34 借り物競争(紫苑視点)
二学期が始まって、体育祭の時期がやってきた。
今年も選抜リレーの選手に選ばれるが、雅樹のクラスでは榊が代表の一人になっていた。
競技は順調に進み、『借り物競走』が始まった。
雅樹は僕より数組前に並んでいる。
できれば同じ組で走りたかったが、そうなると雅樹に有利なように手を抜いてしまいそうだ。
それに別の組の方が雅樹の走る姿を堪能出来るし、僕の勇姿を見せつけられる。
もっとも僕の走る姿を見てくれるかどうかはわからないが……。
やがて雅樹の番がやって来た。
ピストルの合図と共に雅樹が走り出す。
次々と障害物をこなしていき、最後に『指令カード』を手に取った。
『指令カード』を開いた雅樹が驚いたような表情を見せる。
何だ?
何が書かれていたんだ?
雅樹はテーブルに置かれた小物をざっと見回した後、一直線にこちらに走って来た。
どうしたんだ?
ここにいる誰かが『指令カード』の条件に当てはまるのか?
雅樹は真っすぐに僕の所に来ると「ちょっと来て」と僕の手を引っ張った。
雅樹が見せてくれた『指令カード』には『金髪の男性』と書かれている。
小物の中には金髪のカツラなんてなかった。
つまり、この『指令カード』は明らかに僕を指している。
何故、こんなカードが用意されているんだ?
その理由がわからなかったが、今は競技をこなす方が先決だ。
二人三脚をするスタート地点に行くと、雅樹が僕と自分の足を結んだ。
自然と僕と雅樹の身体が密着する。
二人三脚するには身体をピッタリと密着させないとな。
僕は役得、とばかりに雅樹の背中に手を回して肩をグッと掴んだ。
少し華奢な雅樹の身体をすぐ近くに感じられて最高の気分だ。
雅樹は、といえば遠慮がちに僕の腰に手を回してくる。
ヤバい!
あまり身体を密着させていると自制が利かなくなりそうだ。
雅樹と二人でゴールを目指して走り出す。
途中でモタモタしている他の走者を抜いてゴールしたが、残念ながら2位だった。
僕はゴールするなり雅樹の肩から手を離すと、サッと足を繋いでいる紐を外す。
「ありがとう、助かったよ」
雅樹からのお礼に軽く手を上げると、僕は元の位置へと戻った。
だけど、この『指令カード』を女子生徒にも使うんじゃないだろうな。
そう思いながら競技役員を見ていると、雅樹が使ったカードを慌てて処分しているのが見えた。
どうやら何かの手違いで紛れ込んだようだ。
この後の走者に僕が駆り出される事が無くなりホッとした。
そしていよいよ最後の選抜リレーがやって来た。
僕と同じ組で走るのはやはり榊だった。
絶対にこいつだけには負けたくない。
密かにライバル心を燃やしていると、僕達の番がやって来た。
ほぼ同時に僕と潤也の手にバトンが渡る。
トラックを走っていると雅樹がいる所に差し掛かった。
「潤也! 頑張れ!」
予想はしていたが、雅樹の口から榊の名前が呼ばれて無性に悔しさが増す。
僕はありったけの力を込めて榊を抜いていく。
次の走者にバトンを渡して、チラリと雅樹の方を見ると、ちょっとあっけにとられたような顔をしている。
これが功を奏したのか、僕達のチームは1位でゴールした。
少しは僕の活躍を見せつけられたかな?
まあ、雅樹と二人三脚出来ただけでもいいか。
こうして無事に体育祭は終了したのだった。




