12 登校
夏休みも終わり、今日から新学期が始まる。
母さんの再婚で引っ越しをしてから、わずか一週間しか経っていない。
引っ越した事で学校への登校ルートも変わった。
距離的には以前住んでいた家とほぼ同じくらいなので、家を出る時間はあまり変わらない。
問題は、紫苑と一緒に登校するかどうかだ。
もちろん、紫苑と一緒にいるところを同じ学校の連中には見られたくないので、別々に登校するつもりだ。
起きてパジャマから制服に着替えると、洗面所で顔を洗い、リビングに向かった。
既に紫苑が朝食を食べていた。
「あら、起きたの? あまり遅いから呼びに行こうかと思っていたのよ」
母さんがチラリとこちらを見て微笑んだ。
今、フライパンで焼いているのはお義父さんのための朝食だろう。
食パンを焼こうとしたが、「それ、持っていっていいわよ」と、既にお皿に寄せられたトーストを指差された。
「わかった」
トーストに手早くバターを塗ると、カップに牛乳を注いでテーブルに持って行く。
座ってトーストに齧りついたところで、紫苑が食べ終えた食器をキッチンへと下げていった。
「雅樹、早く食べないと置いていくぞ」
紫苑がキッチンから出てきてそう僕に声をかける。
え!?
一緒に登校する約束なんてしてないよね?
そう言い返そうとしたが、そこへニコニコとした笑顔の母さんが、お皿を持ってテーブルの方にやってきた。
マズい!
ここで『一緒に登校しない』とはとても言えない。
「待って。すぐ食べ終わるから」
僕は残っていたトーストを口に押し込むと、牛乳で流し込んだ。
食器をキッチンに持って行くと、ソファーの上に置いていたカバンを手に取る。
「二人とも、車に気をつけてね。紫苑、雅樹をよろしくね」
僕達を見送るために、母さんが後ろからついてくる。
僕達が玄関から出ると、カチャリと鍵の閉まる音が聞こえた。
エレベーターホールに向かいながら、僕は紫苑に問いただす。
「一緒に登校する約束なんてしてないよね」
少しキツい口調になったけれど、紫苑はヒョイと肩を竦めた。
「別々に出たら、お母さんは2回も鍵を閉めに玄関に行かなきゃいけないだろ? それなら1回で済む方が効率がいいじゃないか」
紫苑にそう指摘されて僕は返す言葉もない。
自分で鍵を出せばいいんだろうけれど、いちいち鍵を出し入れするのが面倒臭い。
エレベーターが上がってきて僕と紫苑はカゴに乗り込む。
途中で何度も止まっては、新たに人が乗り込んでくるが、僕達と同じ学校の生徒は見当たらなかった。
その事に安堵しつつ、一階でエレベーターを降りる。
「さて、どちらから先に行く?」
紫苑に聞かれて僕はちょっと考え込んだ。
うつむいた時に紫苑の長い足が目に入る。
僕が先に行った場合、コンパスの差ですぐに追いつかれそうだ。
ここはやはり紫苑に先に行ってもらおう。
「紫苑が先に行ってくれ」
「わかった。それじゃお先に」
紫苑はそう言ってマンションの玄関を出ていった。
その姿がガラス戸の向こうに消える。
その姿が見えなくなってようやく僕はマンションの外へと抜けた。




