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彼女の愛した英雄 ~銀翼のシルフィード~  作者: 相坂 恵生
第一章 千年王国の祭典
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トーガの授業 4

 ちょいと勘違いしてました。

 例の物体Xは次回となりますん。



 午後のティータイムを挟んでからの実践訓練がトーガから提案され、ホーリィは鼻息を荒くした。

 トーガの意図は3姉妹の実力のほどを知ろうというものだったのだろうが、姉には別の目的があるようだ。

 服装もサリーではあるが、戦闘向きの物に着替えている。

 自分も後ろ腰には2本の大型ナイフの他に、数本の小ナイフを仕込んだベルトを下げている。


挿絵(By みてみん)


「せっかくなので、ヴェルフラト先生自らがお相手してくださるとやる気が出るわね」 


 魔法の実力差はすでに理解していただろうに、やたら殺気を混じらせた目を向けていた。

 スーを相手に訓練を提案されていたが、ホーリィは試合うには不服であると主張した。

 昨日の氏族クラン会議でなにかの命令があったんだろう。

 たぶん、トーガ・ヴェルフラトの実力を計るとかそんなヤツだ。

 敵になろうと味方になろうと、ある程度実力を把握しておきたいというのはどこも同じだ。


 それに、魔法に長けているからと言って戦闘に長けているとは限らない。

 学者タイプの魔法詠唱者マジックキャスターというのは、実践を苦手とする者が少なくない。

 伝承や文献から新たに魔法を発掘したり、就職に有利な属性魔法を覚えたという人間は、実戦経験のない方が圧倒的に多い。

 加えて単独で戦闘を成立させる魔法詠唱者マジックキャスターはかなり稀だ。

 自分は大イノシシを仕留める瞬間を遠目ながらも見ているが、ホーリィは話を聞いただけ。

 トーガ・ヴェルフラトの腕を試したいと考えるのは不思議なことではなかった。

 特にホーリィはレイピアを片手に水と火の属性魔法を叩きこめる実践派魔法詠唱者マジックキャスターであるため、興味があるのだろう。

 大陸に点在する”遺跡”を巡る人間の実力というものに。


「ではルールは簡単に行きましょう」


 トーガは何の躊躇もなく、快諾と同時にルールを挙げた。


 1つ、武具の使用制限はない実践方式。

 2つ、魔法・闘技の制限はない。

 3つ、制限時間は5分で、3姉妹が気絶または戦意の喪失による戦闘不能で負け。

 4つ、3姉妹の攻撃が一度でも入れば勝利。

 5つ、もしも・・・勝利することが出来れば弟子入りを認める。


 5つ目のルールにホーリィのこめかみに青筋が立った。

 ルットジャーの3姉妹を同時に相手にしても、一撃を入れることさえ叶わないと言われてカチンと来たようだ。

 ホーリィのレイピアの腕前は、王国騎士剣闘術の中級位者を倒す程だ。

 魔法も上級の習得にこそ至らないが、姉2人だけでも4属性が扱え、覚えたてとはいえウルールの〈魔法の川魚マジックトラウト〉の威力はかなりのものだ。

 魔法を組み込んだ連携戦闘なども、英雄級と評される大叔父ゼシオンから指導を受けている。

 意図したものでないとしても――いいや、意図していないものであるならなおのこと許せない発言だった。


「ヴェルフラトさん・・も全力でどうぞ。身を守るので精いっぱいかもしれませんけどね」


