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彼女の愛した英雄 ~銀翼のシルフィード~  作者: 相坂 恵生
第一章 千年王国の祭典
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魔法の真髄 8


「名前が水っぽいから水属性なのかなって期待してました」

「うん? わらわの記憶では、風を完璧にコントロールしそうな名前じゃがな」

「そうなんですか?」

「遺跡の記述に、大気の神に仕える従属神でウルルートサラーラというのがおったとある。夏には冷風を、冬には温風を生み出す気の利くヤツじゃったらしいぞ」


 初めて聞く神だ。

 神と一言にいっても、信仰の対象や恐怖の象徴であったり色々ある。

 水の王国ヴァスティタでも信仰の対象となる存在は1つや2つではない。

 例えばヴァスティタの国教”豊穣の女神”はロードスが独立した国であったころから信仰されていたし、城塞都市ラトレスが主に崇めるのは”湖の乙女”だ。

 南の大森林のエルフの信仰対象は”精霊の樹”だが、その精霊の樹が仕えるのは豊穣の女神。

 精霊や魔獣の神格化は少なくなく、ルットジャー氏族クランが統治する城塞都市ルセイスの都民は恐怖大狼ダイアウルフであるラファナスを神獣として崇めている。

 そのためルセイスの商人は王都へやってくると、メネデール邸へ必ず貢ぎ物を持ってくるのでラファナスが浮足立つ。

 はたから見ていると大きな犬が可愛がられているようにしか見えないが、ルセイス都民の言い分では信仰らしい。


 他にも、教国ドルミラフェンには主神が2柱おり、”誕生と復活の女神”と”死と静寂の男神”の夫婦が信仰されている。

 はるか南西の獣人王国ウェルイーラの国教は”富と繁栄の男神”だが、”怒りと復讐の神”とも言われている。

 あとの有名どころでは、北方の死の大地を加護する”狩猟と氷の女神”か。


 逆に大陸の主要国でも特定の神を信仰しないところもあり、大気の神というのは一度として聞いたことはない。

 その従属神ともなれば知るはずもなく、自分と似た名前であれば覚えもいいはずだ。

 遺跡の記述のようだし、滅びた古代の国や町が崇めていた神なのだろうか?


「なんだか恐れ多い名前だったんですね」

「偶然なのかどうかはわからんが、風の属性と相性がいいこともあるし、案外関係あるのかもしれんぞ」


 メーはガハハと口を大きく開けて笑った。


「それじゃ私もいつか、空を飛べちゃったり出来ますか?」

「なんじゃおまえ。お空を飛びたいんか?」

「はい。すごく飛んでみたいです」

「うーん。でも肉体強化でもかなりのものを習得せんと死んでしまうぞ?」

「死ぬまで行っちゃいますか」

「今の話の流れじゃと風の魔法で飛ぶってことじゃろ?」

「ええ。まあ……」


 まるで他にも方法があるような言い様だ。

 メーは2回とも空から飛んできたが、風の魔法じゃないのだろうか?

 記憶を振り返るとメーのモコモコの毛並みは揺れていなかった。

 じゃああの小さな羽で?

