60 カラオケルーム
紫苑とゲーセンに来たものの、モヤモヤした気持ちを抱えたまま心から楽しむ事が出来ない。
そんな僕の様子に気づいた紫苑が「どうした?」と僕の顔を覗き込む。
僕を気遣うような視線を受けて、思わず唇を噛み締めた。
さっきの女性に向けた紫苑の視線は、もっと優しいものだったように思えた。
(やっぱり僕の事より彼女の方が好きなんだ。僕に優しくしたりするのは、ただ単に僕をもて遊ぶためだけだったんだ……)
そう思ったら無性に腹が立ってきた。
ギュッと握りしめた拳がブルブルと震える。
「雅樹?」
それに気づいた紫苑が僕の方に手を伸ばしてきたが僕は思いっきりそれを振り払った。
「放っといてくれよ。僕より彼女の所に行けばいいだろ! 浮気されてるのに気づかないなんて!」
「は?」
紫苑が怪訝な顔で僕を見つめてくるが、僕の口はもう止まらない。
「さっき、紫苑が女の人と一緒にいるのを見たんだ。彼女は紫苑と別れた後、別の男の人と何処かに行っちゃうのも……」
そうぶちまけながら僕はポロポロと涙を零していた。
心の中はわけのわからない感情でぐちゃぐちゃだ。
周りにいる人が涙を流している僕をチラチラと見てくる。
紫苑はそれに気づくと僕の手を取ってゲーセンの出口へ向かった。
「場所を変えよう。雅樹だって好奇の目に晒されたくないだろ?」
紫苑に引っ張られながら、僕は空いている手で涙を拭う。
紫苑はそのまま商業施設を出ると、近くのカラオケへと入った。
テキパキと手続きを済ませた紫苑と共にカラオケルームの中に入った。
「ここなら誰にも聞かれる心配はないからな」
紫苑は僕を座らせるとピタリと身体を密着させるように隣に座った。
個室ではあるけれど、扉の一部はガラス張りで中が見えるようになっている。
こんなに密着してていいものかと思いながら、誰かに見られるかもというスリルにドキドキする。
「それで? 彼女が浮気ってどういう事だい? 僕の恋人は雅樹しかいないんだけどな?」
俯いていた顔をクイと持ち上げられ顔を覗き込まれる。
紫苑の青い瞳が僕を捉えて離さない。
「……さっき見ちゃったんだ。紫苑が女の人と一緒にいるところ……。それで何となく気になって女の人の後をつけたら、別の男の人に会ってて……」
「それで僕の彼女が浮気をしてるって思ったわけ?」
僕の言葉を継いだ紫苑に頷いてみせると、怒ったような顔をしていた紫苑がプッと噴き出した。
紫苑は僕から手を離すと大声で笑い始めた。
今まで見た事のないほど大笑いをする紫苑に僕は無性に腹が立ってきた。
「何でそんなに笑ってるんだよ!」
腰を浮かせようとした僕を押し留めた紫苑は軽く指で目元を拭った。
涙が出るくらい笑うなんて、何がそんなに可笑しいんだ?
紫苑はようやく落ち着いたようで再び僕の方に向き直った。
「雅樹にはちゃんと言っていなかったな。さっきの彼女は僕の妹だよ」
え? 妹!?




