40 両親の出発(紫苑視点)
金曜日。
学校から帰って玄関を開けると、そこにはスーツケースを抱えた両親と雅樹が立っていた。
どうやらこれから出発するところだったようだ。
見送りに間に合ったようでホッとする。
「帰ったか、紫苑。留守を頼むぞ」
「紫苑、雅樹をお願いね」
父さんと由梨江さんが僕に声をかけてくるが、その後ろでちょっとむくれたような雅樹の顔が目に入る。
二人が僕に対して全面的に信頼を寄せているのが少し面白くないらしい。
そんな可愛らしい雅樹の顔を見られた事で僕は笑顔で二人に応える。
「いってらっしゃい。お土産楽しみにしてますよ」
「任せといて。いってきます。鍵をよろしくね」
父さんの後を追うように由梨江さんが玄関を出て行き扉が閉まる。
僕はすかさず鍵をかけると、クルリと振り返った。
そこには少し戸惑ったような顔の雅樹がいる。
かける言葉が見つからず、僕は靴を脱ぐとそのままリビングに向かった。
「今日の夕食用にカレーが作ってあるってさ。あと、火の扱いには気をつけるようにって……」
雅樹が僕の後ろから由梨江さんに言われたらしい言葉をかけてくる。
カレーに関しては玄関の扉を開けた時から匂いでわかっていた。
リビングに入ると、ソファーの上にほったらかしの雅樹の鞄が目に入る。
雅樹にかける言葉を探していた僕はこれ幸いと飛びつく。
「鞄くらい片付けろよ。それに着替えもまだだろ」
そう指摘すると雅樹はウッと詰まったような声を上げる。
帰ってすぐに由梨江さんからくどくどと注意を受けていた事くらい察しているのに、どうしてこんな言い方しか出来ないんだろう。
僕は話題を変えるべく、雅樹に問いかける。
「夕食は何時に食べる?」
雅樹は反射的にリビングの時計に目をやったが、出て来た答えは予想通りのものだった。
「七時でいいよ」
「わかった」
僕はそのまま自分の部屋に向かう。
部屋の扉を開ける時に、雅樹がリビングから出てくるのを目の端に捉えていた。
バタンと扉を閉めると、遅れて雅樹の部屋の扉の音が聞こえた。
僕は鞄を置くとドサッとベッドに腰を下ろし、はぁーと大きなため息をつく。
……とうとう雅樹との二人きりの生活が始まった。
たった2日ではあるけれど、誰にも邪魔される事のない二人だけの時間だ。
だけど、雅樹は僕と二人きりの生活が嫌じゃないんだろうか?
明日と明後日、僕と二人きりが気詰まりだと言って出かけたりしないよな……。
ましてやその相手が榊だったら……?
そう考えると僕は言いようのない嫉妬にかられる。
何度か雅樹と榊が一緒にいるところを目撃したが、その度に榊は僕に挑戦的な視線を向けてきた。
僕より雅樹と付き合いが長いからといって、あいつに雅樹を渡したりするもんか!
僕はそう決意するとベッドから立ち上がって着替えを始めた。