 いや、羽の浮力で飛ぶにしても空気の流れは発生する。


「強烈な風を人の身で浴びて飛ぶわけじゃから、ちょびっと加減を誤ると四肢が引き千切れるし、急動作に中身・・が耐えきれずにぺっちゃんこじゃ」


 予想していたより血生臭い失敗例に頬が引きつった。

 この場合の中身は内臓とかだろう。


「……即死ですね」

「飛べたとして着地は難しいぞ。わらわとてお肉の絨毯の生徒は見とうない」

「あー、飛ぶことばっかりで着地のことは忘れてました」


 そうか。着地か。

 昔、南の大森林で過ごしていたころに登った木から落ちたときに両足を折ったことがある。

 周りの大人のエルフがピョンピョン気軽に飛び移るものだから、案外簡単なんじゃないかと思ったのが事の始まりだ。

 回復魔法であっさりと完治したものの、父には怒られるし、母には笑われるしで散々だった。

 今ではそれなりに枝から枝へ飛び移ることは出来るが、強度の足りない木が多い王都周辺の森だとあまり使えない技術だ。

 キャロへの献上品の件もあるし、ラファナスを連れて本当に近いうちにエルフィンへ行くべきかもしれない。


「しっかり基礎をがんばります」

「うむ。基礎は大事じゃぞ」


 メーは満足げに何度も頷いた。


「ちなみにメーちゃんの得意属性ってなんですか?」

わらわか?」


 6属性を容易く扱っているのは目にしたが、得意なものというのはあるはずだ。

 あれだけ自在に操れれば得意も減ったくれもないかもしれないが。


わらわは風と火が得意じゃ。やさしいパパといぢわるなママから教わったからの!」


 天衣無縫の直情型。

 イメージがばっちりハマるように当たってる。


「うん? なんじゃその目は」

「性格診断の話の後だから見栄を張るかなって思ってました」

わらわがそんな小さな見栄なんぞ張るわけあるか。自分を偽ると心が曲がってしまうわ。ないしょを作ってもわらわわらわであることを絶対にやめんぞ」

「おー。メーちゃんカッコイイ」


 思わず拍手していた。

 この思い切りの良い応答は聞いていて実に心地いい。

 そのわりに所々で下手なウソがかわいくみえるのがなんともずるい。


「フフン。まあ、うざったく思われることも多い火属性ではあるが、上昇志向が強いところもあるのでな。いつも上を見て全力じゃ!」

「人生を一番楽しめそうな生き方ですね」

「おまえも大概じゃがな」

「そうですか?」

「やりたいことがいっぱいあると顔に書いておる。わらわはそういう輩が一等いっとう好きじゃ」


 背筋から肩までがざわりと騒ぐ。

 こんなにハッキリと好意を口にされると照れる。

 メーが実在して欲しいという気持ちがまた強くなってしまった。

 一手の狙いは十二分に得ている。

 あとは目覚めて確認するだけだ。


「よし、今日は気分がええので、大魔法を見せてやろう」

「大魔法……ですか?」

「おまえの師匠も言っとったろう。明確な未来のビジョンを持った方がやる気が出るとな」


 モチベーションを維持するにはほどよく成果を感じられることだった気がする。

 しかし、大魔法を見られるというのなら見てみたい。

 6属性のマニュアル魔法で容易く体現する、この大魔法詠唱者マジックキャスターの実力を目にする機会が向こうからやってきたのだ。

 断る理由はない。


「はい。メー先生」

「ウハハ。ええ響きじゃな!」


 火をおこす時に風を吹き込むとよく燃えるが、火と風の相性はいいのかもしれない。

 彼女が盛り上がるのを見るのは本当にたのしい・・・・


「よっこいせっと」


 メーが前足をぽんぽんと叩き合わせると、少し遠目に山が出来上がった。

 真っ白い世界に突然浮き上がるようにして現れた岩山だ。

 トーガが授業で生み出した黒い庭石は1メートルほどの大きさだったが、これはそれと比べるまでもなく勝っている。

 小城とまでは言わないが、王都レウノアーネの一等地最大の館と言われるメネデールの館と同程度の大きさだ。


「……なんですかあれ?」

「目標の石ころじゃ」


 あれを石ころ呼ばわりか。

 先生を名乗る立場上師匠のトーガに遠慮はしているが、メーの方が魔法の技術は上なのかもしれない。

 音もなく・・・・一瞬で、この巨石を生み出したのだから。

 こんなものを現実でポンポン気軽に放たれたら、王都が誇る城壁3層は見る影もなく崩壊するだろう。

 英雄ヒーネの魔法も常識を逸脱した代物で、それを間近で経験してきたメネデールからも足元にも及ばなかったと聞いている。


『一般人が定義する”英雄級”と英雄譚で活躍した”真の英雄”とは、十や二十では利かない百や千の力量差がある。

 英雄は英雄になるべくして現れ、英雄級はあくまで人間が到達できた頂きに過ぎない』


 そんな”英雄級”が語ったとされる吟遊詩人の歌が頭をよぎった。


「目をかっぽじってよう見ておけよ。おまえが目指す1つの頂きじゃ」


 私が目指す?

 風の魔法を見せてくれるということか。

 風の大魔法というとなんだろう?

