58 外出
翌朝、起きて真っ先に自分の顔を確認したが、案の定潤也の手が当たった箇所は見事に青痣になっていた。
(……まいったなぁ)
だけど、今日は文化祭だ。
学校を休むわけにはいかない。
「イテテ」と身悶えながら歯磨きと洗顔を終えてダイニングに向かう。
紫苑は既にテーブルに着いていたが、僕の顔を見るなりちょっと険しい顔をした。
「あらあら、結構痣になったわね」
母さんは僕の顔を見るなり、引き出しからマスクを取り出した。
「今日はこれを着けて行きなさい」
「ん」
僕はそれを有り難く受け取って朝食を食べ始める。
朝食を終えると僕と紫苑は母さんに「いってきます」と告げて家を出た。
エレベーターホールに向かうと今日は僕達以外は誰もいなかった。
「大丈夫か?」
紫苑は僕の顔に触れようとして、慌てて手を引っ込める。
そして周囲を確認すると、そっと僕の額に唇で軽く触れてきた。
こんな秘密の触れ合いに僕の心は更に落ち着かなくなる。
エレベーターが到着すると、中は数人の人が乗り込んでいた。
僕と紫苑は他人のフリをして少し離れた位置に足を運ぶ。
いつものように紫苑の数メートル後ろを歩いていると、向こうに潤也が立っているのが見えた。
「……雅樹」
遠慮がちに声をかけてくる潤也に僕はちょっと咳をして喉の調子が悪いフリをする。
「おはよ、潤也。どうも風邪を引いちゃったみたいでさ。熱はないけど用心のためにマスクしてきた」
さりげなく周りに聞こえるように告げると、潤也は一瞬泣きそうな顔を見せたが、すぐに呆れたようなため息をついてみせた。
「はぁー、何やってんだよ。しょうがない奴だな。せっかくの文化祭なのに……。あまり無理すんなよ」
そう言って僕と並んで歩き出すが、ほんの少し潤也と距離が開いているのは気の所為ではないだろう。
文化祭も終わった次の日曜日。
少し遅めに目覚めてリビングに行くと、母さんとお義父さんはいたが、紫苑の姿はなかった。
「おはよう、雅樹。紫苑はさっき『お昼はいらない』って外出したけど、あなたはどうするの?」
「え?」
まさか、紫苑が外出するとは思わなかった。
僕には何の連絡も寄越していない。
そこで、ふと以前見かけた女性の事を思い出した。
(まさか、また彼女と会っているんだろうか?)
僕を『好きだ』と言いながら、紫苑は女性とも付き合っているんだろうか?
モヤモヤとした気持ちがグルグルと僕の中で渦巻いている。
「僕もお昼はいいや。ちょっと出かけるね」
そそくさと外出の用意をして自宅を出た。
もしかしたらまたあの商業施設にいるんだろうか。
確信も持てないまま、僕は商業施設へと向かう。
日曜日ということも相まって商業施設は大勢の人でごった返している。
こんな中で紫苑を探すなんて至難の業だ。
それでも一縷の望みを抱いて僕は商業施設の中を歩き回った。
だけど、何処を探しても紫苑は見つからない。
そもそも、紫苑を見つけてどうするつもりなのかもわかっていない。
諦めかけたその時、例の女性と一緒にいる紫苑を見つけた。




