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彼女の愛した英雄 ~銀翼のシルフィード~  作者: 相坂 恵生
第一章 千年王国の祭典
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魔法の真髄 6


「アドバイスをやるとは言ったものの、わらわは先生であって師匠ではないからの。

 師匠には師匠の考えがあるゆえ、先生はそれを尊重せねばならぬ」

「メーちゃんもそういうこと考えるんですね」

「あたぼうよ!

 先生は生徒に影響を与えるもんじゃが、師匠は弟子の人生の一部を背負うからの。

 出過ぎた真似をするなら宣戦布告と同じというのは、どの国のどの世界でも共通じゃ」


 メーは二足歩行で前足組みをし、フフンとあごを上げて見せる。

 正論だ。

 師匠と先生が同時に居る場合、発言や指示の優先度はまさにその通りだ。

 師匠が魔法を中心に学ばせる方針を取っている中、武術の先生を雇ったとしても弟子の教育方針の舵を取るのは師匠だ。

 たとえ魔法よりも武術に才能があったとしても、先生の意思によって方針を変更することはあり得ない。

 先生が出来るのは、師匠へ意見具申するくらいが精々だ。

 だから本当に筋を通すのなら、師匠であるトーガに内緒でメーを先生に置くのもよろしくないことだった。


 ただ、彼女が自分の――ウルール・サラーサ・エルフィンの生み出した夢の住人である可能性はゼロではない。

 頭の中に記録した情報の整理に現れた存在であるなら、問題にはならないのだ。

 付き合いを続けたいと思っているだけに実在して欲しくはあるが、魔法の先生としての有能さを考えると夢の住人であって欲しいのだからもどかしい。

 成長過程にある自分の立場を利用して、その時々で大人と子供を使い分けているような座りの悪さがある。

 交渉術に容姿や男女を利用するものがあるも理解はしているが、出来れば使いたくないというのは未熟さゆえか。

 母のララーナなどは、若い外見を存分に利用するクチだ。

 あざとくも瞳をキラキラさせて交渉する童顔のエルフは、商業組合にもファンは多い。

 いずれは越えねばならない壁ではあるが、高く分厚いなと思った。

 約束・・の件もあるから詮索はしないが、実在するか否かだけはどこかでハッキリとさせておきたいところだ。


「とりあえずアドバイスから済ませてゆくかの」


 そう言ってメーはこちらに向き直った。

 彼女の中でアドバイスの方向性と話の終着点が決まったようだ。

 一体どんな攻略法を伝授してもらえるのだろうか。


「ではウルールに問おう。おまえの思う良い弟子・・・・とはなんじゃ?」

「……い弟子ですか?」


 どういう意味だろうか?

 スーとの実践授業へのアドバイスだったはずだが……。


「師匠の期待に応えられることでしょうか?」

「では師匠は、弟子に何を期待するんじゃ?」

「えっと。……成長?」

「ずいぶんとアバウトじゃなぁ」


 やれやれと肩をすくめて、ため息を吐かれてしまった。

 当たり障りのない解答につまらないというのが表情に出ていた。

 子羊の顔だけど。


「師匠が弟子に望むのは一つだけじゃ。師匠の意図をいち早く掴むこと」

「気が利く従士みたいになれってことですか?」

「今のおまえの発言でどれくらい厄介な弟子かがようわかったわ。

 察する早さが優秀さを決める点は、弟子も従者も同じじゃ。

 違いは、与えた課題や試練の意図を察してクリアすること。

 おまえが今しがた言った成長じゃな」


 ああ、なるほど。

 手取り足取り知識と技術を与えるのが先生で、限られた情報を与えて学びとるのを待つのが師匠ということか。


「……スーちゃんと実践訓練することにも、隠された意図があるということですか?」

「うむ。そのことをよう考えよ。

 わらわがやれるアドバイスはこんなところじゃな。

 言われたことを覚えて素直に従うだけなら、弟子である必要はない。

 弟子が師匠からなにを授かるかをよくよく思い出す・・・・ことじゃな」


 メーに言われて改めて思う。

 私は察しが悪く、どんくさい。

 目利きや商売に関わるやり取りはそれなりに身についているが、それ以外のことはかなり間抜けだ。

 大イノシシを見たハブッチの発言を取り違えたり、国境付近の情勢が”怪物”の温床であることに気付かなかったり、メーの詠唱が食材の羅列だと気付かなかったり。

 弟子入りしてまだ1日だが、トーガに失望されてはいないだろうか?

 ああ、違う。

 今はそんな心配をしたところでなにも意味はない。

 メーの言うことを信じるなら、よい弟子となるべく考えるべきなのだ。

 弟子が師匠から授かるものといえば、知識や技術だ。

 しかしそれは先生でも授けることが出来る。

 となると、もうひとつの方だろうか?

 そうなると制限時間の10分にも意味がある?

