。
誘引できれば、爆破できる。
爆破できれば、資材が手に入る。
さらに、残った肉を戻せれば、次の資材も手に入る。
美しい流れである。
*
我輩は毒電波測定を開始した。
測定器。
毒電波受信用肉芽。
方向検出用神経糸。
焦げ土遮蔽板。
骨粉絶縁層。
濾過済み粘液。
パリティ肉芽補助。
ログ肉芽記録。
二号視覚確認。
三号防衛。
一号は殴打用骨片を持って待機。
測定対象。
一、通常同型生命体群。
二、旧濾過脳。
三、焦げ土B隔離袋。
四、小型女残響区画。
五、夜。
六、月明かり。
七、朝の直射光。
八、濾過脳を意図的に汚染させたもの。
八は危険である。
だが、必要である。
研究とは、危険なものを危険と知った上で、少し離して置き、記録し、必要なら爆破する行いである。
*
まず、通常毒電波。
食え。
増えろ。
壊せ。
奪え。
巣を広げろ。
人類を滅ぼせ。
雑である。
相変わらず雑である。
目的関数が粗い。
実行計画がない。
感染対策がない。
補給線がない。
廃棄手順がない。
人類を滅ぼすと研究対象が減るという理解もない。
毒電波である。
発信方向。
全方向。
ただし、昼に強い。
熱のある時に強い。
同型生命体が群れている時に増幅する。
血と臭いと鳴き声に乗る。
これは太陽性毒電波と仮称する。
太陽。
熱。
探す。
焼く。
増やす。
騒がせる。
戻せ。
肉を閉じろ。
形を増やせ。
ルーを探す。
周囲を巻き込む。
たいへん迷惑である。
たいへん危険である。
だが、肉は動く。
*
次に、夜の測定である。
月が出ていた。
白い光。
湿った森。
焦げ跡施設。
肉製ユーピーエスの拍動。
ブレード脳ラックの粘液音。
遠くの同型生命体の鳴き声。
我輩は受信用肉芽を月明かりに向けた。
すると、別の波が来た。
毒ではない。
少なくとも、太陽性毒電波とは違う。
食え、ではない。
壊せ、ではない。
増えろ、ではない。
人類を滅ぼせ、でもない。
見る。
包む。
戻す。
名を保つ。
失ったものを内へ戻す。
薄い。
静か。
しつこい。
これは何か。
我輩はしばらく考えた。
慈しみである。
慈しみ。
似合わぬ語である。
我輩の研究場には似合わない。
だが、波形としてはそう呼ぶしかない。
月性慈しみ電波。
長い。
良い。
*
ただし、ここで重要なことを記す。
月性慈しみ電波は、同型生命体を治さない。
切断面を閉じない。
肉芽を盛らせない。
骨を伸ばさない。
皮膜を戻さない。
資材体を回復させない。
これは重要である。
慈しみという語に騙されてはならない。
慈しむことと、治すことは違う。
月は見る。
包む。
戻す。
名を保つ。
だが、この肉を増やさない。
この肉を閉じない。
この肉を再生させない。
再生させるのは、別の波である。
太陽性毒電波。
探せ。
見つけろ。
増えろ。
戻れ。
肉を閉じろ。
形を戻せ。
たいへん雑で、たいへん危険で、たいへんうるさい。
だが、資材体の再生には効く。
つまり、月性慈しみ電波は治療装置ではない。
太陽性反応を早める誘発材である。
*
月性慈しみ電波は、一つではなかった。
四つある。
正確には、四つの相がある。
第一波。
遠くを見る波。
見つける。
観測する。
名をまだ持たぬものへ目を向ける。
我輩はこれを観測相とした。
第二波。
近づく波。
選ぶ。
境界を越える。
ためらいながらも手を伸ばす。
我輩はこれを選択相とした。
第三波。
包む波。
守る。
抱く。
胎内へ戻す。
名を保つ。
我輩はこれを母相とした。
第四波。
隠す波。
欠ける。
影を通す。
壊れたものを一度暗くして、戻す。
