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ドクトル・ゼンゼンマンの研究ノート 十五文化圏周縁抄  作者: 黒瀬 量衡


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13/15

第十三話 月は無慈悲な肉ロジスティック、または慈しみ電波による定期資材確保

 材料は、使えば減る。


 これは当然である。


 骨を棚にする。


 肉を端末にする。


 神経糸を配線にする。


 皮膜を蓋にする。


 焦げ土を防臭にする。


 粘液管を冷却に使う。


 そうすれば、材料は減る。


 材料が減れば、研究は止まる。


 研究が止まれば、我輩は不機嫌になる。


 我輩が不機嫌になると、赤いボタンを見たくなる。


 危険である。


 したがって、材料は定期的に確保しなければならない。


 臨時では駄目である。


 拾うだけでは駄目である。


 偶然死んだ同型生命体を待つのも駄目である。


 資材確保は、物流でなければならない。


 肉の物流。


 肉ロジスティックである。


 よい。


 たいへんよい。


 少し嫌な言葉である。


 だが、正確である。


     *


 第十二冊において、我輩は小型女を意図的に発生させた。


 旧濾過脳。


 毒電波。


 祝福残滓。


 発語。


「ルーは何処」


 同型生命体群の誘引。


 爆破予定区画への集積。


 制御爆破。


 焦げ土。


 骨片。


 肉片。


 神経束。


 硬化皮膜。


 成果は良好であった。


 たいへん良好であった。


 施設は拡張された。


 防衛線は太くなった。


 黒骨筒棚は乾いた。


 配線溝は補修された。


 第三予備脳片も、一時的に静かになった。


 爆破は有用である。


 しかし、一度の爆破では足りない。


 施設は育つ。


 装置は増える。


 端末は増える。


 棚は増える。


 管理肉芽は熱を持つ。


 熱を持てば冷却が要る。


 冷却が増えれば配管が要る。


 配管が増えれば配線溝が要る。


 配線溝が増えれば蓋が要る。


 蓋が要れば皮膜が要る。


 皮膜が要れば同型生命体が要る。


 同型生命体が要れば、集めて、焼いて、砕いて、分類しなければならない。


 そして、減りすぎないように戻さなければならない。


 すなわち、定期資材確保である。


     *


 問題は発信源である。


 第三冊と第十二冊の小型女は、どこから来たのか。


 旧濾過脳に毒電波が溜まったから湧いた。


 これは正しい。


 だが、毒電波そのものはどこから来るのか。


 同型生命体の中に最初からあるのか。


 巣全体から出ているのか。


 大地から染みるのか。


 空から降るのか。


 高次存在の迷惑恋愛感情が、世界のどこかから垂れ流されているのか。


 おそらく最後である。


 迷惑である。


 非常に迷惑である。


 しかし、迷惑であることと、利用できないことは同じではない。


 発信源を特定できれば、濾過できる。


 濾過できれば、蓄積できる。


 蓄積できれば、発生させられる。


 発生させられれば、誘引できる。


 誘引できれば、爆破できる。


 爆破できれば、資材が手に入る。


 さらに、残った肉を戻せれば、次の資材も手に入る。


 美しい流れである。


     *


 我輩は毒電波測定を開始した。


 測定器。


 毒電波受信用肉芽。


 方向検出用神経糸。


 焦げ土遮蔽板。


 骨粉絶縁層。


 濾過済み粘液。


 パリティ肉芽補助。


 ログ肉芽記録。


 二号視覚確認。


 三号防衛。


 一号は殴打用骨片を持って待機。


 測定対象。


 一、通常同型生命体群。


 二、旧濾過脳。


 三、焦げ土B隔離袋。


 四、小型女残響区画。


 五、夜。


 六、月明かり。


 七、朝の直射光。


 八、濾過脳を意図的に汚染させたもの。


 八は危険である。


 だが、必要である。


 研究とは、危険なものを危険と知った上で、少し離して置き、記録し、必要なら爆破する行いである。


     *


 まず、通常毒電波。


 食え。


 増えろ。


 壊せ。


 奪え。


 巣を広げろ。


 人類を滅ぼせ。


 雑である。


 相変わらず雑である。


 目的関数が粗い。


 実行計画がない。


 感染対策がない。


 補給線がない。


 廃棄手順がない。


 人類を滅ぼすと研究対象が減るという理解もない。


 毒電波である。


 発信方向。


 全方向。


 ただし、昼に強い。


 熱のある時に強い。


