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彼女の愛した英雄 ~銀翼のシルフィード~  作者: 相坂 恵生
第一章 千年王国の祭典
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魔法の真髄 7 -属性魔法性格診断-


 頭の中でぐるぐる情報を巡らせていると、硬い床を叩く音がした。

 カッカッと力強く、メーの後ろ足による頭を切り替えろという訴えだ。

 顔を上げるとメーはまた前足を組んで反りかえっていた。


「さて、実践訓練のアドバイスはこんなところにして、たのしいまほう教室と行こうかの」


 もう少し背を反らせば角が地面に着くんじゃなかろうか。

 本当に骨格はどうなっているんだろう。

 ハブッチが動物の骨格標本を趣味とした客を相手にしていたときに、羊のものも何度か見たことはあるが、このような動作は出来ないはずだ。

 こういう骨格の常識を逸脱した動きを見せられると、やはり自分の空想なのではないかと頭によぎる。

 いや、そもそも子供のらくがきのような物体にこのような推測や常識が当てはまると考える方が愚かなのかもしれない。

 詮索に当たるか微妙なところではあるが、一手試してみようか。

 思い立ったら即行動。

 気持ちよく答えてもらえるよう、元気よく手を挙げた。


「質問があるんですが、いいですか?」

「おうおう、やる気のある生徒は歓迎じゃぞ。なんでも聞いてみい」

「マニュアルの属性魔法ってどんな感じなんですか?」

「うん? 勉強熱心なのは結構じゃが、随分性急じゃな。無属性魔法の一端に触れたばかりでもう属性の魔法か」


 一端に触れた、か。

 確かに魔法のプロセスをもっと詳しく理解すれば違ってくるだろう。

 例えば”威力”。

 例えば”動作”。

 トーガとメーから教わったこの点は、いくつもの応用が可能であることがわかる。

 たぶんメーは今回、そういうことを教授しようと予定していたに違いない。


「やっぱり早いんですか?」

「オートマチックもマニュアルも、段階を踏むという点では同じでの。肉体強化の基礎を覚えずに属性魔法は扱えんのじゃ」

「そうなんですか?」

「せっかくじゃから1から説明してやるかの」

「ありがとうございます先生」

「フフン。案外呼ばれてみると良い響きじゃな、先生というのは」


 今にも歩きだせばスキップになりそうな様子で体を揺らしている。

 建国祭の夜店で出されるわたあめが振られているみたいで、ちょっとおもしろい。

 メーの場合だと唐突に中空を駆けだしそうではあるが、そうなるとたんぽぽの綿毛だ。


「属性のマニュアル魔法はかなり危険での。精霊の定義に守られておらんから、文字通りに怪我をするし、最悪死ぬ」

「え……そんなに?」

「オートマチック魔法で、炎を具現化しているところを見たことはあるじゃろう?」

「はい。ホーリィが得意なので」

「では不思議に思わなんだか? どうして術者は火傷しないんだろうとな」


 メーの話によると、オートマチック魔法に使われる魔力の大部分は”安全装置”に使われているらしい。

 炎を具現化すれば、術者の手や体などを熱から守る壁が作られる。

 風も同じだ。

 発生すると同時に衣服や皮膚を切り裂く可能性のあるエネルギーの塊りを覆うようにしていて、そこからこぼれ出る余波が髪の毛や布をはためかせる。


 質量を持つ地と水は、それを中空で持ち上げ続けることに魔力を使う。

 重量が増えれば増えるほど魔力の消費量が高まるらしく、調子に乗って余裕を見せていると維持できずに暴走させてしまう原因になるようだ。

 メーの懇々こんこんと語る様子から経験談であるようだが、あくまで第三者の失敗談としているので深くはツッコまなかった。


 そしてマニュアル魔法にはその”安全装置”がないため、同じ感覚で使用すると大怪我をすることになる。

 ではオートマチック魔法の方が優れているのか?

 否。

 メリットはデメリットと共にある。

 要は使い方次第なのだ。

 実例もすでに目にしている。

 体から離れた場所で属性魔法を発動させればいい。

 昨日の、10メートルほど先に鉄塊を生み出したトーガのように。

 これに必要なのは、遠くで発動させるための技術である魔力の”維持”や”操作”だろう。


 オートマチックは防御に魔力を消費しているが、マニュアルではすべてを攻撃に集中できる分、威力は爆発的に上昇する。

 強大な魔法詠唱者マジックキャスターが、新魔法の失敗で死亡する姿を描いた英雄譚も少なくない。

 もしかしたら彼らは、マニュアル魔法の習得中に命を落としたのかもしれない。


「こう言うては何じゃが、魔法のおさかなさんはかなり強力で応用の利く武器じゃぞ? 慌てて属性魔法に手を出さずともよいと思うんじゃがな」

「ホーリィやヘレナが使っている姿を見ているだけに興味が強いんです。それに属性には相性があるとも聞いていますし、自分の相性を早く知りたくて」

「おまえは風属性と相性がええぞ」


 エルフは風・水・光・月の精霊と相性がよいと言われているが、なぜ何の迷いもなく風と言い切れるのだろうか?

 憧れの英雄オストアンデルが風属性の魔法を使ったとトーガから聞いたから、願望がメーというカタチを取って言わせているのだろうか?


