55 帰り道
明日はいよいよ文化祭という事で、授業が終わってから急ピッチでお化け屋敷作りが始まった。
暗幕を張ったり、机と椅子を並べ替えて通路を作ったりとやらなければいけない事は山ほどある。
ようやく作業が終わった時には6時をとうに回っていた。
「お前ら、いつまでやってる! 終わらない部分は明日朝早く来ればいいだろうが!」
担任の須藤先生が怒鳴り込んでくる。
「もう終わったんでこれから帰るところです」
潤也が慌てて須藤先生に言い訳をするが、須藤先生はギロリと残っているメンバーを見回した。
「男子は責任を持って女子生徒を送り届けろよ。わかったな!」
須藤先生に一喝されて僕達はコクコクと頷いた。
須藤先生はそれを見てようやく職員室の方へ引き返していく。
その姿が見えなくなってホッと安堵の息を漏らす。
「それじゃ帰るか。誰と誰が同じ方向だっけ?」
潤也がグルリと残っているメンバーを見回した。
女子生徒は二人いたが、二人とも他の男子生徒と同じ方向だという。
「じゃ帰るか。あまりグズグズしているとまた須藤の奴が怒鳴り込んで来そうだからな」
潤也の言葉に皆同意をしたり、クスクスと笑いを漏らす。
校門の前で別れたが、僕と潤也だけが別の方向だった。
「とうとう明日か。なんかあっという間だったね」
僕が感慨深げに呟くと「そうだな」と潤也が同意する。
なんだかやけに潤也の口数が少ない。
一体どうしたんだろう?
不思議に思いながらも歩いていると、潤也と別れる地点に差し掛かっていた。
「じゃ、また明日」
そう声をかけたが、潤也は意外な言葉を口にした。
「今日は雅樹を送ってってやるよ。女の子と間違えられて襲われるかもしれないからな」
気にしている事を言われて僕はムッと口を尖らせる。
「いくら何でもこの格好で女の子に間違えられるとは思わないけどね」
そう反論したが、何故か潤也は聞き入れてくれない。
「いいから行くぞ。こっちの方向でいいんだな」
先に歩き出す潤也を追いかける形で僕は後に続く。
歩調が合って並んだものの、妙な沈黙が僕達を包む。
そのうちに自宅であるマンションの前へとやって来た。
「潤也、僕んちここだから。送ってくれてありがと」
そう告げると潤也はピタリと足を止めて、そびえ立つマンションを見上げた。
ちょっと驚いているのはこのマンションがかなり高級だという噂を聞いているからだろう。
実際、そうである事は住んでいて実感している。
(そういえば母親が再婚した事を言っていなかったっけ)
今更告げる事でもないと思っているので「じゃあね」と告げてマンションに入ろうとした。
だけど、向きを変えた僕の腕を潤也が掴んできた。
「潤也?」
びっくりして振り返ると、どこか切羽詰まったような顔の潤也がいた。
潤也の手を振りほどこうとしたが、潤也は更に力を込めてくる。
「どうした……」
その言葉が終わらないうちに僕は潤也に抱きしめられていた。