 同型生命体が群れている時に増幅する。


 血と臭いと鳴き声に乗る。


 これは太陽性毒電波と仮称する。


 太陽。


 熱。


 探す。


 焼く。


 増やす。


 騒がせる。


 戻せ。


 肉を閉じろ。


 形を増やせ。


 ルーを探す。


 周囲を巻き込む。


 たいへん迷惑である。


 たいへん危険である。


 だが、肉は動く。


     *


 次に、夜の測定である。


 月が出ていた。


 白い光。


 湿った森。


 焦げ跡施設。


 肉製ユーピーエスの拍動。


 ブレード脳ラックの粘液音。


 遠くの同型生命体の鳴き声。


 我輩は受信用肉芽を月明かりに向けた。


 すると、別の波が来た。


 毒ではない。


 少なくとも、太陽性毒電波とは違う。


 食え、ではない。


 壊せ、ではない。


 増えろ、ではない。


 人類を滅ぼせ、でもない。


 見る。


 包む。


 戻す。


 名を保つ。


 失ったものを内へ戻す。


 薄い。


 静か。


 しつこい。


 これは何か。


 我輩はしばらく考えた。


 慈しみである。


 慈しみ。


 似合わぬ語である。


 我輩の研究場には似合わない。


 だが、波形としてはそう呼ぶしかない。


 月性慈しみ電波。


 長い。


 良い。


     *


 ただし、ここで重要なことを記す。


 月性慈しみ電波は、同型生命体を治さない。


 切断面を閉じない。


 肉芽を盛らせない。


 骨を伸ばさない。


 皮膜を戻さない。


 資材体を回復させない。


 これは重要である。


 慈しみという語に騙されてはならない。


 慈しむことと、治すことは違う。


 月は見る。


 包む。


 戻す。


 名を保つ。


 だが、この肉を増やさない。


 この肉を閉じない。


 この肉を再生させない。


 再生させるのは、別の波である。


 太陽性毒電波。


 探せ。


 見つけろ。


 増えろ。


 戻れ。


 肉を閉じろ。


 形を戻せ。


 たいへん雑で、たいへん危険で、たいへんうるさい。


 だが、資材体の再生には効く。


 つまり、月性慈しみ電波は治療装置ではない。


 太陽性反応を早める誘発材である。


     *


 月性慈しみ電波は、一つではなかった。


 四つある。


 正確には、四つの相がある。


 第一波。


 遠くを見る波。


 見つける。


 観測する。


 名をまだ持たぬものへ目を向ける。


 我輩はこれを観測相とした。


 第二波。


 近づく波。


 選ぶ。


 境界を越える。


 ためらいながらも手を伸ばす。


 我輩はこれを選択相とした。


 第三波。


 包む波。


 守る。


 抱く。


 胎内へ戻す。


 名を保つ。


 我輩はこれを母相とした。


 第四波。


 隠す波。


 欠ける。


 影を通す。


 壊れたものを一度暗くして、戻す。


 我輩はこれを影相とした。


 四つである。


 月の四体。


 いや、体と呼ぶべきかは不明である。


 四つの波。


 四つの顔。


 四つの電波。


 いずれにせよ、月側は四である。


 太陽側は一である。


 単純な一。


 しつこい一。


 探せ、焼け、見つけろ、奪え、増えろ、ルー。


 太陽は一つで、たいへんうるさい。


 月は四つで、たいへん面倒である。


     *


 月性慈しみ電波を、さらに細かく読む。


 読む、といっても文字ではない。


 声でもない。


 祈りでもない。


 波である。


 白く、薄く、しつこく、こちらの肉芽へ染みる波である。


 我輩は受信用肉芽を四つに分けた。


 観測用。


 選択用。


 母性用。


 影用。


 それぞれに月明かりを通し、濾過済み粘液を流し、骨粉板へ震えを刻ませる。


 一晩。


 二晩。


 三晩。


 骨粉板に残った震えを比較する。


 すると、月性慈しみ電波の中に、同じ音が何度も戻ってくることが分かった。


 ル。


 また、ル。


 さらに、ル。


 これは名ではない。


 少なくとも、我輩が知る固有名ではない。


 だが、電波の中心にある。


 月性慈しみ電波の四相すべてが、その中心音を抱いている。


 第一波。


 遠くを見る。


 ルを見落とさない。


 第二波。


 境界を越える。


 ルへ近づく。


 第三波。


 内へ戻す。


 失われたルを抱く。


 第四波。


 影に隠す。


 壊れたルを、消さずに戻る時まで保つ。


 我輩は記録した。


 ――月性慈しみ電波、中心音ルを含む。


 ――第一相、外部に広がったものを見る。


