56 潤也の告白
突然の事に僕はどう対処していいのか動けずにいた。
そんな僕に対して潤也は抱きしめる腕に更に力を込めてくる。
「ずっと雅樹が好きだったんだ。こんな気持ちお前には迷惑かもと思ったけど、これ以上黙っている事に耐えられなくなったんだ。なあ、雅樹。俺の気持ちを受け取ってくれよ」
抱きしめられたまま、潤也から告げられる言葉に僕はどう返していいのかわからなかった。
潤也とはずっと仲の良い友達だと思っていて、恋愛対象なんて考えてもいなかった。
僕が何も返さない事で潤也はそれを肯定だと受け取ったようだ。
潤也は少し力を緩めると僕に向き合うような位置に顔を持ってきた。
そのまま潤也の顔が僕に迫ってくる。
(まさか! キスされる!?)
潤也の身体を押し返そうとした瞬間、グィと潤也の身体が引き剥がされ、誰かが僕と潤也の間に立ち塞がった。
驚いて目を瞬くとそこには紫苑の大きな背中があった。
「……お前…。桐生!?」
潤也も誰が間に割り込んできたのかわかったようだ。
戸惑ったような声の後、怒気を孕んだ低い声を上げる。
「邪魔をするな! お前には関係ないだろう!」
そんな恫喝にも紫苑は怯む事はなかった。
「関係はあるよ。雅樹は僕の恋人だからね。僕が守るのは当たり前だろ」
紫苑の宣言に潤也は驚いていたけれど、それは僕も同じだった。
まさか、ここで僕を恋人だと公言するとは思わなかったからだ。
「雅樹がお前の恋人だと? 嘘をつくな!」
「嘘じゃないよ。そうだろ、雅樹」
紫苑が僕を振り返って僕を自分の横に並ばせる。
僕の腰を抱いて身体をグッと引き寄せると、僕の頭に軽くキスを落とす。
人前でこんな行為をされて、僕は気恥ずかしさに顔が赤くなる。
潤也はイヤイヤをするように頭を横に振っていたが、そのうちに右手をギュッと握りしめてブルブルと震わせ始めた。
(まさか!?)
そう思うと咄嗟に身体が動いた。
紫苑の前に立ち塞がった僕の顔に潤也の拳がヒットする。
殴られた勢いで僕の身体は後ろへと傾いたが、紫苑が後ろから僕の身体を支える。
「「雅樹!?」」
二人が同時に僕の名前を呼ぶ。
潤也に殴られた頬がジンジンと痛み、口の中に血の味が広がる。
「貴様!」
僕の身体を支えている紫苑が吠えるが、僕は慌てて紫苑を宥める。
「紫苑、喧嘩はやめて。僕が潤也と話すから」
僕は紫苑から身体を起こすと、一歩だけ潤也に近づいた。
「雅樹……ゴメン」
潤也は右手の拳を左手で包むようにしているが、その手は小刻みに震えている。
「潤也、僕こそゴメン。潤也の気持ちに気付かなくて」
「いや、良いんだ。それより本当なのか? 桐生が恋人っていうのは……」
潤也が確かめるように僕の顔を覗き込む。
僕がコクリと頷くと、ガックリしたように肩を落とした。
「そうか。桐生が相手じゃ勝ち目はないな」
ハハッと乾いた笑いを漏らす潤也に僕は不躾なお願いをする。
「潤也。この事は内緒にしてくれるかな? それと、今までどおりの友達でいて欲しいんだけど……」
潤也は何度か頷くと寂しそうな顔をみせた。
「言わないよ。だけど、雅樹と今までどおりの友達はちょっと無理かな。まあ、周りの奴らに勘繰られないように努力はするけどね」
潤也はそう告げると、「じゃあ」と言って来た道を引き返していく。
僕はただその後ろ姿を見送るだけだった。




