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50 紫苑の暴走

『もう、その映画は観た』とも言えず、「いいよ」と紫苑に笑ってみせる。

 紫苑は「上映時間は……」と呟きながら、スマホの画面をスクロールさせている。

「……朝イチはちょっと早いかな……」

 ブツブツと呟きながら、上映時間を確認しているが、恐らく今日僕が観た時間を告げてくるに違いない。

「この時間でいい?」

 紫苑が示してきたのはやはり、今日と同じ時間だった。

「うん、いいよ」

「どの辺りで観たい?」

 紫苑はそう言って座席予約の画面を僕に向けてくる。

「この辺りかな?」

 今日座った席とは反対側を指差すと、その辺りの席を2つ選択した。

「予約するの?」

 明日、直接映画館に行ってチケットを買うのかと思っていたが、紫苑は事前予約するようだ。

「明日は日曜日で人気のある映画だからな。雅樹との初デートだから、外したくないんだ」

 紫苑に言われて僕はちょっと目を瞬いた。

 そうか。

 これは紫苑との初デートなんだ。

 改めて認識させられて思わず頬が熱くなる。

 その熱さを少しでも冷まそうと、手でパタパタと仰いでいるとクスッと紫苑が笑った。

「そのくらいで照れるなんて……。ホントに可愛いな」

 紫苑の手が僕の頬に伸びてきたかと思うと、そのまま紫苑の方を向かされた。

 紫苑の顔が近づいて来てキスをされたかと思うと、そのまま後ろに押し倒される。

 僕の頭がソファーの肘掛けに当たって止まったが、紫苑はどんどん体重をかけてくる。

 紫苑の手が僕の頬からスルリと僕の胸へと伸びてくる。

 Tシャツの上から軽く乳首を撫でられ、ゾワリとした感覚が背中を走る。

 逃れようにも紫苑の身体で押さえつけられていて思うように動けない。

 更に紫苑の手が下に伸びていき、Tシャツの裾から手を入れてきた。

 僕の肌に直接紫苑の手が触れる。

 その手は僕のTシャツをたくし上げるように上に伸びてきて、僕の乳首に直接触れた。

 突然の紫苑の行動に僕はパニックになる。

 紫苑の事は好きだけれど、こんなにも急な展開は望んでいない。

「やだ! 紫苑!」

 僕は紫苑の身体を両手で押し返しながらキスから逃れると大声で叫んだ。

 紫苑はその声で我に返ったようで、僕のTシャツから手を引き抜くと、身体を起こした。

 僕は捲れ上がったTシャツを引っ張って元に戻すと、紫苑から少し距離を置くように起き上がった。

 ジワリと目に涙が滲んでくる。

 しばらくお互いに無言の状態が続いたが、やがて紫苑が「ごめん」とポツリと呟いた。

「雅樹を僕だけのものにしたくて、ちょっと焦りすぎた。怒ってる……?」

 僕の顔を覗き込むようにしてくるが、泣いた顔を見られたくなくて、ぷいと顔を逸らす。

「ホントにごめん。……明日の映画、一緒に行ってくれるよね?」

 恐る恐る尋ねてくる紫苑に僕は顔を逸らしたまま、コクリと頷いた。

「ありがとう。僕は明日の朝まで頭を冷やしてくるよ。おやすみ」

 そう言って紫苑はリビングから出て行った。

 バタンと扉の閉じる音を聞きながら、僕は小さく肩を震わせるのだった。



 

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