 ――第二相、境界を越えて選ぶ。


 ――第三相、失われたものを内包する。


 ――第四相、欠けたものを影に入れ、回復まで保つ。


 ここで、さらに奇妙なことが分かった。


 月性慈しみ電波は、ルだけを見ているのではない。


 ルから広がったものも見ている。


 枝。


 子。


 血。


 名。


 母から子へ続く線。


 月の波は、それらを順に撫でる。


 見落とさないように。


 消えないように。


 戻れるように。


 包めるように。


 つまり、解読結果はこうである。


 ルーを内に抱く月。


 ルーの子らを見る月。


 戻す月。


 包む月。


 これは神話ではない。


 少なくとも、我輩の研究ノート上では神話ではない。


 月性慈しみ電波の波形解読結果である。


 高次存在の感情が、電波として漏れ、肉芽で読めてしまっただけである。


 迷惑である。


 非常に迷惑である。


 だが、使える。


     *


 我輩は骨片に記録した。


 ――太陽性毒電波、一系統。


 ――主成分、探索、執着、扇動、増殖、破壊、再生。


 ――発語傾向、ルーは何処。


 ――同型生命体群を誘導しやすい。


 ――資材体の肉を雑に戻しやすい。


 ――施設に有害。


 ――ただし資源回収および再生工程に有用。


 次。


 ――月性慈しみ電波、四相。


 ――第一、観測相。遠くを見る。


 ――第二、選択相。境界を越える。


 ――第三、母相。包み、戻す。


 ――第四、影相。欠け、隠し、回復へ向かう。


 ――中心音ルを含む。


 ――ルから広がった子、血、名、母子線を追跡する波形あり。


 ――毒性は低い。


 ――同型生命体を治癒しない。


 ――資材体を再生させない。


 ――ただし、太陽性毒電波との干渉あり。


 干渉。


 ここが重要である。


 月性慈しみ電波を旧濾過脳の近くへ置くと、太陽性小型女の発生が早まる。


 これは偶然ではない。


     *


 実験する。


 旧濾過脳を二つ用意する。


 甲。


 月性慈しみ電波遮蔽。


 乙。


 月性慈しみ電波曝露。


 どちらも太陽性毒電波蓄積量は同程度。


 どちらも爆破予定区画の小隔離棚へ置く。


 甲には焦げ土遮蔽板。


 乙には月明かりを通す骨枠。


 夜を待つ。


 一晩。


 二晩。


 甲は黒ずむ。


 通常通り。


 乙は、二晩目で赤い筋が出た。


 三晩目を待たずに、発語前兆。


 戻れ。


 探せ。


 見つけろ。


 ルー。


 早い。


 非常に早い。


 月の慈しみが近いと、太陽の執着が騒ぐ。


 姉妹喧嘩である。


 高次存在の痴話喧嘩である。


 実に迷惑である。


 しかし、有用である。


     *


 結論。


 月性慈しみ電波は、太陽性毒電波を鎮めるのではない。


 場合によっては、煽る。


 太陽側から見れば、月の慈しみは挑発である。


 解読結果によれば、月性慈しみ電波は、失われたルを内に抱いている。


 ルから広がった子らを見る。


 戻す。


 包む。


 太陽性毒電波は、それに反応する。


 探せ。


 見つけろ。


 奪え。


 増えろ。


 戻せ。


 今度こそ私を見る。


 ルーは何処。


 早まる。


 小型女が早く湧く。


 たいへん迷惑である。


 たいへん便利である。


 我輩は骨片に刻んだ。


 ――月性慈しみ電波を太陽性毒電波濾過脳近傍に置くと、小型女発生が早まる。


 ――理由、高次存在間感情干渉と思われる。


 ――月性側は内包、観測、回帰、包摂の波形を持つ。


 ――太陽性側はそれを挑発として受信する。


 ――実務上、太陽性小型女発生促進材として有用。


 ――月性電波に治癒効果なし。


 ――神話解釈は不要。


 ――資源回収効率、向上。


     *


 次の問題は、同型生命体の使い方である。


 第十二冊では、多数を爆破した。


 材料は得た。


 しかし、全て吹き飛ばすと、次の材料が減る。


 これは物流として未熟である。


 一回で倉庫を焼き尽くす商人はいない。


 一回で畑を掘り尽くす農夫もいない。


 一回で怪人を全て出撃させる幹部はいた。


 負けた。


 当然である。


 資源は、再生させながら使うべきである。


 同型生命体には再生性がある。


 完全に木っ端微塵にすると、材料になる。


 だが、原型が少し残る程度に吹き飛ばすと、しばらくして戻る。


 戻る。


 増える。


 また使える。


 そして、その戻りを促すのは月ではない。


 太陽である。


 たいへん迷惑な太陽性毒電波である。


 これは重要である。


 非常に重要である。


 我輩は新しい分類を置いた。