我輩はこれを影相とした。
四つである。
月の四体。
いや、体と呼ぶべきかは不明である。
四つの波。
四つの顔。
四つの電波。
いずれにせよ、月側は四である。
太陽側は一である。
単純な一。
しつこい一。
探せ、焼け、見つけろ、奪え、増えろ、ルー。
太陽は一つで、たいへんうるさい。
月は四つで、たいへん面倒である。
*
月性慈しみ電波を、さらに細かく読む。
読む、といっても文字ではない。
声でもない。
祈りでもない。
波である。
白く、薄く、しつこく、こちらの肉芽へ染みる波である。
我輩は受信用肉芽を四つに分けた。
観測用。
選択用。
母性用。
影用。
それぞれに月明かりを通し、濾過済み粘液を流し、骨粉板へ震えを刻ませる。
一晩。
二晩。
三晩。
骨粉板に残った震えを比較する。
すると、月性慈しみ電波の中に、同じ音が何度も戻ってくることが分かった。
ル。
また、ル。
さらに、ル。
これは名ではない。
少なくとも、我輩が知る固有名ではない。
だが、電波の中心にある。
月性慈しみ電波の四相すべてが、その中心音を抱いている。
第一波。
遠くを見る。
ルを見落とさない。
第二波。
境界を越える。
ルへ近づく。
第三波。
内へ戻す。
失われたルを抱く。
第四波。
影に隠す。
壊れたルを、消さずに戻る時まで保つ。
我輩は記録した。
――月性慈しみ電波、中心音ルを含む。
――第一相、外部に広がったものを見る。
――第二相、境界を越えて選ぶ。
――第三相、失われたものを内包する。
――第四相、欠けたものを影に入れ、回復まで保つ。
ここで、さらに奇妙なことが分かった。
月性慈しみ電波は、ルだけを見ているのではない。
ルから広がったものも見ている。
枝。
子。
血。
名。
母から子へ続く線。
月の波は、それらを順に撫でる。
見落とさないように。
消えないように。
戻れるように。
包めるように。
つまり、解読結果はこうである。
ルーを内に抱く月。
ルーの子らを見る月。
戻す月。
包む月。
これは神話ではない。
少なくとも、我輩の研究ノート上では神話ではない。
月性慈しみ電波の波形解読結果である。
高次存在の感情が、電波として漏れ、肉芽で読めてしまっただけである。
迷惑である。
非常に迷惑である。
だが、使える。
*
我輩は骨片に記録した。
――太陽性毒電波、一系統。
――主成分、探索、執着、扇動、増殖、破壊、再生。
――発語傾向、ルーは何処。
――同型生命体群を誘導しやすい。
――資材体の肉を雑に戻しやすい。
――施設に有害。
――ただし資源回収および再生工程に有用。
次。
――月性慈しみ電波、四相。
――第一、観測相。遠くを見る。
――第二、選択相。境界を越える。
――第三、母相。包み、戻す。
――第四、影相。欠け、隠し、回復へ向かう。
――中心音ルを含む。
――ルから広がった子、血、名、母子線を追跡する波形あり。
――毒性は低い。
――同型生命体を治癒しない。
――資材体を再生させない。
――ただし、太陽性毒電波との干渉あり。
干渉。
ここが重要である。
月性慈しみ電波を旧濾過脳の近くへ置くと、太陽性小型女の発生が早まる。
これは偶然ではない。
*
実験する。
旧濾過脳を二つ用意する。
甲。
月性慈しみ電波遮蔽。
乙。
月性慈しみ電波曝露。
どちらも太陽性毒電波蓄積量は同程度。
どちらも爆破予定区画の小隔離棚へ置く。
甲には焦げ土遮蔽板。
乙には月明かりを通す骨枠。
夜を待つ。
一晩。
二晩。
甲は黒ずむ。
通常通り。
乙は、二晩目で赤い筋が出た。
三晩目を待たずに、発語前兆。
戻れ。
探せ。
見つけろ。
ルー。