「……どうしてですか?」

「魔法というのは、イメージをしやすい物質の条件というものがあってじゃな。それを適切に選別する方法があるんじゃ」

「それはどういった方法なんですか?」

「性格診断」

「せいかくしんだん?」

「魔法の属性は簡単に分別すると、地・水・火・風・光・闇の6種類。精霊の属性などじゃと月や木といったものもあるので省略するぞ」


 メーはそう言って右前足を突き出して、神秘の光を収束させて岩を生み出した。


「地属性は情に厚く包容力があり、頑固な一面を持つ」


 その岩を蹄の上に乗せた後、メーは宙に浮かせて見せた。

 これは今、トーガから習っている魔力による”動作”だ。

 コマを使っての訓練で、この技術の難しさを思い知っている。

 幸いマニュアル魔法の一端に触れていたおかげで持ち上げることは出来たが、重い荷物を持ち上げるようにコマが震えてしまう。

 それに比べてメーの”動作”には淀みがなく、安定して中空に留まっている。

 そして、それがバカンと派手に砕けると光の粒子になって消滅し、今度は透明度の高い水が生み出された。


「水属性は冷静沈着であるが嫉妬深く、時に激しい」


 蹄の上で水の球がチャプリとおだやかにたゆとうと、次第に怒り狂う荒波のような動きを見せる。

 ここまで自在に操るのに、自分はどれほどの時間を要するのだろう?

 コマ一つ。石ころ一つ持ち上げるので精いっぱいの自分が――。


「火属性は情熱的で、悪く言えば短絡的で直情的。暑苦しい激情家じゃ」


 荒ぶる水が一瞬で蒸発したかと思えば、今度は炎が揺らめいていた。

 炎は先ほどの水と同じように暴れたかと思うと、羽ばたく鳥になった後、切り裂かれるようにして霧散する。

 本来見えるはずのないそれが、凝縮された空気としてメーの蹄の上で暴れていた。

 これは……風だ。


「風属性は自由奔放、天衣無縫。掴みどころがなく、後腐れのない性格と言える」


 メーの診断によれば、これが自分と相性の良い属性だという。

 つまり、いずれ自分がものにする一つの完成系のマニュアル魔法ということになる。 


「光属性は厳正公平で神経質。不正を嫌い、排他的」


 風音が止み、メーの蹄の上に直視するのが難しい光源が現れる。

 しかし、それはすぐに闇に呑みこまれた。


「闇属性は物静かでおおらか。無関心にも似た寛容さを持つ」


 どうなっているのかわからないが、そこに闇がある。

 闇とは本来、光が物体に当たることで作りだされる影だ。

 このように闇だけが中空に浮いているということはあり得ない。

 闇魔法というのもあまり目にすることが出来ない特殊な魔法であるため、しげしげと見つめてしまう。


「なんじゃ? 気に入ったんか?」

「ああ、いえ。闇属性の魔法って初めて見たので」

「まーそうじゃろな。搦め手に特化した魔法じゃし、四元素魔法や光属性に比べて扱いは難しいしの」

「そうなんですか?」

「相性がよくても扱いきれずに自爆するケースの多い属性なんじゃ。頭も必要じゃが、その分使い勝手は良いぞ。風の属性とのコンボで対象の五感のほとんどを封じることが出来るからの」


 メーが言うのだから相当に強力な魔法なのだろう。

 トーガも使えたりするんだろうか?


「ま。性格による属性診断はこんな感じじゃ」

「私って自由奔放ですか?」

「おまえ。わりと快楽主義じゃろ?」

「か……」

「やらしい意味じゃなくてな。行動原理に”おもしろさ”を求めるじゃろ」

「あー……」


 言われてみると、意欲的に取り組む理由には必ずソレが頭に浮かぶ。

 それにホーリィの得意属性の火と水の性格はかなり当たっている。

 目標に突き進む情熱と暑苦しいまでのお節介焼きで、相手を挑発しながらも冷静に状況を判断しているところなどはピッタリだ。

 ヘレナは地と風の属性を得意としているけれど、レパートリーの多さは地に偏っていた。

 ぽやっとしたやわらかい空気をまとっているが、どっしり構える度量と揺るがない価値観を持っている。

 そのためかなり頑固なところがあって、説得に苦労する。

 でもこうなると、メネデールの得意属性と性格が気になってくる。

 木と月と水と風。

 一番得意なのはどれだったか?


「性格と属性を関連付けるとこんなもんでの。

 大抵はいくつかの性格がそのまま相性の良い属性魔法の数になる。

 だからと言って複数の属性魔法を簡単に習得できるわけではない」


 あくまで性格による属性の相性であって才能の有無は別ということか。


「先天的というか、根本的な部分で風に属するおまえではあるが、誰かさんの教育の成果か働きの対価や物価に厳正公平性を求める神経質さや、頑なな価値観を持っておる。

 ゆえに光と地の属性とも相性がいいと言えるだろう。

 逆に水の属性とは相性がとても悪いし、木ともよろしくない。

 神秘性は皆無じゃから、月や闇との相性もあんまりいいとは言えんな」


 言われたい放題だが、どれも心当たりのあるものでぐうの音も出なかった。




 さて、属性魔法性格診断では、なんの属性だったでしょうか?

 ちなみにメネデールの得意な木の属性は、執着心と嫉妬心が強く、根に持つタイプです。


 この他にも月、回復、信仰、呪、仙、召喚、従魔といった属性や魔法適正と性格が深く関係しています。

 物語が進めば登場人物と得意魔法によってそれらが明らかになるので、気長にお楽しみください。


 次回更新予定日は7月18日(月)

 投稿時間は未定です。




 4日後じゃねえかよって思われたらすみません。

 どうしても全体の一人称化の修正とイラストの時間を取りたいためです。



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