 全資源化爆破。


 部分資源化爆破。


 生残再生爆破。


 最後が今回の主題である。


     *


 生残再生爆破。


 目的。


 一、同型生命体を殺し切らない。


 二、ただし不要部位を飛ばす。


 三、焦げ土と骨片と肉片を回収する。


 四、残存本体を太陽性毒電波で再生させる。


 五、再生後、再び資源化する。


 六、くくりつけて逃がさない。


 七、太陽性小型女発生時の誘引体として再利用する。


 八、月性慈しみ電波により太陽性小型女の発生を早める。


 すばらしい。


 肉ロジスティックである。


 完全な屠殺ではない。


 完全な飼育でもない。


 資材発生体の管理である。


 少し邪悪である。


 だが、我輩は悪の博士である。


 問題ない。


     *


 対象を選ぶ。


 同型生命体のうち、大きすぎるものは危険。


 小さすぎるものは材料が少ない。


 動きすぎるものはくくりにくい。


 泥を食いすぎるものは不衛生。


 鳴きすぎるものは毒電波を増幅する。


 したがって、中型で、鈍く、再生性が高く、鳴き声が短い個体を選ぶ。


 端末三号が棍棒で足を止める。


 一号が骨片縄を掛ける。


 二号が記録する。


 管理肉芽が識別番号を振る。


 資材体一号。


 資材体二号。


 資材体三号。


 資材体四号。


 資材体五号。


 よい。


 ついに同型生命体が資材台帳に載った。


 文明である。


     *


 くくりつける場所を作る。


 資材体固定区画。


 爆破予定区画の外縁。


 防衛線の内側ではない。


 研究場中央からは遠い。


 ただし、太陽性旧濾過脳発生棚からは近い。


 月性慈しみ電波を当てる場所からも近い。


 近すぎると危険。


 遠すぎると効率が悪い。


 焦げ土で床を乾かす。


 骨杭を打つ。


 神経糸は使わない。


 噛まれるからである。


 骨片縄と硬化皮膜帯を使う。


 首は危険。


 胴を固定。


 腕は少し動く。


 脚は動きすぎない。


 口には苦味粘液を塗る。


 泥食いを減らすためである。


 これで資材体は逃げにくい。


 完全に動けないわけではない。


 動けないと再生が鈍る可能性がある。


 適度に動かす。


 適度に傷める。


 適度に太陽性毒電波を当てる。


 適度に戻す。


 適度とは難しい。


 だが、肉ロジスティックには必要である。


     *


 月性慈しみ電波を近くへ置く。


 置くと言っても、月そのものは置けない。


 当然である。


 そこで、月性慈しみ電波を受けた濾過済み粘液を使う。


 月明かりに晒した骨粉。


 影相を通した焦げ土。


 母相に反応した薄い肉膜。


 観測相で震えた受信用肉芽。


 これらを組み合わせ、小さな月性慈しみ電波蓄積袋を作る。


 名称。


 月袋。


 短い。


 悪くない。


 正式名。


 月性慈しみ電波蓄積袋。


 長い。


 良い。


 通称は月袋でよい。


 月袋を資材体固定区画の上へ吊るす。


 資材体は回復しない。


 切断面も閉じない。


 粘液も増えない。


 鳴き声も、たいして減らない。


 月袋は治療具ではない。


 月袋は、太陽を騒がせるための釣り餌である。


 慈しみの釣り餌。


 ひどい言葉である。


 だが、正確である。


     *


 次に、太陽性毒電波を弱く当てる装置を作る。


 太陽性旧濾過脳。


 毒電波濃縮肉膜。


 焦げ土減衰板。


 骨粉遮蔽板。


 赤い緊急切断肉芽。


 小型女化防止用抑制紐。


 最後が重要である。


 太陽性毒電波を資材体へ当てたい。


 だが、小型女を自由化させたいわけではない。


 小型女は誘引には使える。


 だが、常時出ていられると迷惑である。


 したがって、太陽性毒電波を薄く漏らす。


 小型女が完全に湧く前の発語前兆程度で止める。


 戻れ。


 探せ。


 見つけろ。


 増えろ。


 肉を閉じろ。


 このあたりの雑な命令だけを使う。


 ルーは何処、まで行くと誘引性が強すぎる。


 危険である。


 資材体再生には、発語前段階が適切と思われる。


 仮説である。


 実験する。


     *


 実験。


 資材体一号。


 月袋なし。


 太陽性毒電波なし。


 部分爆破後、再生遅い。


 肉片回収、中。


 骨片回収、少。


 鳴き声、多。


 泥食い動作、多。


 資材体二号。


 月袋あり。


 太陽性毒電波なし。


 再生、変化なし。


 肉片回収、中。


 骨片回収、中。


 鳴き声、変化少。


 泥食い動作、変化少。