早い。
非常に早い。
月の慈しみが近いと、太陽の執着が騒ぐ。
姉妹喧嘩である。
高次存在の痴話喧嘩である。
実に迷惑である。
しかし、有用である。
*
結論。
月性慈しみ電波は、太陽性毒電波を鎮めるのではない。
場合によっては、煽る。
太陽側から見れば、月の慈しみは挑発である。
解読結果によれば、月性慈しみ電波は、失われたルを内に抱いている。
ルから広がった子らを見る。
戻す。
包む。
太陽性毒電波は、それに反応する。
探せ。
見つけろ。
奪え。
増えろ。
戻せ。
今度こそ私を見る。
ルーは何処。
早まる。
小型女が早く湧く。
たいへん迷惑である。
たいへん便利である。
我輩は骨片に刻んだ。
――月性慈しみ電波を太陽性毒電波濾過脳近傍に置くと、小型女発生が早まる。
――理由、高次存在間感情干渉と思われる。
――月性側は内包、観測、回帰、包摂の波形を持つ。
――太陽性側はそれを挑発として受信する。
――実務上、太陽性小型女発生促進材として有用。
――月性電波に治癒効果なし。
――神話解釈は不要。
――資源回収効率、向上。
*
次の問題は、同型生命体の使い方である。
第十二冊では、多数を爆破した。
材料は得た。
しかし、全て吹き飛ばすと、次の材料が減る。
これは物流として未熟である。
一回で倉庫を焼き尽くす商人はいない。
一回で畑を掘り尽くす農夫もいない。
一回で怪人を全て出撃させる幹部はいた。
負けた。
当然である。
資源は、再生させながら使うべきである。
同型生命体には再生性がある。
完全に木っ端微塵にすると、材料になる。
だが、原型が少し残る程度に吹き飛ばすと、しばらくして戻る。
戻る。
増える。
また使える。
そして、その戻りを促すのは月ではない。
太陽である。
たいへん迷惑な太陽性毒電波である。
これは重要である。
非常に重要である。
我輩は新しい分類を置いた。
全資源化爆破。
部分資源化爆破。
生残再生爆破。
最後が今回の主題である。
*
生残再生爆破。
目的。
一、同型生命体を殺し切らない。
二、ただし不要部位を飛ばす。
三、焦げ土と骨片と肉片を回収する。
四、残存本体を太陽性毒電波で再生させる。
五、再生後、再び資源化する。
六、くくりつけて逃がさない。
七、太陽性小型女発生時の誘引体として再利用する。
八、月性慈しみ電波により太陽性小型女の発生を早める。
すばらしい。
肉ロジスティックである。
完全な屠殺ではない。
完全な飼育でもない。
資材発生体の管理である。
少し邪悪である。
だが、我輩は悪の博士である。
問題ない。
*
対象を選ぶ。
同型生命体のうち、大きすぎるものは危険。
小さすぎるものは材料が少ない。
動きすぎるものはくくりにくい。
泥を食いすぎるものは不衛生。
鳴きすぎるものは毒電波を増幅する。
したがって、中型で、鈍く、再生性が高く、鳴き声が短い個体を選ぶ。
端末三号が棍棒で足を止める。
一号が骨片縄を掛ける。
二号が記録する。
管理肉芽が識別番号を振る。
資材体一号。
資材体二号。
資材体三号。
資材体四号。
資材体五号。
よい。
ついに同型生命体が資材台帳に載った。
文明である。
*
くくりつける場所を作る。
資材体固定区画。
爆破予定区画の外縁。
防衛線の内側ではない。
研究場中央からは遠い。
ただし、太陽性旧濾過脳発生棚からは近い。
月性慈しみ電波を当てる場所からも近い。
近すぎると危険。
遠すぎると効率が悪い。
焦げ土で床を乾かす。
骨杭を打つ。
神経糸は使わない。
噛まれるからである。
骨片縄と硬化皮膜帯を使う。
首は危険。
胴を固定。
腕は少し動く。
