30 登校2(紫苑視点)
マンションを出て学校に向かって歩き出す。
雅樹はどのくらい距離を開けて来るつもりなのだろうか?
後ろを振り返って確かめたいけれど、振り返った途端に雅樹と目が合って気まずい思いはしたくない。
もどかしい思いを抱えながら歩いていると、前方に僕を待ち構えている女子生徒達の姿が見えた。
僕はこっそりとため息をつきながら、なるべく彼女達を視界に入れないように歩く。
「紫苑、おはよう」
「おはようございます」
「紫苑、おはよう。久しぶり!」
口々に僕に挨拶をしながら、僕の周りを取り囲むようにしてついてくる。
鬱陶しくてかなわないが、節度を持って接してくれているので良しとしよう。
「おはよう」
軽く一言だけ返事をすると、足も止めずに歩く。
ああ、こんな状態の僕を後ろから雅樹が見ているんだろうな。
チャラい奴だと思われているに違いない。
モヤモヤした思いを抱えていると、不意に後ろの方で「まさき!」と呼ぶ声が聞こえた。
これは『雅樹』の事だろうか?
それとも別の『まさき』の事か?
確かめたいけれど、振り返れない。
そのうちに学校の門が見えてきたところで、僕はさりげなく後ろを振り返った。
そこには雅樹と親しげに話をする男子生徒の姿があった。
彼は確か雅樹と同じクラスの榊とか言ったな。
時折、校内で雅樹と一緒にいるところを見かけた事がある。
あの頃は雅樹と名前で呼びあっているのが羨ましくて随分と悔しい思いをしていた。
榊に対して嫉妬心を抱いていたと言えるだろう。
今は雅樹も僕を名前で呼んでくれるし、何より一つ屋根の下で暮らしているんだからな。
ほんの少し優越感に浸りつつも、榊のように雅樹と打ち解けていない事に焦りを感じるのだった。
体育館での始業式も終わり、ゾロゾロと教室へと移動する。
前方に雅樹の姿が見える。
その背中を見ながら歩いていると、不意に雅樹の肩に後ろから手を回す奴がいた。
あれは、榊か?
堂々と人前で雅樹の肩に手を回しやがって!
少し歩調を早めて二人の会話が届く距離まで詰め寄る。
言葉の端々を捉えると、どうやらどこかで昼食を食べに行くようだ。
この辺りで高校生が寄ると言えば、ファストフード店か、商業施設のフードコートだろう。
うまいこと雅樹達と同じ店に行ければいいのだが……。
今日も僕と一緒に昼食を食べたいと言ってくる女子生徒がいるだろう。
そうなると、雅樹達と鉢合わせになる確率はぐんと下がる。
それはそれで仕方がないのだが、どこかで諦めきれない自分がいた。
僕はこっそりとため息をついて教室に戻った。