 月袋だけでは治らない。


 確認。


 資材体三号。


 太陽性毒電波あり。


 月袋なし。


 再生、やや促進。


 ただし暴れやすい。


 鳴き声増加。


 周辺同型生命体誘引、中。


 危険。


 資材体四号。


 月袋あり。


 太陽性旧濾過脳近傍。


 太陽性小型女発生が早すぎる。


 同型生命体誘引、強。


 再生、速い。


 危険。


 ただし、資源回収量、大。


 資材体四号は良い。


 たいへん良い。


 ただし危険。


 危険なほど有用。


 研究とはそういうものである。


     *


 結論。


 月袋は治さない。


 太陽性毒電波が治す。


 いや、治すという語は不正確である。


 太陽性毒電波は治療しない。


 再生を命じる。


 増殖を命じる。


 形を戻せと命じる。


 雑に命じる。


 結果として、肉が閉じる。


 骨が伸びる。


 皮膜が張る。


 しかし、きれいではない。


 曲がる。


 余る。


 腫れる。


 時々、余計な肉芽が出る。


 これは治癒ではない。


 増殖性修復である。


 たいへん危険である。


 たいへん実用的である。


 我輩は骨片に深く刻んだ。


 ――月袋、治癒効果なし。


 ――太陽性毒電波、資材体再生促進効果あり。


 ――ただし治癒ではなく、雑な増殖性修復。


 ――過剰照射で小型女発生、誘引、暴走の危険あり。


 ――月袋は太陽性反応促進材として用いる。


     *


 部分爆破の調整を行う。


 爆破量が大きすぎると全資源化する。


 小さすぎると材料が少ない。


 残しすぎると資材体が暴れる。


 削りすぎると再生しない。


 太陽性毒電波を当てすぎると、余計な肉芽が出る。


 月袋を近づけすぎると、小型女が早く湧きすぎる。


 我輩は爆破段階を定義した。


 第一段階。


 皮膜剥離。


 軽い。


 焦げ土少。


 太陽照射少量で戻る。


 第二段階。


 腕部欠損。


 肉片多。


 骨片少。


 太陽照射で再生中。


 第三段階。


 片脚破断。


 骨片多。


 逃走防止にもなる。


 太陽照射量、中。


 再生やや遅い。


 第四段階。


 胴部浅破裂。


 肉片大量。


 危険。


 月袋併用により太陽反応を早める。


 第五段階。


 全資源化。


 再生不可。


 通常資材回収用。


 定期運用では第二から第三がよい。


 第四は小型女誘引爆破時に限定。


 第五は廃棄対象。


 よい。


 段階があると運用しやすい。


 爆破も標準化すべきである。


     *


 部分爆破用の器具を作る。


 小型起爆肉芽。


 骨片導爆管。


 焦げ土遮蔽板。


 硬化皮膜飛散防止帯。


 月袋保護膜。


 太陽性毒電波減衰板。


 資材体固定骨杭。


 全停止信号。


 三号防衛待機。


 一号回収待機。


 二号記録待機。


 管理肉芽、第三権限確認。


 ログ肉芽、拍動数記録。


 パリティ肉芽、第三予備脳片監視。


 第三予備脳片、興奮。


 当然である。


 爆破が定期業務になったのだ。


 第三予備脳片からすれば祝祭であろう。


 だが、祝祭ではない。


 物流である。


 肉ロジスティックである。


     *


 第一回定期資材確保試験。


 対象。


 資材体二号。


 月袋なし。


 太陽性毒電波、弱照射予定。


 爆破段階。


 第二段階。


 腕部欠損狙い。


 我輩は仮蓋を開けた。


 硬化皮膜製の新しい仮蓋である。


 濁っている。


 しかし、以前より硬い。


 よい。


 赤い小型起爆肉芽。


 押すな札。


 端末退避。


 ラック遮断。


 黒骨筒保護。


 資材体二号、くくりつけ。


 太陽性毒電波減衰板、半開。


 我輩は押した。


 爆ぜた。


 小さい。


 良い小爆発である。


 資材体二号の片腕が吹き飛ぶ。


 肉片。


 骨片。


 焦げ少。


 胴体は残る。


 鳴く。


「ギャ」


 鳴いた。


 だが、生きている。


 太陽性旧濾過脳が震える。


 戻れ。


 増えろ。


 閉じろ。


 肉を戻せ。


 切断面に粘液が集まり始める。


 再生反応あり。


 月袋なしでも再生した。


 太陽性毒電波である。


 成功。


     *


 一号が肉片を回収。


 二号が切断面を記録。


 三号が他の同型生命体を防衛線の外へ押す。


 ログ肉芽、拍動数を記録。


 管理肉芽、正常。


 パリティ肉芽、正常。


 第三予備脳片、満足度中。


 よい。


 小爆発でも満足するらしい。