 最近知った情報だと、大英雄オストアンデルは風の魔法を使っていたようだけれど、攻撃の手段として用いていたので大魔法とは言い難い。

 確かに相当な魔力操作と技術だとは思うが……。

 そうなるとはやり、英雄譚に登場する――。


「あっぷるじんじゃあ、まとんらむらむじんぎすかん!」


 あれ? ここで魔力が見える呪術魔法の詠唱?

 前回のリズミカルさとは違ってとても力強い口調だった。

 そして、その詠唱をきっかけになにか・・・が揺さぶられるような音がする。


 視線を周囲に走らせるが、視界が白く染まるだけだ。

 耳だけがその脅威が迫ることを教えてくれる。

 音の元は確実に空だ。

 メーが目標と言った岩山の上に目を向けると、胸騒ぎがした。

 目に見えないなにかがそこにあるのだと本能が警笛を鳴らしている。

 尻から腰、背中へと震えが広がってゆく。

 見るのが怖いのに目が離せない。

 次第に大気が震え、岩山が歪んで見え始めた。

 見えるはずのない風が、視覚に干渉しているのだ。

 それは白くもあり、岩山を囲う広大な竜巻として姿を現した。


「〈暴風の刃ブレードミリオン〉!」


 メーの咆哮によってすべての音が豪風に飲みこまれる。

 もうなにも聞こえない。

 メーが竜巻を指差してなにやら言っているが、耳が捉えるのは風の音ばかり。

 かなり離れていたはずだが、魔法の余波は冗談のように重い風を叩きつける。

 まるで急流の中に立つような踏ん張りでやっとそこに居られる。

 これがあの、砂龍サンドワームを一撃で葬り去った、大魔法詠唱者マジックキャスターマース・トカートルの風魔法か。

 もはや岩山は風に包まれて見えないが、重々しい破砕音で存在を示していた。

 白い風に時折石つぶてが混じって見える。

 距離を考えると大人よりも大きいはずだ。

 それもすぐに風に呑まれ、岩同士がぶつかり合う音が混じった。

 何ものの存在も許さない風の大魔法は、破壊の権化となって岩山をむさぼっていた。


 そして次第に強まる余波は、私が地面に立っていることを許さなかった。



「フゥアーッハッハッハ! わらわにしてみればマースの風魔法もこの通りよ!」


 メーの自慢げな声を聞くものは誰も居なかった。




 目が覚めると、ベッドの中に居た。

 透ける若草色の天蓋に、薄手のシーツ。

 カーテンの隙間からは日が差し込んでいる。

 自分の部屋だ。

 寝ぼけまなこで身体を起こすと五体満足で、寝るときのいつもの格好だった。

 夢から覚めたのだと、安堵の息を吐いた。

 夢の出来事はハッキリと覚えている。

 得意げに竜巻を指差していたメーの姿が印象的だ。

 確かにひっくり返った彼女を引っ張り起こしたときに成人女性ほどの重さを感じたが、あの暴風の中で日常通りに動いていたのには驚いた。

 肉体強化の魔法なのだろう。


「それにしても……」


 風の大魔法の壮絶さを余波とはいえ味わうことになるとは思わなかった。

 吹き飛ばされただけとはいえ、あれがもし竜巻に引っ張り込まれていたらと考えるとぞっとする。

 しかし、一番気になるのはそこではなかった。


”あっぷるじんじゃあ、まとんらむらむじんぎすかん!”


「アレって魔力が見える呪術魔法の詠唱じゃなかったんだ……」


 勝手に勘違いしたとはいえ、踊らされた昨日の自分を思い出すと恥ずかしい。

 だとしてアレは、一体なんだったんだろうか?


”魔法の詠唱の文言は、術者がより明確にイメージするための装置であり、繰り返し行うことで素早く精神を集中しやすくなる

『おまじない』のようなものです。”


 ふと、トーガの言葉がよみがえった。

 羊が羊を食材にしたおまじないを唱えるなどとは夢にも思わない。


「悪趣味すぎるよメーちゃん」


 休めた身体とは別に、疲れ切った精神に従ってベッドに倒れ伏した。




 メーの大魔法炸裂(余波)!


 執筆環境が変わって全体の大修正が少し加速しました。

 今回は修正前の続話として情報規制しています。


 話の大筋はかわりませんが、

 修正後はウルールがもっと活き活きして表現も変更される予定です。


 次回の更新予定日は7月21日(木)

 投稿時間は未定となります。




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