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49 サラダ作り

 紫苑の唇が僕から離れてようやく大きく息をする事が出来た。

 そんな僕の様子を見て紫苑がクスッと笑う。

 昨日、紫苑と交わしたのが僕のファーストキスだったのに、紫苑はどうしてそんなに余裕を持っているんだろう?

 紫苑にとっては僕がファーストキスの相手じゃなかったって事かな?

 やっぱり、今日会っていた彼女ともそういう関係なんだろうか?

 紫苑に問いただしたいけれど、『僕の跡をつけてたのか』なんて誤解されたくない。

「お腹が空いたな。そろそろ夕食にしようか」

 紫苑は立ち上がるとキッチンへと歩き出した。

 僕もすぐにその後を追う。

「なんだ。もう温めてくれてたのか?」

 キッチンの様子を見て紫苑が僕を振り返った。

「うん。ある程度温めてたらすぐに食べられると思ったからさ」

「ありがとう、雅樹」

 紫苑にお礼を言われて僕はちょっと照れる。

 紫苑はIHクッキングヒーターのスイッチを入れようとして、冷蔵庫を振り返った。

「カレーだけじゃ物足りないな。まだサラダの材料が残ってるかな?」

 そう言って冷蔵庫を開けて、中を確認し始めた。

 野菜室を開いて使いかけのレタスを取り出すと、「はい」と僕に渡してきた。

 僕がそれを受け取ると、今度は別の扉を開けて、スライスハムのパックと卵を取り出した。

 卵をミルクパンに入れて、水とエッグタイマーを入れてクッキングヒーターのスイッチを入れた。

 その手際の良さにポカンとしていると、紫苑がこちらを振り返った。

「卵は半熟でも食べられる?」

 そう聞かれてコクリと頷くと、紫苑は僕の手からレタスを取り上げて、葉っぱをむしり始めた。

 見ているだけなのが申し訳なくて、僕は昨日使ったサラダボウルを2つ取り出して並べた。

 その間に紫苑はレタスを水洗いして手で千切ると、一旦ザルに入れた。

 レタスの水切りをしている間にスライスハムのパックを開けて、ハムをカットする。

「雅樹、卵はどんな具合?」

 紫苑の声に僕はミルクパンの中のエッグタイマーを見つめた。

 まだもう少し時間がかかりそうだ。

「あと少しってところかな」

 こんな事なら先に卵を茹でておけば良かったな。

 サラダにまで頭が回らなかった事に僕は少々落ち込んだ。

 エッグタイマーとにらめっこをしていると、徐々に半熟に近づいていく。

「もう、いいかな?」

 紫苑はミルクパンを覗き込むと「いいよ」と告げた。

 僕はスイッチを切るとミルクパンを流しに持っていき、お湯を捨てて水を注いだ。

 そこへ紫苑が大量の氷をミルクパンにぶち込んだ。

「紫苑、入れすぎじゃない?」

「これくらいでいいんだよ。この間にサラダを盛りつけるか」

 紫苑はレタスをサラダボウルに入れると、その上にスライスハムを並べた。

 それから新たに取り出したミニトマトを置くと、後は卵だけになった。

 その間に再びカレーを温め、ドレッシングやカトラリーの準備をする。

 最後に紫苑はまだ氷が溶け残っているミルクパンから卵を取り出して殻を剥いた。

 ツルリとした白身が姿を現す。

 それを半分にカットすると、トロリとした黄身が出て来たが、ほんの少し湯気が見える。

 それをサラダボウルに置くとサラダが完成した。


 夕食の片付けを終えて、ソファーに並んで座りテレビを見ていたが、不意に紫苑が提案してきた。

「明日は映画を観に行かないか? そこでお昼を食べて、夕食の買い物をして帰るっていうのはどう?」

「うん、いいよ。それで何の映画を観に行くんだ?」

 そう尋ねると紫苑はスマホを操作して、画面を僕に向けた。

「この映画が観たいんだ」

 それは、今日僕が観た映画だった。




   

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