39 父からの話(紫苑視点)
体育祭が終わったその日の夕食の席で、父さんは改まったように僕達の名前を呼んだ。
「あー、紫苑と雅樹。ちょっと聞いてくれるか?」
その呼びかけに僕はちょっと身構える。
二人ともチラリと目配せし合って、話のタイミングを窺っていたのに気づいていたからだ。
(まさか、子供が出来たとか言うんじゃないだろうな?)
今は高齢出産なんて当たり前だし、由梨江さんもまだ三十代だから妊娠する可能性は十分にある。
だけど、まだ籍を入れて間がないのに、と思うと何となく複雑な気分になる。
でも、それは当人達の問題で僕がとやかく言う事ではない。
夫婦や恋人同士が愛し合うのは当たり前だし、その結果子供が出来るのは自然の摂理だ。
「何?」
と、話を促すと、父さんはちょっと照れたような笑みを浮かべた。
「実は今度の週末、由梨江と旅行に行こうと思ってね。悪いが二人には留守番をお願いしたいんだが……」
なるほど。
新婚旅行プラス子作り旅行と言う事か。
妊娠の報告ではなかった事に少しだけ安堵する。
父さんの隣に座る由梨江さんは少し照れたような顔でコクコクと頷いている。
雅樹もここでの生活に慣れてきたし、週末だから学校に行く事もない。
特に反対する理由もないので、了承を告げようとチラリと雅樹の様子を窺った。
だが、雅樹は何やら考え込んでいる。
まさか、僕と二人っきりになるのが嫌なんじゃないだろうな?
すると、由梨江さんが雅樹に話しかける。
「洗濯は私が帰ってやるから脱衣籠の中に入れておいていいわ。だから食器の片付けとリビングと自分の部屋の掃除はお願いね。あ、あと、湯船に浸かるのならお風呂掃除もお願い。シャワーだけならそのままでいいわ」
どうやら雅樹の懸念は掃除洗濯に関する事だったようだ。
「いいんじゃない。一泊くらいなら何とかなるよ」
僕が了承を告げると、父さんが言いにくそうに口を開く。
「いや、金曜日の夜に出発するから二泊になる」
二泊!?
つまり、丸2日も雅樹と二人っきりになるっていう事か!?
まさかの展開にドクンと心臓が大きく跳ねる。
「大丈夫。二晩くらいどうって事はないよ。な、紫苑」
雅樹は僕の心情など露知らず、屈託のない笑顔を向ける。
僕はなるべく感情を押し殺してコクリと頷く。
僕達の了承を得られて両親は嬉しそうに頷き合っている。
二人きりの間に、雅樹との距離を縮められるだろうか?
だが、万が一雅樹に拒否されたら?
それを考えると迂闊に告白なんて出来ない。
雅樹に嫌われたら、これから先の生活が苦痛に満ちたものになる事は想像に難くない。
どうしたらいいんだろう……。
悩みながらも僕は箸を進めた。




