51 仲直り
僕はテレビのスイッチを切るとのそのそと立ち上がって自室に向かった。
部屋の扉を開く前にチラリと紫苑の部屋の方を見たが、扉は固く閉ざされたままだった。
自室に入るとそのままベッドに身体を投げ出した。
さっきの紫苑の身体の重みがまざまざと蘇ってくる。
あのまま流されていたら、どうなっていたんだろうか?
勿論、男同士の行為がどういったものかは知っている。
だけど、いざ自分がそういう立場になると、快感よりも恐怖の方が勝ってしまった。
まだ、ようやくお互いに好きだとわかり、キスを交わしただけで満足していた。
それなのに紫苑はそれ以上の行為を望んでいた。
僕だっていずれはそういう行為をするんだろうという考えは頭の片隅にあった。
でもそれはまだまだ先の事だと思っていたのだ。
あんなふうに拒絶して申し訳ないと思う反面、一足飛びに距離を詰めようとしてくる紫苑に腹が立つ。
ぐちゃぐちゃの頭を抱えたまま、いつしか僕は眠りについた。
ふと目を覚まして部屋の中が妙に明るいのに疑問を持った。
(あれ?)
起き上がってスマホの時間を確認すると、既に朝を迎えていた。
そこで昨日はお風呂にも入らず、電気を点けっぱなしで寝てしまった事を思い出した。
(うわ、やっば)
慌ててベッドから下りるとシャワーを浴びるために浴室に向かった。
朝食を食べる前に一風呂浴びてこようと思ったのだ。
浴室に入って慌ただしくシャワーを浴びると、髪を乾かすためのタオルを肩にかけて浴室を出た。
自室に入ろうとしたところで、部屋を出て来た紫苑とバッタリ顔を合わせる。
お互いにそこで出会うとは思っていなかったので、数秒ほど時間が止まる。
先に口を開いたのは紫苑の方だった。
「……おはよう、雅樹」
少し躊躇いがちな声に「おはよう」と返すと、ホッとしたような顔で近寄ってきた。
その行動に少し身構えてしまうのは、心のどこかでまだ昨日の事を引きずっているのだろうか?
そんな僕の様子に気づいたのか紫苑は、少し手前で足を止めた。
「昨日はごめん。まだ怒ってる?」
項垂れた子犬のような表情に僕の心は罪悪感でいっぱいになる。
だけどここで流されるわけにはいかない。
「少しね。だけど、今後あんな事はしないって言うんなら許してもいいよ」
そう告げた途端、紫苑はぱあっと表情を明るくすると僕に抱きついてきた。
「ありがとう、雅樹」
そう言ってまだ濡れている僕の髪にキスを落としてくる。
「ちょっと、紫苑!」
軽く身をよじるが、紫苑の腕はびくともしない。
むしろ更に力強く抱きしめてくる。
僕自身も紫苑に抱きしめられる事に心地良さを感じている。
紫苑は僕を抱きしめながら大きくため息をついた。
「昨日の今日なのに、こんな風呂上がりの姿を僕に晒すなんて……。まあ、これも修行の一環だと思って諦めるか」
「何だよ、修行って……」
思わず吹き出すと、紫苑もフフッと笑いを漏らす。
それから紫苑と見つめ合った後、軽いキスを交わした。