 実践授業ではなにを言われたのだったか。


”想像力の欠如。判断が甘く、遅い”


 対応能力の低さ。観察力や洞察力のテストだった?

 何度も3姉妹に作戦会議の時間を与えていた意味とはなにか。

 スーには死の概念がない。

 物理攻撃は無効。

 魔法攻撃も一時しのぎにしかならない。

 遠慮も何もいらない対戦相手が現れて、全力で戦うことに執していた。

 ホーリィだけでなく、ヘレナも実力を認めてもらおうと躍起になっていた。

 姉妹揃って他の可能性について考えることをやめていたとも言えることだ。


”実践訓練というのは勘を育てる。ただの訓練と違って周囲の状況判断も必要となり、スタミナの消費が早い”


 ナイフやレイピアの先生である、大叔父ゼシオンの口癖だ。

 もしかして勝利を目指すことに意味はない?

 実践で負けるというのは、ほとんどの場合死を意味する。

 ルットジャーの血統であれば、死よりも悲惨な未来が待っている。

 特に女は地獄だ。

 エルフでの実例を聞いて育つのだから、ルットジャーの血統の女は男よりも敵に容赦しない。

 それがどんな相手であってもだ。

 数代前の話になるが、初の女当主となったシャーリー・ルットジャーは《鮮血の魔女》の二つ名を持つ傑物で、逸話に事欠かない。

 他の6大貴族の当主だけに留まらず、幼さに任せた暴挙を見せた王子の頬を公然で打ち、国王に啖呵を切ったのは今でも伝説だ。


”民を蔑ろにする王に未来はない。民を愛せ。臣下を愛せ。施さずに栄えさせよ!”


 政治手腕も見事なものでルセイスの酪農事業を拡大して販売ルートを確保する他、各地の若手冒険者と専属護衛契約を結んで、望む者には基本的な戦闘技術を学ばせて生存率を高めるなどに貢献した。

 彼女のこの働きによって6大都市の冒険者組合には、引退した冒険者の働き口にもなる訓練所が用意されるようになった。

 決して広くもなければ常に講師が控えているわけでもないが、駆け出しの冒険者が格安で技術を学べる環境が整えられたのは大きく、働き口のない三男や四男といった若者が夢見て6大都市を目指すきっかけとなった。

 また、敬虔な豊穣の女神の信徒としても有名だったため、ロッタル侯爵家とラトターナ侯爵家との結びつきは強く、各地の信頼も厚かった。

 そんな彼女も意見者に耳を傾ける度量はあったが、牙剥くものには徹底的な死をもたらした。

 その最たるものが、若き禁忌の魔術師トランセンデンタルのアブスターフ率いる帝国軍による、エルフとルットジャーの血統の奪取を目的とした襲撃に対する報復だ。

 彼女は形勢の不利を理解して命乞いする帝国兵を、ことごとく血肉の絨毯にして殺して回った。

 正式な戦争として宣言された襲撃でなかったことが、逆に大きな被害を生む結果になったと後の皇帝は語っている。

 ルットジャー氏族クランでも、歴代2位の実力者と言われるだけのことはあるエピソードだ。


 内容が内容だけに英雄譚として扱われることはないが、《鮮血の魔女》はジェーネクラモール劇場で人気の演目の一つとなっている。

 ちなみにシャーリーに打たれた王子は、紆余曲折を経て王位を継承し、戴冠式でのシャーリーの忠誠の言葉に感涙して立派な王として生涯を閉じている。

 そして彼の更生物語としての人気も少なからずあった。


 この他にもルットジャーの血統の女は、誘拐を企てた盗賊や流れ者の傭兵崩れのゴロつきを相手にした殺戮は有名であり、隣国からも恐れられている。

 噂によると「ルットジャーの姫君が黙っていないぞ」と言うと盗賊が逃げ出すらしい。


 こうして振り返ると自分たち3姉妹もかなり血の気が多い気がしてくる。

 今までの戦い方は、才能に任せて攻撃を最大の防御としていたところがある。

 氏族クランの戦闘スタイルも引き際の見極めと、効率よく敵を仕留めることが課題になることが多い。

 当然歴史学者であるトーガ・ヴェルフラトもそれは知っているはずだ。

 ではそんな師が、これから旅に連れまわすであろう幼い弟子に授けるものがあるとすれば?


”師は弟子に、その世界での生き方を授ける”


 スーとの実践訓練の制限時間の10分は、生存率を上げる戦い方を学ぶものなのかもしれない。

 もっとからめ手について研究するべきか。

 ホーリィやヘレナと相談してみた方がいいだろう。




 うん、うまく時間が取れないので修正が進まない!

 登場人物紹介やら挿絵は雰囲気が伝わればいいかなとか妥協しそう。


 正直シャーリー・ルットジャーが暴れまわる話とかおもしろそうだなと思ったけど、

 本筋進まないからやめた。


 次回更新予定日は7月14日(木)です。

 投稿時間は未定でお願いします。



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