54 文化祭の準備
体育祭が終わったと思ったら、今度は文化祭の準備が始まった。
二学期は色んな行事が目白押しだ。
僕のクラスでは『お化け屋敷』をやる事になった。
毎年、どこかのクラスがやる事になっていて、暗幕やある程度の小道具は学校が管理しているらしい。
実行委員となった潤也は殊の外張り切っている。
「雅樹。何か他にアイデアないか?」
潤也が『どうやって人を怖がらせるか』と羅列した紙を持って僕に意見を求めてくる。
はっきり言ってお化け屋敷が苦手な僕には迷惑な話だ。
「何で僕に聞くんだよ。他の実行委員と話をすればいいだろ」
少し嫌そうな顔で抗議をするが、潤也は聞く耳を持たない。
「そう言うなよ。他の実行委員と手分けして皆に聞いて回っているんだからさ。協力してくれよ」
拝むように手を合わせてくる潤也に僕は軽くため息をつく。
「えー、そうだなあ。物音がして後ろを見たら何もなくて、前を向いたら誰かが立ってるとか。いきなり何かが飛び出してくるとか。前にいる人が振り返ったら血塗れだったとか……」
言いながらだんだん怖くなってきて思わず身震いをする。
それを見て潤也がプッと吹き出した。
「何だよ、雅樹。話をしてるだけで怖がってどうするんだよ」
「うるさい。茶化すんなら協力しないぞ」
プイとそっぽを向くと慌てたように潤也が宥めてくる。
「悪い悪い。謝るから他に何かないか聞かせてくれよ」
潤也はしつこく食い下がってくるが、これ以上は怖くて考えられない。
「もう無理! 後は他の人に聞いてくれよ」
フルフルと頭を振ると潤也は立ち上がって僕の頭をポンポンと軽く叩いた。
「わかった。ごめんな。苦手な事を聞いて」
いつもと違う潤也の態度を不思議に思って顔を上げると、潤也はフッと優しげな目をして僕を見つめている。
その事に疑問を持ち口を開こうとしたところで、潤也は踵を返して他のクラスメイトの所へ向かった。
(今の表情は一体何だったんだ?)
首を傾げてみたものの、僕に答えが出せる訳が無い。
(まあ、いっか)
僕はそれ以上気にするのは止めて、次の授業の準備を始めた。
お化け屋敷の内容も決まったようで、潤也達はその準備に入った。
当然、僕もその準備係の一員として駆り出されている。
当日、驚かせる役じゃないだけマシだと思ってこちらを引き受けたが、これはこれで結構大変だ。
材料の買い出しや小道具の製作など、やる事が結構ある。
学校が管理している小道具を確認すると、壊れて使えなくなっているものも少なからずあった。
まあ、恐怖に駆られた勢いで攻撃して壊されたと思しき物もあったしね。
放課後に残ってちまちまと小道具作りに励んでいるが、日暮れも早くなってきたので、6時には下校しなくてはならない。
「雅樹、帰ろうぜ」
潤也に言われて僕は鞄を持って教室を出た。
もう既に外は真っ暗だ。
それでも街灯は灯っているし、それなりに人通りもある。
潤也と並んで歩いていると、不意に後ろに気配を感じた。
ハッとして振り返ると、僕の後ろに潤也の手が伸ばされていた。
僕はそれを見てプッと吹き出す。
「もう~、潤也。僕を驚かそうったって駄目だからね。潤也の手なのはバレバレだよ」
ベシベシと潤也の手を叩いて、横を向くとバツの悪そうな潤也の顔があった。
「ちぇ、バレたか。じゃ、また明日な」
ちょうど潤也と別れる地点に辿り着いていたようで、潤也は僕とは違う方向へ歩いていく。
「じゃあな」
僕も自分の家の方へと足を進めた。
だから潤也の小さな呟きは僕の耳には届かなかった。
「あと少しで雅樹の肩を抱くことが出来たのに……。次は必ず……」