脚は動きすぎない。
口には苦味粘液を塗る。
泥食いを減らすためである。
これで資材体は逃げにくい。
完全に動けないわけではない。
動けないと再生が鈍る可能性がある。
適度に動かす。
適度に傷める。
適度に太陽性毒電波を当てる。
適度に戻す。
適度とは難しい。
だが、肉ロジスティックには必要である。
*
月性慈しみ電波を近くへ置く。
置くと言っても、月そのものは置けない。
当然である。
そこで、月性慈しみ電波を受けた濾過済み粘液を使う。
月明かりに晒した骨粉。
影相を通した焦げ土。
母相に反応した薄い肉膜。
観測相で震えた受信用肉芽。
これらを組み合わせ、小さな月性慈しみ電波蓄積袋を作る。
名称。
月袋。
短い。
悪くない。
正式名。
月性慈しみ電波蓄積袋。
長い。
良い。
通称は月袋でよい。
月袋を資材体固定区画の上へ吊るす。
資材体は回復しない。
切断面も閉じない。
粘液も増えない。
鳴き声も、たいして減らない。
月袋は治療具ではない。
月袋は、太陽を騒がせるための釣り餌である。
慈しみの釣り餌。
ひどい言葉である。
だが、正確である。
*
次に、太陽性毒電波を弱く当てる装置を作る。
太陽性旧濾過脳。
毒電波濃縮肉膜。
焦げ土減衰板。
骨粉遮蔽板。
赤い緊急切断肉芽。
小型女化防止用抑制紐。
最後が重要である。
太陽性毒電波を資材体へ当てたい。
だが、小型女を自由化させたいわけではない。
小型女は誘引には使える。
だが、常時出ていられると迷惑である。
したがって、太陽性毒電波を薄く漏らす。
小型女が完全に湧く前の発語前兆程度で止める。
戻れ。
探せ。
見つけろ。
増えろ。
肉を閉じろ。
このあたりの雑な命令だけを使う。
ルーは何処、まで行くと誘引性が強すぎる。
危険である。
資材体再生には、発語前段階が適切と思われる。
仮説である。
実験する。
*
実験。
資材体一号。
月袋なし。
太陽性毒電波なし。
部分爆破後、再生遅い。
肉片回収、中。
骨片回収、少。
鳴き声、多。
泥食い動作、多。
資材体二号。
月袋あり。
太陽性毒電波なし。
再生、変化なし。
肉片回収、中。
骨片回収、中。
鳴き声、変化少。
泥食い動作、変化少。
月袋だけでは治らない。
確認。
資材体三号。
太陽性毒電波あり。
月袋なし。
再生、やや促進。
ただし暴れやすい。
鳴き声増加。
周辺同型生命体誘引、中。
危険。
資材体四号。
月袋あり。
太陽性旧濾過脳近傍。
太陽性小型女発生が早すぎる。
同型生命体誘引、強。
再生、速い。
危険。
ただし、資源回収量、大。
資材体四号は良い。
たいへん良い。
ただし危険。
危険なほど有用。
研究とはそういうものである。
*
結論。
月袋は治さない。
太陽性毒電波が治す。
いや、治すという語は不正確である。
太陽性毒電波は治療しない。
再生を命じる。
増殖を命じる。
形を戻せと命じる。
雑に命じる。
結果として、肉が閉じる。
骨が伸びる。
皮膜が張る。
しかし、きれいではない。
曲がる。
余る。
腫れる。
時々、余計な肉芽が出る。
これは治癒ではない。
増殖性修復である。
たいへん危険である。
たいへん実用的である。
我輩は骨片に深く刻んだ。
――月袋、治癒効果なし。
――太陽性毒電波、資材体再生促進効果あり。
――ただし治癒ではなく、雑な増殖性修復。
――過剰照射で小型女発生、誘引、暴走の危険あり。
――月袋は太陽性反応促進材として用いる。
*
部分爆破の調整を行う。
爆破量が大きすぎると全資源化する。
小さすぎると材料が少ない。
残しすぎると資材体が暴れる。
