37 二人きりの夕食
部屋に入って鞄を机の横に置くと、部屋着に着替えた。
脱いだ制服を洗面所の脱衣籠に入れて自分の部屋に戻る。
ちょうどそこへ同じように着替えを済ませた紫苑が部屋を出てきた。
さっきの制服姿とは違う雰囲気の紫苑に何故かドキドキしてしまう。
紫苑はそんな僕とは裏腹に、何の感情も見せない顔で僕とすれ違っていく。
部屋に戻って後ろ手に扉を閉めると、その場で大きくため息をついた。
今更、紫苑の私服姿を見たからって、どうしてこんなにドキドキしなくちゃいけないんだ?
僕にとって紫苑はただの学校の有名人に過ぎなかったはずだ。
だが、思い返してみると、学校では常に紫苑の姿を探していたような気がする。
クラスが違うから、登下校か休み時間でしか紫苑の姿は探せなかったけれど、あの金髪はどこででも目立っていたから、探すのに苦労はしなかった。
チラリとでも紫苑の姿を垣間見られただけで、その日は一日ハッピーだった。
そんな存在の紫苑が、今は僕と同じ家に住んでいるなんて……。
しかも明後日まで二人きりでいられるなんて、こんな幸せな事があるだろうか?
思わずニヤけそうになる顔をパシッと両手で叩いて活を入れる。
紫苑はあの通り女子生徒にモテモテだから、付き合うのなら女の子の方が良いに決まっている。
僕がこんな気持ちでいるなんて知ったら、この家に帰るのを嫌がるかもしれない。
それだけは何としても避けなきゃ。
僕はそう決意すると、宿題を片付けるべく机に向かった。
宿題が一段落したところで、机の上のデジタル時計に目をやる。
まもなく七時になるところだった。
続きは夕食を食べた後だな。
机の上をそのままにしてリビングに向かう。
既に紫苑がキッチンにいて、カレーを温め直しているところだった。
ヤバい!
のんびりし過ぎたかな?
「ごめん、遅くなった」
僕の声に紫苑が振り返り、冷蔵庫を指差す。
「多分、サラダが入っていると思うから出しといてくれる?」
「わかった」
僕は手を洗うと冷蔵庫を開ける。
紫苑の言うとおり、冷蔵庫には2人分のサラダがラップに包まれていた。
僕はサラダの入った2つの皿を出すとラップを外してテーブルに持って行く。
それからまた冷蔵庫を開けて、ドレッシングと福神漬の入ったタッパーをテーブルへと運ぶ。
後は何を出せば良いんだっけ?
再び冷蔵庫を開けてミネラルウォーターの入ったペットボトルとコップ、それからスプーンなどをテーブルに持っていった。
紫苑はカレーを温めている間にカレー皿を炊飯器の横に出していた。
「……もういいかな。雅樹、先に注いでいいよ」
「わかった」
変に遠慮しても仕方がないので、僕は先にカレー皿にご飯をよそった。
その上にカレーをかけてテーブルに運んで席に着く。
遅れて紫苑もカレー皿を持ってやって来ると僕の隣に座った。
「「いただきます」」
どちらからともなく声を合わせて合掌をする。
向かい側の席に誰もいない夕食は初めてだった。
お義父さんが仕事の都合でいない時はあったが、母さんは必ず一緒に食事をしていた。
だが、今は紫苑と二人きりだ。
会話をする事もなく、ただ時折カチャッという音が響く。
その静かな時間がいつまでも続いてほしいと思いながら食事をした。