 ホーリィの挑発に、トーガはいつもの頬笑みを浮かべるだけだ。

 それが火に油を注ぐ反応だと知っているのかわからないが、ウルールから見てもホーリィの口元は禍々しく歪んでいた。

 さすがに少々不安が過ぎる。

 本気で殺しにかかったりしないだろうか……。


「ホーリィ、あのさ……」

「ウルール。たぶん大丈夫よ」


 冷静さを問おうと口を開いたウルールに、ヘレナが笑いかけた。


「たぶんって……」

「ヴェルフラト先生は本気で言ってると思う」


 言ってから、ヘレナはメネデールを見た。


「私たち3人がメネデールさまを相手にして勝てたことってある?」

「……ないね」

「なら大丈夫」

「判断基準がそこでいいのかな?」

「お2人ともとても落ち着いていらっしゃるわ。

 ホーリィもそれはわかってる。

 ただ、実力を計る段階で3人同時に相手にして負けないと断言されたのが悔しいのよ」

「言いたいことはわかるけどさ」

「ウルールから見てヴェルフラト先生はどれくらい強い?」


 ヘレナの質問に言葉が詰まった。

 540キロもの大イノシシを素手の一撃で仕留め、それを王都まで軽々と運んで疲労を見せない肉体強度。

 魔法理論を説明しながら上級魔法を同時に2つ発動させる。


「英雄級」

「私もそう思うわ。

 メネデールさまが私たちを弟子入りさせようって言うんですもの。

 だからホーリィは少しでも実力を認めてもらおうと思ってるのよ」

「だとしても殺気立ち過ぎだけどね」


 ヘレナはくすくすと口元を隠して笑う。

 そんな2人の隣りで、ホーリィは力強い声を小さく出した。

 

「作戦プランはCで、ウルールは〈魔法の川魚マジックトラウト〉のフェイクを混ぜて牽制」

「私の魔法は組みこまないの?」

「覚えたての魔法を練習も無しに連携に組み込めるわけないでしょ。

 ゼシオン大叔父様からみっちり指導されたパターンにフェイントで組み込むくらいで充分よ。

 あの威力を知ってたらフェイクでも相当な圧力になる」

「よかった。いつものホーリィだ」

「当たり前でしょ」


 ホーリィが自分の魔法をかなり評価しているのだと知って頬がゆるむ。


「でも〈魔法の川魚マジックトラウト〉のフェイクは難しいかも」

「そういう空気だけでも出せたらいいのよ」

「空気かぁ……」

「2人が近接戦闘に飛び込んで、私は地と風の属性魔法で距離を取らせないよう牽制するのね」


 目にハッキリと見える地属性魔法で足元を狙い、目視出来ない風属性魔法での一撃を狙う。

 ヘレナの得意な戦法だ。


「ヘレナの魔法がこの作戦の肝よ」

「3人って手数の多さを生かして、トーガさんの手札を減らすんだね」

「あんな反則みたいなマニュアル魔法を遠巻きにガンガン打たれたら手も足も出ないわ」

「同感ね」

「ヘレナは一応頭上に注意よ」

「拳大の石ころでも気絶は狙えるものね」

「正直近接戦闘でどれくらい持つか自信がないなぁ」

「そんなすごいの?」

「避けると同時に540キロの大イノシシを一撃で仕留めるんだよ?」

「……レイピアの一突き目は充分気をつけるわ」


 作戦の確認を終えて、対戦者に手を振って見せる。

 それほど離れてはいないが、試合の前に下手に会話をすると緊張感が薄れる。

 ヘレナは小杖ステッキを手に。

 ホーリィはレイピアを手に。

 ウルールは後ろに手をやって構えた。

 