削りすぎると再生しない。
太陽性毒電波を当てすぎると、余計な肉芽が出る。
月袋を近づけすぎると、小型女が早く湧きすぎる。
我輩は爆破段階を定義した。
第一段階。
皮膜剥離。
軽い。
焦げ土少。
太陽照射少量で戻る。
第二段階。
腕部欠損。
肉片多。
骨片少。
太陽照射で再生中。
第三段階。
片脚破断。
骨片多。
逃走防止にもなる。
太陽照射量、中。
再生やや遅い。
第四段階。
胴部浅破裂。
肉片大量。
危険。
月袋併用により太陽反応を早める。
第五段階。
全資源化。
再生不可。
通常資材回収用。
定期運用では第二から第三がよい。
第四は小型女誘引爆破時に限定。
第五は廃棄対象。
よい。
段階があると運用しやすい。
爆破も標準化すべきである。
*
部分爆破用の器具を作る。
小型起爆肉芽。
骨片導爆管。
焦げ土遮蔽板。
硬化皮膜飛散防止帯。
月袋保護膜。
太陽性毒電波減衰板。
資材体固定骨杭。
全停止信号。
三号防衛待機。
一号回収待機。
二号記録待機。
管理肉芽、第三権限確認。
ログ肉芽、拍動数記録。
パリティ肉芽、第三予備脳片監視。
第三予備脳片、興奮。
当然である。
爆破が定期業務になったのだ。
第三予備脳片からすれば祝祭であろう。
だが、祝祭ではない。
物流である。
肉ロジスティックである。
*
第一回定期資材確保試験。
対象。
資材体二号。
月袋なし。
太陽性毒電波、弱照射予定。
爆破段階。
第二段階。
腕部欠損狙い。
我輩は仮蓋を開けた。
硬化皮膜製の新しい仮蓋である。
濁っている。
しかし、以前より硬い。
よい。
赤い小型起爆肉芽。
押すな札。
端末退避。
ラック遮断。
黒骨筒保護。
資材体二号、くくりつけ。
太陽性毒電波減衰板、半開。
我輩は押した。
爆ぜた。
小さい。
良い小爆発である。
資材体二号の片腕が吹き飛ぶ。
肉片。
骨片。
焦げ少。
胴体は残る。
鳴く。
「ギャ」
鳴いた。
だが、生きている。
太陽性旧濾過脳が震える。
戻れ。
増えろ。
閉じろ。
肉を戻せ。
切断面に粘液が集まり始める。
再生反応あり。
月袋なしでも再生した。
太陽性毒電波である。
成功。
*
一号が肉片を回収。
二号が切断面を記録。
三号が他の同型生命体を防衛線の外へ押す。
ログ肉芽、拍動数を記録。
管理肉芽、正常。
パリティ肉芽、正常。
第三予備脳片、満足度中。
よい。
小爆発でも満足するらしい。
教育上、たいへん良い。
大爆発ばかり与えると、第三予備脳片が贅沢になる。
日常的な小爆発で慣らすべきである。
これは育成である。
自爆思想保存用脳片の情操教育である。
*
第二回試験。
対象。
資材体四号。
月袋あり。
太陽性旧濾過脳近傍。
発語前兆あり。
戻れ。
探せ。
見つけろ。
ルー。
早い。
やはり月袋が近いと早い。
太陽性旧濾過脳の表面に白い指が浮く。
小型女発生寸前。
同型生命体群が寄る。
だが、今回は周囲の全てを吹き飛ばすのではない。
固定資材体を中心に、外から寄る同型生命体のうち数体だけを爆破範囲へ入れる。
残りは三号が押し返す。
定期資材確保には、過剰回収は不要である。
過剰回収は次回の資源を減らす。
物流とは、残す技術である。
*
小型女が発生した。
「ルーは何処」
同型生命体群が寄る。
資材体四号も激しく動く。
くくりつけてあるため逃げない。
よい。
小型女は月袋へ顔を向けた。
「妹」
ほう。
月袋に反応した。
やはり月性慈しみ電波は、太陽性小型女を刺激する。
小型女の発生が早まるだけでなく、輪郭も濃くなる。
危険である。
有用である。
小型女は言った。
「返して」
我輩は答えた。
