20 借り物競争
体育祭当日。
昨今の異常気象により、競技は午前中で終わるようになっている。
一応、テントも設営されているが、それだけで太陽光を遮れるわけでもない。
『こまめに水分を取りましょう』
競技が切り替わる度に、アナウンスが校庭内に鳴り響く。
まあ、言われなくても飲むけどね。
体育祭の競技は紅白対抗となっている。
チーム分けは奇数のクラスが赤、偶数のクラスが白となる。
それにより、僕のクラスは赤チームで、紫苑のクラスは白チームとなる。
校庭を挟んで向こう側に紫苑がいるのだが、この距離からでも紫苑がどこにいるのかすぐにわかる。
勿論、紫苑の髪が金髪のせいもあるのだが、女子生徒に囲まれているのもその一因だ。
「ここはハーレムじゃないんだぞ」
そんな声が僕の耳に届くが、全くの同感だ。
それを本人に言ったところで、モテない者の僻みにしか聞こえない。
それに苦言を呈しようとしても、紫苑の顔を至近距離で見て何も言えずにスゴスゴと引き返していかざるを得ないようだ。
だが、一旦競技が始まると、応援に拍車がかかり、紫苑の事は気にしていられなくなった。
「次は『借り物競走』だな」
「ああ、行くか」
プログラムも滞りなく進み、『借り物競走』の時がやって来た。
途中の障害物をくぐり抜け、その先に伏せて置いてある『指令カード』に書かれている物を校庭内にいる人から借りてゴールを目指すというやつだ。
『指令カード』の中には人物の指定もあり、その場合は二人三脚をしてゴールをするようになっている。
この『指令カード』が曲者で、中には軽くコスプレをさせるという物もあった。
今年もそれがあるようで、『指令カード』の先に簡単な衣装やカツラがテーブルの上に置かれている。
なるべく簡単な物が当たりますように……。
そう心の中で祈りながら、順番を待つ。
そのうちに僕の順番がやって来た。
紫苑は僕の少し後ろで待機している。
スタートラインに並び、合図を待つ。
「位置について、ヨーイ」
パァン、とピストルの合図が鳴る。
一斉に飛び出してまずはネットくぐりだ。
その後、平均台を渡り、お尻で風船を割り、いよいよ『指令カード』へと手を伸ばした。
「…え?」
『指令カード』を捲った途端、僕はその文字に釘付けになる。
そこには『金髪の男性』と書かれていた。
『金髪の男性』って、今ここには紫苑しかいないじゃないか!
一体誰がこの『指令カード』を用意したかはわからないが、明らかに紫苑を指している事は一目瞭然だ。
現にテーブルの上の仮装用のカツラに金髪は用意されていない。
もしかして、女子生徒用に用意された物なのだろうか?
それが、何かの手違いでここに紛れ込んだのだろう。
だが、一度これを手にした以上、この指示に従うしかない。
『指令カード』は人数分しか用意されておらず、既に僕のグループのメンバーは全員カードを手にしている。
早くしないと最下位になってしまう。
僕は校庭を横切ると、紫苑のもとへと走った。
「ちょっと来て」
僕は有無を言わさず、紫苑の手を引いて立ち上がらせる。
紫苑は特に抵抗する事もなく、僕の後に付いてきた。
トラックに戻り、二人三脚をするために紫苑の足と僕の足を結ぶ。
紫苑の身体と僕の身体がピタリと密着する。
紫苑の腕が背中から回り、反対側の僕の肩をグッと掴んでくる。
あまりの密着ぶりに思わずドキドキとしてしまう。
僕は遠慮がちに紫苑の背中に手を回すと、「せーの」と声をかけて足を踏み出した。
途中で転ぶ事もなく、何とか2位でゴール出来た。
「…ありがとう、助かったよ」
紫苑に礼を言うと、紫苑は軽く手を上げて元の位置に戻って行く。
僕が紫苑を連れ出した辺りから、女子生徒の歓声が一気に大きくなった。
そりゃ、紫苑と二人三脚が出来るかもとなれば、その反応は当然だな。
だが、女子生徒の『借り物競走』にその指令カードが使われる事はなかった。




