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11 宿題

 机に向かって宿題を始めたのはいいが、徐々にペンを走らせるスピードが落ちてきた。

 うーん…。

 解けない…。

 さっきから数式とにらめっこをしているのだが、どうしても正解に辿り着かない。

 どこを間違えているのかもわからないので、全くのお手上げ状態だ。

 …紫苑に聞いてみるか?

 いや、待てよ。

 聞きにいっても『こんな問題もわからないのか?』ってバカにされたりはしないよね。

 口には出さなくても『これが解けないなんて…』って内心で呆れられたりしないよね。

 あれこれと思い悩んでいたが、ここで迷っていても始まらない。

 僕は意を決して宿題のテキストを持って立ち上がると紫苑の部屋に向かった。

 隣にある紫苑の部屋の扉をノックすると、「はい」と返事があった。

 すぐに扉を開けるのも躊躇われて、「紫苑、入るよ」と声をかけて扉を開いた。

 正面奥の机に向かっている紫苑が、こちらを向いて「何?」と聞いてくる。

「ちょっと宿題でわからない所があって…」

 言葉を濁すと紫苑は「まあ、入れよ」と僕に入室の許可をくれた。

「お邪魔します」

 初めて入る紫苑の部屋は僕よりも更に殺風景だった。

 紫苑が向かっている机の隣にはもう一つ机があって、パソコンのモニターが置かれていた。

 反対側の壁際にベッドと本棚が並べられている。

 壁にはカレンダーが貼ってあるだけで、ポスターの類は一枚もない。

 これでよく僕の『荷物が少ない』なんて言えたよな。

 紫苑だって僕とどっこいどっこいじゃないか。

 そう言って苦言を呈してやろうかと思ったが、勉強を教えて貰う前にへそを曲げられるわけにはいかない。

 僕はそのまま紫苑の机に向かった。

「この問題なんだけど、どうしても解けないんだよね。どこか間違っているのかな?」

 テキストを広げて紫苑の机の上に置く。

 その時、紫苑が見ていたテキストが目に入ったが、見たこともないような数式が並んでいた。

 思わず目を見張ったが、紫苑はそんな僕の態度には気づかずに、僕が置いたテキストに目を通している。

「ああ、これか。これは数式から間違ってるよ。これじゃなくてこっちの数式を当てはめるんだ」

 紫苑の説明を聞きながら、僕は紫苑の上からテキストを覗き込んだ。

 すると、紫苑からいい匂いが漂ってくる。

 …なんだろう。

 シャンプーの匂いかな?

 滅茶苦茶いい匂いがするんだけど…。

 間近で紫苑の匂いを嗅いで、僕の心拍数は上がりっぱなしだ。

 いけない!

 それよりも宿題に集中しないと。

 紫苑の説明はとてもわかりやすく、あっという間に問題が解けた。

「やった。ありがとう」

 テキストを回収しようとする僕に紫苑が囁く。

「一つ貸しにしといてやるよ」

 貸し?

 その言葉に僕はピタリと動きを止めた。

 驚いて横を向くと紫苑と目が合った。

「そのうちにまとめて返してもらうよ」

 そう言って紫苑はテキストを僕に渡してくる。

 まとめてって、一体何を要求してくるつもりなんだ。

 どう答えようか迷っていると、紫苑は僕に退室を促してくる。

「もういいだろ? 僕は勉強があるから出て行ってくれるかな?」

「…うん。ありがとう」

 僕はテキストを受け取るとそそくさと自室に戻った。

 僕の脳裏に紫苑のサラサラの金髪が焼き付いて離れない。

 まだ新生活は始まったばかりだというのに、こんな事でドキドキしていたら、この先生活なんてしていけないぞ。

 僕は頭からそれを追い払うと、宿題の続きをするために机に向かうのだった。



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