15 フードコート
教室に戻ると、最後に須藤先生が入って来た。
「よし、ホームルームを始めるぞ。日直、号令」
ホームルームと授業の開始と終了の号令をかけるのは日直の仕事だ。
僕の方が開始の号令をかける。
「起立、礼」
今日は始業式のみで授業がないので、楽だな。
夏休みの宿題を提出したり、二学期の行事予定表の配布があったりしたが、特に問題もなく終わった。
「他は何もないな。じゃあ、これで終わろう」
須藤先生の言葉に今度は田中さんが号令をかける。
「起立、礼」
小学生なら、ここで「せんせい、さよーなら」と挨拶をするんだろうが、流石にそんな言葉は出てこない。
頭を上げた途端、カバンを持って教室を飛び出そうとする男子生徒に「事故のないように帰れよ!」と須藤先生の声が追いかける。
僕もカバンを持とうとしたところで、田中さんが僕の前に来た。
手には学級日誌が握られている。
田中さんが口を開くより先に牽制する。
「悪い。日誌は田中さんが書いてくれよ。僕より字が上手だろう?」
大体、ホームルームしか無かったから、そんなに書く事はないはずだ。
田中さんは僕の言葉を予想していたようで、軽く息を吐いて日誌を差し出してきた。
「じゃあ、せめて自分の名前くらいは書いてくれる?」
それくらいならお安い御用だ。
僕はカバンから筆箱を出すと、ペンを取り出して『日直』の欄に『高橋』と記入した。
田中さんはそれを受け取ると、自分の席に戻って行く。
「終わった?」
僕の席の近くまで来ていた潤也と連れ立って教室を出る。
昇降口に向かうと、帰ろうとする生徒達でごった返していた。
手早く上履きと靴を履き替えて、外に出る。
ジリジリと暑い日差しが照りつけてくる。
「それで? 何処に行く?」
潤也に問われてちょっと考え込む。
近くのファストフード店はいち早く埋まってしまいそうだ。
ちょっと歩くけれど、商業施設のフードコートの方が空いているかもしれない。
潤也にそれを告げると、
「そうだな。そっちにしようか」
と、同意してくれた。
なるべく日陰を選びながら、商業施設へと向かう。
途中でファストフード店が反対側に見えたが案の定、学生達で溢れかえっていた。
ようやく商業施設に着いた頃には汗だくになっていた。
「はぁー、生き返るー」
商業施設に入った途端、クーラーの冷気が汗だくの身体を包む。
そのままフードコートへと向かう。
同じ学校の生徒がチラホラと目についたが、そんなに多くはない。
そのうちにファストフード店から弾かれた者が流れてくるに違いない。
「何にする?」
潤也に聞かれて僕はフードコートの店舗に目を走らせた。
うどんにカレー、ハンバーガーなど、ありとあらゆる種類の店が並んでいる。
「まだ、暑いから冷たい物がいいかな」
「冷たい物って言ったら冷麺くらいか?」
潤也が指差したが、いまいち食指が動かない。
「それよりはぶっかけうどんの冷たいのがいいかな」
「ぶっかけうどん? そういや食べた事がないな。それにするか」
二人でうどん店に並ぶと、それぞれぶっかけうどんを注文した。
呼び出しベルを受け取ってテーブルへと座る。
「ちょっと水を持ってくるから待ってろ」
潤也は椅子にカバンを置くと、冷水コーナーへと向かった。
相変わらずフットワークの軽い奴だ。
待っていると、隣のテーブルに女の子の声が近づいてきた。
チラリと目をやると、女子生徒に囲まれた紫苑が隣のテーブルに着くところだった。




