41 二人きりの夕食(紫苑視点)
着替えた制服を持って部屋を出たところで、洗面所から出て来た雅樹とすれ違った。
既に着替えを済ませている雅樹の姿に心臓が大きくドクンと跳ねる。
別に今日初めて雅樹の私服姿を見たわけでもないのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。
雅樹はそんな僕の気持ちに気づかずに何事もなかったように自分の部屋に入って行く。
脱衣籠に制服を入れようとして、そこに雅樹のシャツが入っている事に気がついた。
自分のシャツを放り込む代わりに雅樹のシャツを取り出す。
まだ少し雅樹の温もりが残っているように感じられるのは気の所為だろうか?
そっと匂いを嗅ごうとして思い留まる。
こんなところを雅樹に見られたら変態扱いされそうだ。
『気持ち悪い奴だ』と引かれて距離を取られたら目も当てられない。
僕は何事もなかったかのように雅樹のシャツを脱衣籠に入れると、自分の部屋へと戻った。
まだ夕食までには時間がある。
少しでも宿題を片付けるべく、僕は机に向かった。
一段落したところで時計に目をやったが、まだ七時までには間があった。
だが、カレーを温め直す時間が必要だ。
僕は教科書とノートを閉じるとリビングに向かった。
リビングの電気は点いているが、ひとけが無いせいかどことなく暗く感じられる。
キッチンに入るとIHクッキングヒーターの上にカレー鍋があった。
電源を入れたところで雅樹がキッチンに入って来た。
「ごめん、遅くなった」
焦ったように謝ってくるが、僕が早く来すぎただけで、雅樹が遅れたわけではない。
振り返ったところで、冷蔵庫が目に止まった。
「多分、サラダが入っていると思うから出しといてくれる?」
冷蔵庫を指差しながらお願いすると、雅樹は「わかった」と言って手を洗った。
手を拭いたあと冷蔵庫を開けて、ラップに包まれたサラダボウルを2つ取り出している。
カレーを温めながら見ていると、テキパキと冷蔵庫から夕食に必要な物を取り出している。
その間に僕はカレー皿を2つ、炊飯器の横に取り出しておいた。
そのうちにカレー鍋の中ではグツグツと煮え立ってくる。
「……もういいかな。雅樹、先に注いでいいよ」
炊飯器の近くにいる雅樹を促すと「わかった」と言ってご飯をよそい出した。
その後、僕がご飯をよそっている間に雅樹はカレーをかけた皿を持ってダイニングテーブルの方に向かった。
少し遅れて僕も雅樹の隣に座る。
どちらからともなく声を合わせて「「いただきます」」と合掌をしてカレーを頬張る。
向かい側に誰もいない夕食なんて初めてだ。
本当に二人きりなんだと実感したが、何を話せばいいかもわからず、ひたすらカレーを食べる事に集中する。
少しでも長く二人だけの時間が続けばいいのに……。
そう思いながら僕は食事を続けるのだった。