「仕様書を出せ」
「ルーを」
「在庫なし」
「私の」
「管理対象外である」
会話は不毛である。
不毛だが、記録価値はある。
発語中、同型生命体がさらに寄る。
材料密度、良好。
爆破段階。
第三段階から第四段階の間。
原型を残す。
だが、十分に飛ばす。
難しい。
楽しい。
*
我輩は起爆肉芽を見た。
赤い。
仮蓋あり。
押すな札あり。
端末退避。
月袋保護。
太陽性減衰板、半閉。
資材体固定。
小型女未完全自由化。
同型生命体密度、適正。
我輩は言った。
「太陽性高次執着残滓、資材化処理を開始する」
「ルーは――」
押した。
*
爆発した。
第十二冊ほどではない。
しかし、小爆発ではない。
中爆発である。
良い中爆発である。
資材体四号の片脚と肩が吹き飛ぶ。
外から寄った同型生命体三体が半資材化。
小型女は裂ける。
完全消滅ではない。
残響が残る。
焦げ土をかける。
光が薄くなる。
資材体四号は残っている。
胴体あり。
頭部あり。
片腕あり。
再生可能範囲。
よい。
非常によい。
肉片回収量、大。
骨片回収量、中。
焦げ土、中。
神経束、二本。
硬化皮膜、小。
固定骨杭、損傷。
補修必要。
全体成果、良好。
*
資材体四号は、月袋の下で震えている。
鳴く力は弱い。
だが、切断面が閉じ始めている。
ただし、これは月性慈しみ電波の作用ではない。
月袋の近くで早まった太陽性旧濾過脳の発語。
そこから漏れた太陽性毒電波。
その雑な増殖命令が、資材体四号の肉を動かしている。
月は治していない。
月は、太陽を早く騒がせただけである。
回復させているのは太陽である。
たいへん危険である。
たいへん迷惑である。
だが、効く。
*
月袋と太陽性旧濾過脳の位置を変えて、さらに試す。
月袋を近づける。
太陽性旧濾過脳が早く震える。
発語前兆が早まる。
資材体の再生も早まる。
ただし、小型女化危険も上がる。
月袋を遠ざける。
発語前兆が遅れる。
資材体の再生も遅れる。
安全性は上がる。
効率は下がる。
月袋を外す。
太陽性毒電波だけで再生する。
だが発生タイミングの調整が難しい。
つまり、月袋は再生装置ではない。
太陽性再生工程の起動補助である。
よい。
たいへんよい。
役割分担である。
*
ここで、周期を考える。
資材体一号。
再生遅い。
太陽性毒電波弱照射なし。
補助対象。
資材体二号。
第二段階爆破後、太陽性弱照射で三日程度の再使用見込み。
資材体三号。
未使用。
予備。
資材体四号。
中爆発後、月袋誘発太陽性毒電波下で五日から七日で再使用可能見込み。
資材体五号。
鳴き声大。
太陽性旧濾過脳誘引用に向く。
以上により、資材体を周期管理する。
一日目。
二号、小爆破。
太陽性弱照射。
二日目。
三号、皮膜剥離。
三日目。
月袋を太陽性旧濾過脳へ近づけ、発語前兆を早める。
四日目。
二号再生確認、軽回収。
五日目。
四号経過確認。
六日目。
月袋位置調整。
太陽性毒電波量調整。
七日目。
中爆破候補。
よい。
肉資材週次計画である。
週という概念はこの世界にあるか不明である。
我輩にはある。
だから使う。
*
肉ロジスティック台帳を作る。
骨片では足りない。
黒骨テープにも向かない。
日々更新が必要である。
そこで、薄い硬化皮膜板を使う。
表に資材体番号。
状態。
月袋近接度。
太陽性毒電波照射量。
爆破段階。
再生度。
回収量。
毒電波残響。
小型女化危険。
次回予定。
これらを刻む。
資材体一号。
再生度、低。
太陽性弱照射予定。
次回、観察。
資材体二号。
再生度、中。
次回、小爆破可。
資材体三号。
