18 考察
紫苑の冷えたような視線を受けて僕はちょっとたじろぐ。
今までこんな目で見られた事がなかったからだ。
だけど、こんな視線を向けられるような事をした覚えはない。自然と僕の声も尖ったような響きになる。
「何か用か?」
少しぶっきらぼうに尋ねると、紫苑は表情も変えずに僕を見下ろす。
「さっき一緒にいた奴は誰?」
予想外の問いかけに「え?」と声が出た。
何故そんな事を聞いてくるんだろうと思ったが、隠す事でもないので普通に答える。
「同じクラスの榊だけど、それがどうかしたか?」
「同じコップの水を飲むくらい仲が良いのか?」
紫苑が抑揚のない声で更に聞いてくる。
同じコップって、僕が間違えて潤也の水を飲んだ事を言っているんだろうか?
あれはたまたま僕が間違えただけで、最初から同じコップで飲もうと思ったわけじゃない。
大体回し飲みなんて誰でもやっている事じゃないか。
「中学校の時から知っているからね。紫苑だって友人同士で回し飲みくらいしてただろう?」
答えながら、どうしてそんな事を気にするんだろうと疑問を持つ。
もしかして潤也が『間接キス』と言ったのを聞いていたのだろうか?
別に潤也と付き合っているわけじゃないし、僕だって潤也から『間接キス』という言葉が出てくるとは思っていなかった。
小・中学生の頃はそんなのは気にした事はなかった。
『間接キス』という言葉が出てきただけ、恋愛関係に敏感になってきたということだろうか?
紫苑の質問の意図が掴めずに首を傾げていると、紫苑は軽く息を吐いた。
「もういい。邪魔したな」
クルリと踵を返すと紫苑は自分の部屋へと向かう。
残された僕は尚も首を傾げながら、扉を閉めた。
一体何だったんだろう?
女子生徒に囲まれて食事をしながら、僕と潤也の動向を気にしていたんだろうか?
ノロノロと部屋の中を移動してドスンと椅子に腰を下ろす。そんな僕にある考えが頭をよぎる。
まさか!?
紫苑は潤也の事が好きなんだろうか?
にわかには信じ難かったが、もしかしたらという思いも湧き上がる。
あれだけ女の子に囲まれているんだ。
女の子に嫌気がさして、男の子の方を好きになったと言われても納得出来る。
潤也ならスポーツマンで身長も紫苑に引けを取らないからな。
二人が並んだところを想像してみたが、いかにもお似合いの二人だと思えた。
だけど、潤也が『女より男が好き』だとは到底思えないな。
そうなると紫苑の片想いか?
それはちょっと可哀想だな。
だけど、潤也だって紫苑に迫られたら、簡単に籠絡しそうだな。
僕の脳内で潤也に迫る紫苑の姿が映像化される。
この間の僕みたいに紫苑に壁ドンされて追い詰められる潤也の姿が浮かぶ。
逃げ場を失った潤也の顔に紫苑の顔が徐々に近づいていく。
そこでいきなり紫苑の顔がアップで迫ってくる場面を思い出して僕は「うわっ!」と声を上げる。
何で急にあの時の紫苑の顔を思い出すんだ?
ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえながら、僕は頭の中の紫苑の顔を追い払った。