 教育上、たいへん良い。


 大爆発ばかり与えると、第三予備脳片が贅沢になる。


 日常的な小爆発で慣らすべきである。


 これは育成である。


 自爆思想保存用脳片の情操教育である。


     *


 第二回試験。


 対象。


 資材体四号。


 月袋あり。


 太陽性旧濾過脳近傍。


 発語前兆あり。


 戻れ。


 探せ。


 見つけろ。


 ルー。


 早い。


 やはり月袋が近いと早い。


 太陽性旧濾過脳の表面に白い指が浮く。


 小型女発生寸前。


 同型生命体群が寄る。


 だが、今回は周囲の全てを吹き飛ばすのではない。


 固定資材体を中心に、外から寄る同型生命体のうち数体だけを爆破範囲へ入れる。


 残りは三号が押し返す。


 定期資材確保には、過剰回収は不要である。


 過剰回収は次回の資源を減らす。


 物流とは、残す技術である。


     *


 小型女が発生した。


「ルーは何処」


 同型生命体群が寄る。


 資材体四号も激しく動く。


 くくりつけてあるため逃げない。


 よい。


 小型女は月袋へ顔を向けた。


「妹」


 ほう。


 月袋に反応した。


 やはり月性慈しみ電波は、太陽性小型女を刺激する。


 小型女の発生が早まるだけでなく、輪郭も濃くなる。


 危険である。


 有用である。


 小型女は言った。


「返して」


 我輩は答えた。


「仕様書を出せ」


「ルーを」


「在庫なし」


「私の」


「管理対象外である」


 会話は不毛である。


 不毛だが、記録価値はある。


 発語中、同型生命体がさらに寄る。


 材料密度、良好。


 爆破段階。


 第三段階から第四段階の間。


 原型を残す。


 だが、十分に飛ばす。


 難しい。


 楽しい。


     *


 我輩は起爆肉芽を見た。


 赤い。


 仮蓋あり。


 押すな札あり。


 端末退避。


 月袋保護。


 太陽性減衰板、半閉。


 資材体固定。


 小型女未完全自由化。


 同型生命体密度、適正。


 我輩は言った。


「太陽性高次執着残滓、資材化処理を開始する」


「ルーは――」


 押した。


     *


 爆発した。


 第十二冊ほどではない。


 しかし、小爆発ではない。


 中爆発である。


 良い中爆発である。


 資材体四号の片脚と肩が吹き飛ぶ。


 外から寄った同型生命体三体が半資材化。


 小型女は裂ける。


 完全消滅ではない。


 残響が残る。


 焦げ土をかける。


 光が薄くなる。


 資材体四号は残っている。


 胴体あり。


 頭部あり。


 片腕あり。


 再生可能範囲。


 よい。


 非常によい。


 肉片回収量、大。


 骨片回収量、中。


 焦げ土、中。


 神経束、二本。


 硬化皮膜、小。


 固定骨杭、損傷。


 補修必要。


 全体成果、良好。


     *


 資材体四号は、月袋の下で震えている。


 鳴く力は弱い。


 だが、切断面が閉じ始めている。


 ただし、これは月性慈しみ電波の作用ではない。


 月袋の近くで早まった太陽性旧濾過脳の発語。


 そこから漏れた太陽性毒電波。


 その雑な増殖命令が、資材体四号の肉を動かしている。


 月は治していない。


 月は、太陽を早く騒がせただけである。


 回復させているのは太陽である。


 たいへん危険である。


 たいへん迷惑である。


 だが、効く。


     *


 月袋と太陽性旧濾過脳の位置を変えて、さらに試す。


 月袋を近づける。


 太陽性旧濾過脳が早く震える。


 発語前兆が早まる。


 資材体の再生も早まる。


 ただし、小型女化危険も上がる。


 月袋を遠ざける。


 発語前兆が遅れる。


 資材体の再生も遅れる。


 安全性は上がる。


 効率は下がる。


 月袋を外す。


 太陽性毒電波だけで再生する。


 だが発生タイミングの調整が難しい。


 つまり、月袋は再生装置ではない。


 太陽性再生工程の起動補助である。


 よい。


 たいへんよい。


 役割分担である。


     *


 ここで、周期を考える。


 資材体一号。


 再生遅い。


 太陽性毒電波弱照射なし。


 補助対象。


 資材体二号。


 第二段階爆破後、太陽性弱照射で三日程度の再使用見込み。


 資材体三号。


 未使用。


 予備。


 資材体四号。


 中爆発後、月袋誘発太陽性毒電波下で五日から七日で再使用可能見込み。


 資材体五号。


 鳴き声大。


 太陽性旧濾過脳誘引用に向く。


 以上により、資材体を周期管理する。


 一日目。