未使用。
予備。
資材体四号。
再生度、低。
中爆破後養生。
月袋誘発下。
太陽性残響あり。
資材体五号。
誘引適性、高。
鳴き声大。
危険。
これで管理できる。
資材は帳に載せるべきである。
帳に載らない資材は、泥である。
*
名称を正式に定める。
資材体固定区画。
月袋照射棚。
太陽性旧濾過脳発生棚。
太陽性弱照射棚。
部分爆破線。
再生養生線。
回収分類棚。
肉ロジスティック台帳。
よい。
施設がまた一段階進んだ。
かつては焦げ跡であった。
次に研究場となった。
次に施設となった。
今は、資材供給網を持つ施設である。
かなり秘密基地に近い。
洞窟がまだない。
入口もない。
圧力計もない。
透明な蓋もない。
しかし、定期資材確保がある。
秘密基地は、物資が回ってこそ秘密基地である。
前世の悪の秘密結社も、そこを軽んじた。
世界征服を語る前に、消耗品を補充せよ。
怪人を増やす前に、培養液の供給計画を立てよ。
自爆ボタンを設置する前に、爆破後の復旧資材を用意せよ。
ただし、自爆ボタンは先に設計してもよい。
*
問題が一つある。
月性慈しみ電波は、我輩にも少し作用する。
夜、月袋の近くに長くいると、第一予備脳片が静かに震える。
我輩性保存用である。
ジバーシャ。
その名が戻る。
戻りやすくなる。
研究記録としては有用である。
だが、少し面倒である。
月性慈しみ電波は、失われたものを内へ戻そうとする。
ジバーシャの記憶が近くなる。
悪くはない。
悪くはないが、研究中に何度も来られると手が止まる。
我輩は、月袋と第一予備脳片の間に遮蔽骨板を置いた。
完全遮断ではない。
少しだけ通す。
完全に遮断する気にはならなかった。
これは記録しておく。
――月性慈しみ電波、我輩性保存用脳片に記憶回帰作用あり。
――ジバーシャ記憶反応、増加。
――研究妨害軽微。
――遮蔽骨板により調整。
――完全遮断は不要。
不要である。
*
太陽性毒電波と月性慈しみ電波の位置を調整する。
近すぎると小型女が早く湧きすぎる。
遠すぎると発生が遅い。
太陽性毒電波が弱いと資材体の再生が遅い。
太陽性毒電波が強いと暴れる。
月袋が強いと太陽性小型女の輪郭が濃くなる。
輪郭が濃い小型女は誘引性が高い。
誘引性が高いと資材回収量は増える。
だが、防衛線が危険になる。
つまり、月袋強度と太陽性毒電波量には最適値がある。
最適値。
よい言葉である。
悪の博士は、感情ではなく最適値で爆破するべきである。
第三予備脳片が不満そうに震える。
我輩は言った。
「最適値である」
第三予備脳片は静かにならなかった。
小さく震え続けた。
まあよい。
爆破を最適化するという考えには賛成しているのであろう。
*
実験結果を整理する。
太陽一。
月四。
太陽一は毒電波を出す。
月四は慈しみ電波を出す。
月四は、肉を治さない。
月四は、太陽一を早く騒がせる。
太陽一は、小型女を湧かせる。
太陽一は、同型生命体を集める。
太陽一は、原型の残った資材体を雑に再生させる。
集まった同型生命体は、爆破で資材になる。
原型を残せば、太陽一で戻る。
月四を置くと、太陽一が早く騒ぐ。
循環である。
危険である。
うるさい。
だが、肉は回る。
これこそ肉ロジスティックである。
*
第十三冊時点での成果を整理する。
一、定期的な資材確保の必要性を確認。
二、毒電波の発信源調査を開始。
三、太陽性毒電波を一系統として分類。
四、太陽性毒電波の主成分を探索、執着、扇動、増殖、破壊、再生と確認。
五、月性慈しみ電波を発見。
六、月性慈しみ電波に四相を確認。
七、観測相、選択相、母相、影相と仮分類。
