53 お土産
夕方になって両親が帰宅した。
「ただいま~。ああ、疲れた」
母さんはリビングに入るなり、持っていた荷物をその場に置くと、ソファーにドサッと腰を下ろす。
お義父さんはそんな母さんをニコニコとした顔で見つめながら、持っていた袋を紫苑に差し出した。
「駅弁を買ってきたんだ。好きなのを選びなさい」
「わかった」
紫苑は受け取った袋から駅弁を出して、ダイニングテーブルの上に並べていく。
「雅樹、先に選ぶ?」
紫苑が感情の読めない顔で聞いてくる。
さっきまで見せていた笑顔でないのが残念だけど、僕達の関係を両親には知られたくないから仕方がない。
「……わかった」
僕はテーブルに置かれた駅弁を見回した。
どれも肉がメインの駅弁の中、一つだけカニがメインの駅弁があった。
(これは母さんが食べるやつだな)
そう当たりを付けた僕は他の3つから牛タンが入っている駅弁を手に取った。
「お茶を持ってくるね」
駅弁を自分の席の所に置いて、僕はお茶を取りにキッチンに向かった。
冷蔵庫からペットボトルに入ったお茶を取り出してテーブルに持って行く。
その間に紫苑は食器棚からコップを出していた。
母さんはカニがメインの駅弁を前にニコニコ顔でテーブルについている。
「二人ともお留守番ありがとう。何も変わった事はなかった?」
母さんに聞かれて僕は一瞬、ドキリとする。
大いに変わった事はあったけれど、それを口にするわけにはいかない。
「別に何もなかったよ。な、紫苑」
紫苑に同意を求めると、紫苑はコクリと頷いてみせた。
「ああ、そうだな」
紫苑の返事を聞いて母さんはホッとしたように息を吐く。
「そう、良かったわ。あ、そうそう。二人にお土産があるのよ」
そう言って母さんはバッグから小さな紙袋を2つ取り出した。
「こっちが雅樹でこっちが紫苑ね」
ほぼ手のひらに収まるくらいの小さな紙袋だ。
「ありがとう」と受け取ると、紙袋に小さく手書きで『マサキ』と書いてある。
裏面のセロハンテープを剥がして中身を取り出すと、キーホルダーが出て来た。
どうやら観光地で売っていたキーホルダーのようで、裏面に『MASAKI』とローマ字で刻印してある。
チラリと横を見ると、紫苑も同じキーホルダーだった。
恐らく裏面に『SHION』と刻んであるのだろう。
こういうのを貰って喜ぶような歳でもないのだが、せっかく買ってきてくれたのを無下にするわけにもいかない。
まあ、このまま机の引き出しに仕舞いっぱなしになるんだろうな。
「雅樹」
夕食を終えて自室に入ろうとしたところで紫苑に呼び止められた。
リビングの方を気にしながら「何?」と小声で聞き返す。
「これ、交換しようよ」
紫苑が差し出してきたのは、さっきお土産に貰ったキーホルダーだった。
「お揃いだし、お互いの名前が入っているだろ」
僕は差し出されたキーホルダーをまじまじと見つめた。
こちらに向けられた『SHION』の刻印が、キラキラと輝いて見える。
「ああ、そうだね」
僕は無造作にポケットに突っ込んでいたキーホルダーを取り出して紫苑に渡した。
「ありがとう」
紫苑はキーホルダーを受け取ると、嬉しそうに目を細めた。
「それじゃ」
紫苑が自室に向かうのを見送ると、僕も自室へと入った。
その場でもう一度、手のひらの中のキーホルダーを確認する。
そこには紛れもなく『SHION』の文字が刻まれていた。
(さて、これをどうするか……)
スマホにはキーホルダーを付けるところはない。
となると、通学鞄に付けるしかないが、あまり人目に触れないところの方がいいだろう。
僕は鞄を開けて、内ポケットのファスナーの金具にキーホルダーを付けた。
(ここなら人目につかないだろう)
僕は満足気に頷くと、裏面の文字をそっと撫でた。




