38 片付け
カレーを食べ終わって、コップに残っていたミネラルウォーターを一気に飲み干すと、紫苑も無言のままコップを置いた。
き、気まずい。
何か話そうと思うけれど、何を話題にしていいかもわからない。
カラのコップを持ったまま、あれこれ考えていると、やおら紫苑が立ち上がった。
「さっさと片付けようぜ」
「う、うん」
紫苑はサッと自分の食器を重ねてキッチンの方に運んでいく。
僕も急いで食器を重ねると紫苑の後を追った。
紫苑は食洗機に汚れた皿やコップを入れると、布巾を持ってダイニングテーブルへと向かう。
恐らくテーブルを拭きに行ったのだろうけれど、まだテーブルの上にはペットボトル等が残されている。
僕は食洗機に食器を入れると、扉を閉めてスイッチを押した。
すぐにテーブルへととって返すと、紫苑がテーブルを拭いていた。
「悪いけどこれを片付けてくれる?」
「わかった」
僕はテーブルの上にあるペットボトルとドレッシングボトルを持った。
更に福神漬の入った容器を持とうとしたが、流石に手が塞がっている。
ペットボトルを脇に抱えようとしたところで、紫苑がクスリと笑った。
「いいよ。これは僕が持っていく」
そう言って紫苑は容器を左手に持つと、再びテーブルを拭き始めた。
ペットボトル等を冷蔵庫に入れて扉を閉めると、不意にカレー鍋が目に入った。
蓋を開けてみると、中にはまだカレーが残っている。
明日のお昼に食べられるだけの量が残っているが、このままここに置いておくわけにもいかないだろう。
蓋を閉めたところへ紫苑が戻って来る。
「紫苑。これ、冷蔵庫に入れた方がいいよね」
そう尋ねると紫苑はカレー鍋をチラリと一瞥した。
「涼しくなったとは言っても絶対とは言えないからな。もう少し冷めてから冷蔵庫に入れた方がいいな」
紫苑の言う通り、鍋の中のカレーはまだ温かい状態だ。
もう少し経ってから冷蔵庫に入れた方がいいだろう。
そう納得しているうちに紫苑は布巾を洗って、今度はキッチンテーブルの上を拭き始めた。
その手際の良さに思わずポカンと見とれてしまう。
僕もそれなりに母さんの手伝いをしたりはしていたが、キッチンに関してはほぼ母さんに任せっきりだった。
紫苑に対して少し引け目を感じながら、僕はリビングのソファーへと座った。
程なくして紫苑も僕から少し離れた場所に腰を下ろす。
離れているとはいえ、ほんの少し手を伸ばせば紫苑に手が届く程の距離だ。
だが、どちらも口を閉ざしたまま沈黙だけが続く。
「テレビでも観よっか」
沈黙に耐えきれずにテレビのリモコンのスイッチを入れると、すぐにテレビの画面に映像が映し出される。
お笑い番組を放送しているが、隣の紫苑が気になって内容がまったく頭に入って来ない。
紫苑もまったくと言っていいほど何の反応も見せない。
どうしよう。
チャンネルを変えた方がいいかな?
リモコンに手を伸ばそうとしたところで、紫苑がすくっと立ち上がった。
「ごめん、部屋に戻る。カレー鍋をよろしく」
「う、うん」
僕の返事を聞くとすぐに紫苑はリビングから出て行った。
扉がバタンと閉まる音を聞いて僕はそのままソファーへともたれかかった。