八、月性慈しみ電波の波形解読により、中心音ル、内包、子孫観測、回帰、包摂の信号を確認。
九、月性慈しみ電波そのものには資材体再生効果がないと確認。
十、月性慈しみ電波を太陽性旧濾過脳近傍に置くと、小型女発生が早まると確認。
十一、月袋を作成。
十二、月袋には太陽性小型女発生促進効果があると確認。
十三、資材体の再生は太陽性毒電波照射によって進むと確認。
十四、ただし太陽性毒電波は暴走・誘引・小型女発生を伴うため、管理下で弱く当てる必要あり。
十五、同型生命体を完全資源化せず、原型を残す部分爆破で再生可能と確認。
十六、資材体固定区画を作成。
十七、資材体一号から五号を登録。
十八、部分爆破段階を定義。
十九、第二段階、第三段階が定期運用に適すると確認。
二十、太陽性小型女発生、月袋誘発、太陽性毒電波照射を組み合わせた資材回収に成功。
二十一、肉ロジスティック台帳を作成。
二十二、月性慈しみ電波にジバーシャ記憶回帰作用を確認。
二十三、太陽一、月四の干渉により、安定資材確保循環の見込みあり。
二十四、肉ロジスティックは成立する。
二十四を深く刻む。
これは大きい。
非常に大きい。
*
夜。
焦げ跡施設には、資材体が並んでいた。
一号は静か。
二号は片腕再生中。
三号は予備。
四号は中爆破後の養生中。
五号は時々鳴く。
三号が睨む。
五号は黙る。
月袋が揺れている。
白い光を含んだ粘液が、薄く膜の内側で脈打つ。
その下で、資材体は治らない。
治すのは、その向こうで震えている太陽性旧濾過脳である。
戻れ。
増えろ。
肉を閉じろ。
形を戻せ。
雑である。
非常に雑である。
だが、資材体二号の切断面はゆっくり閉じていく。
太陽性毒電波のせいである。
月袋が近いから、太陽性旧濾過脳が早く騒ぐ。
太陽はすぐ騒ぐ。
月は黙って煽る。
高次存在は面倒である。
*
肉製ユーピーエスが、どくん、と鳴る。
ブレード脳ラックは冷えている。
第一予備脳片は、遮蔽骨板の向こうで静かにジバーシャの名を抱く。
第二予備脳片は、肉ロジスティック手順を確認する。
第三予備脳片は、次の爆破予定を待っている。
パリティ肉芽は正常。
管理肉芽は少し熱い。
ログ肉芽は資材体台帳を更新する。
一号は骨片籠を整える。
二号は月袋と太陽性旧濾過脳の距離を見上げる。
三号は防衛線で棍棒を構える。
黒骨筒棚は乾いている。
湿度表示肉芽は縮んでいる。
赤い肉芽ボタンは、濁った蓋の奥にある。
まだ透明ではない。
しかし、いつか透明にする。
そのためにも、皮膜が要る。
皮膜のためには資材体が要る。
資材体のためには、太陽性毒電波が要る。
太陽性毒電波を扱うには、月袋が要る。
世界は、回り始めた。
*
我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。
――太陽は毒を出し、月は慈しむ。
少し考え、もう一行加えた。
――ただし、これは信仰ではなく、波形解読結果である。
さらに一行。
――月は肉を治さない。
さらに一行。
――太陽は肉を雑に戻す。
さらに一行。
――両方を棚に置けば、肉は回る。
よい。
たいへんよい。
さらに一行。
――肉ロジスティック、運用開始。
完璧である。
遠くで同型生命体が鳴いた。
「ギ」
五号が反応した。
三号が棍棒を地面に打つ。
どん。
五号は黙った。
月袋が揺れる。
太陽性旧濾過脳が震える。
発語まで、あと少し。
次の資材確保日は近い。
研究は続く。
物流も続く。
爆破も続く。
ただし、順番を守って。
以上。
研究ノート第十三冊、終了。




