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59 追跡

 彼女は前回と同様に紫苑の腕に自分の腕を絡めている。

 紫苑もまた、それがまんざらでもないような笑みを彼女に向けている。

 美男美女で目立つ二人を周りの人達がチラチラと振り返ったりしている。

(やっぱり紫苑は僕よりも彼女の方が好きなんだ……)

(僕の事を好きって言ったのは、普段の生活を円滑なものにするための方便なんだ……)

 そんな考えが頭の中をグルグルと渦巻いている。

 僕がすぐ後ろを歩いているのに紫苑はこちらを見向きもしない。

(これ以上ここにいても仕方がない。もう帰ろう……)

 そう思った時、何故か彼女は紫苑から腕を離すと「じゃあね」と、紫苑とは別の方向へ歩き出した。

 紫苑も「またな」とあっさりと見送ってそのまま真っすぐに歩き出す。

(まだ、お昼にもなっていないのに、何で……?)

 僕はほんの少し迷ったけれど、彼女の後を追う事にした。

 彼女は商業施設の中を歩いていくが、ただブラブラと歩いているのではなくて、何処かに目的地があるような歩き方をしていた。

 すぐに彼女は誰かを見つけたようにパッと手を挙げた。

 その先には紫苑とは別のタイプのイケメンが立っていたが、すぐに彼女に気づいたように軽く手を挙げている。 

(え? 何で? 紫苑が恋人じゃないのか!?)

 男性はどう見ても僕達よりは年上に見えた。

 彼女が男性に近づくと、男性は自分の腕を彼女の腰に回し、自分に引き寄せるように歩き出す。

 その仕草だけで二人が深い関係だと物語っていた。

(何で!? 紫苑が恋人じゃないのか!? ……まさか、二股!?)

 だが、それを言うなら紫苑も僕と彼女に二股をかけている事になる。

 つまり、紫苑と彼女は他に付き合っている人がいながら、僕やあの男性と付き合っている事になる。

(何で? 一体どういう事なんだ?)

 僕が混乱している間に二人はそのままどこかへ消えていく。

 僕はもう追いかける気力もなくそこに佇んでいた。

 すると、スマホがメッセージの着信を告げる音を立てた。

 スマホを取り出して確認すると、紫苑からメッセージが入っていた。

『今、商業施設にいるんだけれど、出てこられる?』

 僕が自宅にいると思ってのメッセージなのだろう。 

 少し迷ったが、『了解』とメッセージを送る。

 すぐに『ゲーセンにいる』と返事があり、僕はすぐにゲーセンを目指した。

 紫苑はゲーセンの入り口に佇んでスマホを見ていた。

「紫苑」と声をかけるとびっくりしたように顔を上げた。

「雅樹、随分早かったな」

「うん、僕もここにいたからね」

 少し含みを持たせたが、紫苑はそれには気づかなかったようだ。

 さっきの女性と一緒にいるところを見られたとは思っていないようだ。

 僕は先ほどの出来事を紫苑に告げられないまま、紫苑とゲーセンで過ごすのだった。



 

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