52 二人きりの時間の終わり
朝食の後、片付けを終えると出かける支度をして商業施設に向かった。
紫苑と並んでダラダラと町中を歩いていく。
時折すれ違う女性が、紫苑を見て顔を赤らめたりしている。
中にはあからさまに秋波を送ってくるような女性もいる。
隣にいる紫苑がそんなふうに女性の注目を集めている事に優越感を覚えるのと同時に、僕が一緒にいて良いのかと怖気づいてしまう。
紫苑はそんな女性達の視線など我関せずといった態度を崩さない。
デートと言いながらも普通の恋人達のように手を繋いで歩く事はしない。
隣を歩いていてもほんの数センチ距離が空いている。
不意に昨日目にした紫苑と腕を組んで歩く女性の光景を思い出した。
あんなふうに紫苑と腕を組んで歩けたらどんなにいいだろうか。
堂々と腕を組んで歩けない現実を突きつけられて少し憂鬱な気分で映画館に入った。
予告編が終わり、更に照明が落とされ辺りが暗くなる。
膝に置いた手に紫苑の手が触れてきたかと思うと上からギュッと握られた。
チラリと横目で紫苑の様子を窺ったが、紫苑は前を向いたままこちらを見ようとしない。
そのうちに紫苑の手は僕の手のひらの方へ移動して指を絡めてきた。
これって『恋人繋ぎ』ってやつ!?
もしかしたら紫苑も僕と手を繋いで歩きたいと思ってくれていたのかな?
僕がそっと紫苑の指を握り返すと、紫苑も同じように僕の指を握ってくる。
誰にも見られないとわかっているのに妙にドキドキしてしまう。
僕と紫苑は映画が終わるまで、ずっと手を繋いでいたのだった。
映画が終わって遅めの昼食を取った後、商業施設内をブラブラしていた時だった。
僕と紫苑のスマホが同時にメッセージの受信を告げた。
「何だ? もしかして父さん達か?」
二人でそれぞれのスマホを確認すると、やはり両親からの連絡が入っていた。
「『夕食は買って帰る』ってさ。メニューを考える手間が省けて良かったな」
紫苑がスマホを戻しながら笑いかけてくる。
「そうだね」と返事をしながら、二人きりの時間が終わる事に寂しさを覚えた。
ゲーセンを少しウロウロした後、僕達は家路についた。
マンションのエントランスには誰もいなかった。
すると紫苑は再び僕の指に自分の指を絡めてきた。
「家に入るまでこのままでいいよね?」
顔を覗き込まれ、僕はコクリと頷き返す。
そのままエレベーターに乗り、ボタンを押す。
玄関を入って扉を閉めた途端、紫苑が僕を壁に押し付けるようにしてキスをしてきた。
僕も紫苑の身体に手を回してそれに応える。
長いキスの後、ようやく紫苑が僕から唇を離した。
「父さん達に悟られないように、二人の前では今までの態度を取るけど、決して嫌いになったわけじゃないからね」
必死で言い募ってくる紫苑がどことなく可愛く見えて、僕はフフッと微笑んだ。
「わかってるよ。僕も素っ気ない態度を取るかもしれないけど、誤解しないでくれよ」
お互いに顔を見合わせて笑うと、再び唇を重ねるのだった。