 トーガは自然体で、ただただ立っているだけだ。

 隙だらけだが油断はできない。

 彼は予備動作もなく魔法が飛び出すし、どんな拳闘術なのかもわかっていない。


 不安を吐きだすように静かな深呼吸を繰り返していると、トーガがいつでもどうぞと右手を差し出した。


 そして、メネデールの手によって開始の合図に弾かれた小銀貨が、宙を舞う。

 それが地面を叩いた瞬間に、戦闘の火ぶたは切って落とされた。


 開始早々にウルールの手から小ナイフが2本投げられ、ホーリィが駆けだした。


「”天と分かちし すべての母よ

 迫りし愚かな獲物を 貫き留めよ”」


 ヘレナの詠唱を背に、次の小ナイフを手にしてホーリィに続く。

 トーガは迫り来る2本のナイフを前に棒立ちだ。


 弾くのか、避けるのか。

 弾いてその場に留まればホーリィのレイピアによる刺突が――。

 ナイフを避けやすくした先にはヘレナの魔法の追撃がある。


「<大地の釘針グランドスパイク>」


 ヘレナの魔法の発動で、トーガの左側の足元に20センチほどの鋭い岩トゲが無数に広がった。

 これは当たらなくてもいい。

 逃げ道を減らすのが目的だ。


 しかしトーガは2本のナイフを片手で受け止めてその場に留まった。

 それでもいい。


「ツァッ!」


 ホーリィの曲げ縮んだ腕が、気合いの声と同時に伸びて刺突が繰り出される。

 トーガは落ち着いた動作でその剣先を躱す。

 誰の目にも余裕が見て取れる鮮やかさだった。


 ホーリィへ追撃が向かぬよう、ウルールは手にしていた小ナイフをトーガへ向かって投げる。

 今度は2本に時間差を作って――。

 即座に後ろ腰に携えた大型ナイフに手をかけ、直接攻撃に備えた。


「”天へと昇りし ゆらめくものよ

 我が叫びに従い この手にたけれ”」


 ホーリィの詠唱が始まり、投げたナイフを追うようにトーガへ向かって飛びかかる。

 2本の大型ナイフを逆手で抜き放ち、低い姿勢で狙うのは太ももだ。


「”天と地を旅せし 自由なものよ

 行く手を阻みし壁を 切り裂き進め”」


 ヘレナの追撃を狙う詠唱が聞こえた。

 3人それぞれの本命は近い。

 トーガはウルールの放った第一陣のナイフをトゲの海に捨て、第二陣のナイフを避けた。

 こちらの思惑にハマった確信に、笑みが浮かぶ。


 回避行動というのは隙が生まれる。

 それが1度なら小さくとも、2度、3度、4度と連続すれば違ってくる。

 回避の中で重心を丁寧に移動するのは想像するよりも難しく、バランスを崩すきっかけとなる。

 特に頭を振れば三半規管が麻痺を始めてしまう。


「<火炎の矢フレイムアロー>!」


 派手に燃え上がる炎の矢が、ホーリィの左手から放たれてトーガの前髪を大きく煽る。

 トーガは上半身を軽く反らす姿勢を取った。

 まだこれからその上半身を振ってもらわねばならない。


「〈疾風の刃ウィンドカッター〉」


 見えない風の刃が無慈悲に迫る。

 背後に広がるのは、足を貫く石トゲ。

 堪らず飛び退けば足はズタズタになり、避け切ったとしても次のコンビネーションの餌食だ。

 無理にかがめば大型ナイフが踊る場所に顔を突っ込むことになる。


 チャンスは来た。


 両の手に収まるナイフで膝、太もも、腹、胸の順に切りつける。


 勝った。

 そう思った。

 しかし――。


 切りつける瞬間に体が重くなった・・・・・・・

 最初は膝を狙った右手。

 なぜか地面を叩いて持ちあがらない。

 次に太ももを狙おうとした左手。

 前に突き出すこともままならず、ズシリと投げられた水袋を受け取ったような重みに耐え切れなくなって頭から崩れた。

 足も持ちあがらず、体を持ち上げて蹴りを見舞うことも叶わない。


 自分は何らかの方法で自由を奪われたのだと、次の攻撃手のホーリィへ目を向けると同じように倒れ伏している。

 レイピアを握る右手は地面に深く突き刺さり、左手には石の塊りがへばりついている・・・・・・・・

 ヘレナを見ると、水の塊りが両手を拘束していた。


「いいコンビネーションですね」


 さも当たり前のことを確認するようにトーガは言った。

 開始から1分と持たずにルットジャーの3姉妹は完全に無力化され、敗北したのである。




 おかげさまで体調はだいぶよくなりました。

 3日ごとの更新に戻れそうです。


 これを書いてるときに

 ストーリーチャート1つ抜かしていることに気付いたので、

 謎の物体Xのまほーきょーしつは次回になります。


 次回更新予定日は、7月4日(月)です。

 時間もちょっと自信がないので未定と言うことでお願いします。


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