42 片付け(紫苑視点)
カレーを食べ終わったが、どちらも無言のまま時間が過ぎていく。
雅樹との会話を諦めた僕はコップを置くと立ち上がった。
「さっさと片付けようぜ」
「う、うん」
雅樹の返事を聞きながら僕は食べ終わった食器を持ってキッチンに向かった。
食洗機の蓋を開けて食器を入れていると、遅れて雅樹もキッチンに入って来た。
僕は布巾を手に取ると、ダイニングに引き返す。
テーブルの上に置かれたままのドレッシングボトルやペットボトル等を端に寄せてテーブルを拭き始める。
そこへ雅樹が戻ってきた。
「悪いけどこれを片付けてくれる?」
端に寄せたペットボトル等を指差すと、雅樹は「わかった」と言いながらペットボトルに手を伸ばした。
雅樹はペットボトルとドレッシングボトルを手にしたものの、あと一つ福神漬の入った容器を手に取れずにいた。
一度に持っていこうとばかりにペットボトルを脇に抱えようとしている。
その様子が可笑しくてついクスリと笑いを漏らした。
「いいよ。これは僕が持っていく」
僕は福神漬の入った容器を左手に持つと、再びテーブルを拭き始める。
雅樹はホッとしたようにキッチンの方へ向かう。
テーブルを拭き終えてキッチンに戻ると、雅樹がちょうどカレー鍋の蓋を閉じたところだった。
福神漬の容器を冷蔵庫に入れていると、雅樹がこちらを振り返った。
「紫苑。これ、冷蔵庫に入れた方がいいよね」
雅樹が指摘するとおり、カレー鍋は冷蔵庫に保管するのが適切だ。
「涼しくなったとは言っても絶対とは言えないからな。もう少し冷めてから冷蔵庫に入れた方がいいな」
まだカレールウは熱を持っている。
今のまま冷蔵庫に入れると庫内の温度が上がって他の食品に悪影響が出るかもしれない。
僕は布巾を洗うと今度はキッチン廻りを拭き始めた。
雅樹は少しオロオロとしたような様子を見せたが、何も言わずにキッチンを出ていった。
使い終わった布巾を洗ってキッチンを出ると、雅樹はリビングのソファーに座っていた。
僕は少し間を空けてソファーに座ったが、どちらも黙ったまま沈黙だけが流れる。
その沈黙に耐えかねたのか「テレビでも見よっか」と言って雅樹はテレビのリモコンのスイッチを入れた。
画面が明るくなり、お笑い番組が始まるが、さして面白くもないやりとりが交わされる。
そんな事よりも隣にいる雅樹の事が気になって仕方がない。
少し手を伸ばせば届く範囲にいるのに、なんと言って距離を縮めていいかがわからない。
「ごめん。部屋に戻る。カレー鍋をよろしく」
僕はそう告げると自分の部屋へと逃げたのだった。