 二号、小爆破。


 太陽性弱照射。


 二日目。


 三号、皮膜剥離。


 三日目。


 月袋を太陽性旧濾過脳へ近づけ、発語前兆を早める。


 四日目。


 二号再生確認、軽回収。


 五日目。


 四号経過確認。


 六日目。


 月袋位置調整。


 太陽性毒電波量調整。


 七日目。


 中爆破候補。


 よい。


 肉資材週次計画である。


 週という概念はこの世界にあるか不明である。


 我輩にはある。


 だから使う。


     *


 肉ロジスティック台帳を作る。


 骨片では足りない。


 黒骨テープにも向かない。


 日々更新が必要である。


 そこで、薄い硬化皮膜板を使う。


 表に資材体番号。


 状態。


 月袋近接度。


 太陽性毒電波照射量。


 爆破段階。


 再生度。


 回収量。


 毒電波残響。


 小型女化危険。


 次回予定。


 これらを刻む。


 資材体一号。


 再生度、低。


 太陽性弱照射予定。


 次回、観察。


 資材体二号。


 再生度、中。


 次回、小爆破可。


 資材体三号。


 未使用。


 予備。


 資材体四号。


 再生度、低。


 中爆破後養生。


 月袋誘発下。


 太陽性残響あり。


 資材体五号。


 誘引適性、高。


 鳴き声大。


 危険。


 これで管理できる。


 資材は帳に載せるべきである。


 帳に載らない資材は、泥である。


     *


 名称を正式に定める。


 資材体固定区画。


 月袋照射棚。


 太陽性旧濾過脳発生棚。


 太陽性弱照射棚。


 部分爆破線。


 再生養生線。


 回収分類棚。


 肉ロジスティック台帳。


 よい。


 施設がまた一段階進んだ。


 かつては焦げ跡であった。


 次に研究場となった。


 次に施設となった。


 今は、資材供給網を持つ施設である。


 かなり秘密基地に近い。


 洞窟がまだない。


 入口もない。


 圧力計もない。


 透明な蓋もない。


 しかし、定期資材確保がある。


 秘密基地は、物資が回ってこそ秘密基地である。


 前世の悪の秘密結社も、そこを軽んじた。


 世界征服を語る前に、消耗品を補充せよ。


 怪人を増やす前に、培養液の供給計画を立てよ。


 自爆ボタンを設置する前に、爆破後の復旧資材を用意せよ。


 ただし、自爆ボタンは先に設計してもよい。


     *


 問題が一つある。


 月性慈しみ電波は、我輩にも少し作用する。


 夜、月袋の近くに長くいると、第一予備脳片が静かに震える。


 我輩性保存用である。


 ジバーシャ。


 その名が戻る。


 戻りやすくなる。


 研究記録としては有用である。


 だが、少し面倒である。


 月性慈しみ電波は、失われたものを内へ戻そうとする。


 ジバーシャの記憶が近くなる。


 悪くはない。


 悪くはないが、研究中に何度も来られると手が止まる。


 我輩は、月袋と第一予備脳片の間に遮蔽骨板を置いた。


 完全遮断ではない。


 少しだけ通す。


 完全に遮断する気にはならなかった。


 これは記録しておく。


 ――月性慈しみ電波、我輩性保存用脳片に記憶回帰作用あり。


 ――ジバーシャ記憶反応、増加。


 ――研究妨害軽微。


 ――遮蔽骨板により調整。


 ――完全遮断は不要。


 不要である。


     *


 太陽性毒電波と月性慈しみ電波の位置を調整する。


 近すぎると小型女が早く湧きすぎる。


 遠すぎると発生が遅い。


 太陽性毒電波が弱いと資材体の再生が遅い。


 太陽性毒電波が強いと暴れる。


 月袋が強いと太陽性小型女の輪郭が濃くなる。


 輪郭が濃い小型女は誘引性が高い。


 誘引性が高いと資材回収量は増える。


 だが、防衛線が危険になる。


 つまり、月袋強度と太陽性毒電波量には最適値がある。


 最適値。


 よい言葉である。


 悪の博士は、感情ではなく最適値で爆破するべきである。


 第三予備脳片が不満そうに震える。


 我輩は言った。


「最適値である」


 第三予備脳片は静かにならなかった。


 小さく震え続けた。


 まあよい。


 爆破を最適化するという考えには賛成しているのであろう。


     *


 実験結果を整理する。


 太陽一。


 月四。


 太陽一は毒電波を出す。


 月四は慈しみ電波を出す。


 月四は、肉を治さない。


 月四は、太陽一を早く騒がせる。


 太陽一は、小型女を湧かせる。


 太陽一は、同型生命体を集める。


 太陽一は、原型の残った資材体を雑に再生させる。


 集まった同型生命体は、爆破で資材になる。


