16 間接キス?
見るともなしに紫苑達の様子が目に入る。
紫苑と女子生徒が三人、隣のテーブルに座る。
あらかじめ、誰が紫苑の隣に座るか決めていたようで、特に揉める事もなく席に着いた。
まあ、隣に座るよりは向かい側に座った方が紫苑の顔を見られるからな。
僕から斜め向かい側に紫苑の顔がある。
紫苑も僕がいる事に気づいているはずだが、特に何の反応も見せなかった。
勿論、僕からわざわざ爆弾を投げ込むような真似はしない。
お互いを無視し合う形で隣合って座っていた。
そこへ水の入ったコップを両手に持った潤也が戻ってくる。
潤也が座ったと同時に呼び出しベルが「ピピピッ」という音と共にブルブルと振動を始めた。
「じゃ、僕が取りに行くよ」
と、立ち上がったが、潤也は「俺も行くよ」と一緒に立ち上がった。
だが、二人一緒に席を離れたら、誰かに無人だと思われないだろうか?
フードコートはお昼時が近づいてきた事で徐々に人が増えてきていた。
そこへ、
「あれ? 榊じゃん」
隣に座る女子生徒の一人が潤也に気づいて声をかけてきた。
潤也はそれを渡りに船と捉えたようだ。
「わりぃ。ちょっとここ見といてくれるかな」
「コップがあるから大丈夫だと思うけど、いいよ」
あっさりと了承されて、僕と潤也は受け取り口へと向かう。
料理を受け取って席に戻ると、潤也は隣の席の女子生徒に「サンキュー」と声をかけた。
女子生徒はそれを軽く受け流して、紫苑達との話に興じている。
潤也はそれを見てヒョイと肩を竦めると、割り箸を割ってぶっかけうどんへと箸を突っ込んだ。
僕もうどんをかき混ぜて、口へと運ぶ。
「へえ、なかなか美味いじゃん。このうどんの冷たいのがまた良いよな」
どうやら潤也もぶっかけうどんを気に入ったらしい。
僕達が食べているうちに紫苑達も、次々と頼んだ料理を受け取りに席を立ったが、紫苑だけはずっと座ったままだった。
それに、会話をしているのは女子生徒だけで、紫苑が話に加わる事はない。
時折話を振られても、軽く頷くか首を振るかでほとんど言葉を発しなかった。
まるで、鑑賞用の置物にでもなったようだ。
だが、女子生徒達はそんな紫苑の態度に文句を言うでもなく、会話を続けている。
そのうちに女子生徒の一人が自分と紫苑の料理を持ってきた。
「ありがとう。ご馳走になるよ」
『ご馳走になる』!?
もしかして、紫苑はお昼を奢ってもらう事で、彼女達と食事をする事を同意したのだろうか?
なんてちゃっかりした奴だ!
僕はわけもわからずムシャクシャした気分で目の前にあったコップを掴んで水をガブ飲みした。
「あ、それ、俺の水…」
潤也が声をかけてきた時にはコップの水はカラになっていた。
「あ、ごめん。間違えた」
「いや、いいけどさ。俺が口を付けたところだったら間接キスになってたな」
そう言って潤也はケラケラと笑う。
その瞬間、紫苑の表情がスッと冷えた事には誰も気づいていなかった。