 原型を残せば、太陽一で戻る。


 月四を置くと、太陽一が早く騒ぐ。


 循環である。


 危険である。


 うるさい。


 だが、肉は回る。


 これこそ肉ロジスティックである。


     *


 第十三冊時点での成果を整理する。


 一、定期的な資材確保の必要性を確認。


 二、毒電波の発信源調査を開始。


 三、太陽性毒電波を一系統として分類。


 四、太陽性毒電波の主成分を探索、執着、扇動、増殖、破壊、再生と確認。


 五、月性慈しみ電波を発見。


 六、月性慈しみ電波に四相を確認。


 七、観測相、選択相、母相、影相と仮分類。


 八、月性慈しみ電波の波形解読により、中心音ル、内包、子孫観測、回帰、包摂の信号を確認。


 九、月性慈しみ電波そのものには資材体再生効果がないと確認。


 十、月性慈しみ電波を太陽性旧濾過脳近傍に置くと、小型女発生が早まると確認。


 十一、月袋を作成。


 十二、月袋には太陽性小型女発生促進効果があると確認。


 十三、資材体の再生は太陽性毒電波照射によって進むと確認。


 十四、ただし太陽性毒電波は暴走・誘引・小型女発生を伴うため、管理下で弱く当てる必要あり。


 十五、同型生命体を完全資源化せず、原型を残す部分爆破で再生可能と確認。


 十六、資材体固定区画を作成。


 十七、資材体一号から五号を登録。


 十八、部分爆破段階を定義。


 十九、第二段階、第三段階が定期運用に適すると確認。


 二十、太陽性小型女発生、月袋誘発、太陽性毒電波照射を組み合わせた資材回収に成功。


 二十一、肉ロジスティック台帳を作成。


 二十二、月性慈しみ電波にジバーシャ記憶回帰作用を確認。


 二十三、太陽一、月四の干渉により、安定資材確保循環の見込みあり。


 二十四、肉ロジスティックは成立する。


 二十四を深く刻む。


 これは大きい。


 非常に大きい。


     *


 夜。


 焦げ跡施設には、資材体が並んでいた。


 一号は静か。


 二号は片腕再生中。


 三号は予備。


 四号は中爆破後の養生中。


 五号は時々鳴く。


 三号が睨む。


 五号は黙る。


 月袋が揺れている。


 白い光を含んだ粘液が、薄く膜の内側で脈打つ。


 その下で、資材体は治らない。


 治すのは、その向こうで震えている太陽性旧濾過脳である。


 戻れ。


 増えろ。


 肉を閉じろ。


 形を戻せ。


 雑である。


 非常に雑である。


 だが、資材体二号の切断面はゆっくり閉じていく。


 太陽性毒電波のせいである。


 月袋が近いから、太陽性旧濾過脳が早く騒ぐ。


 太陽はすぐ騒ぐ。


 月は黙って煽る。


 高次存在は面倒である。


     *


 肉製ユーピーエスが、どくん、と鳴る。


 ブレード脳ラックは冷えている。


 第一予備脳片は、遮蔽骨板の向こうで静かにジバーシャの名を抱く。


 第二予備脳片は、肉ロジスティック手順を確認する。


 第三予備脳片は、次の爆破予定を待っている。


 パリティ肉芽は正常。


 管理肉芽は少し熱い。


 ログ肉芽は資材体台帳を更新する。


 一号は骨片籠を整える。


 二号は月袋と太陽性旧濾過脳の距離を見上げる。


 三号は防衛線で棍棒を構える。


 黒骨筒棚は乾いている。


 湿度表示肉芽は縮んでいる。


 赤い肉芽ボタンは、濁った蓋の奥にある。


 まだ透明ではない。


 しかし、いつか透明にする。


 そのためにも、皮膜が要る。


 皮膜のためには資材体が要る。


 資材体のためには、太陽性毒電波が要る。


 太陽性毒電波を扱うには、月袋が要る。


 世界は、回り始めた。


     *


 我輩は骨片に最後の一行を刻んだ。


 ――太陽は毒を出し、月は慈しむ。


 少し考え、もう一行加えた。


 ――ただし、これは信仰ではなく、波形解読結果である。


 さらに一行。


 ――月は肉を治さない。


 さらに一行。


 ――太陽は肉を雑に戻す。


 さらに一行。


 ――両方を棚に置けば、肉は回る。


 よい。


 たいへんよい。


 さらに一行。


 ――肉ロジスティック、運用開始。


 完璧である。


 遠くで同型生命体が鳴いた。


「ギ」


 五号が反応した。


 三号が棍棒を地面に打つ。


 どん。


 五号は黙った。


 月袋が揺れる。


 太陽性旧濾過脳が震える。


 発語まで、あと少し。


 次の資材確保日は近い。


 研究は続く。


 物流も続く。


 爆破も続く。


 ただし、順番を守って。


 以上。


 研究ノート第十三冊、終了。

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