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第42話「続・飴チャレンジ」


 堀田(ほった)はきいろと向かい合い、赤い糸の飴をくわえ合った。


「2人とも、がんばって~!」


「きゃ~!!やばあ~!」


 楽しそうに見守る君野(きみの)と、興奮気味に両手で口を押さえる(あかね)


 男2人は、1本の骨を巡って噛み合うオオカミのようだった。


 先ほどの甘い時間はない。


「ぐぬぬ……!」


 空手の決勝なら、こいつにどう蹴りを入れる?


 ……言っただろ!


 俺たちは君野を救うために動く必要があるんだって!


 だが、向き合えば向き合うほど、むかっ腹が立つ。


 思わず飴へ歯が当たる。


 そのせいで、飴の表面が米粒ほど欠けてしまった。


「っ……!」


 ここで勝たなければ、俺は俺を正当化できない。


 堀田は前歯で固定していた糸を、舌でぐいぐいと奥歯の方へ送り、噛みやすい位置へ移動させようとする。


 その動きを、終始無表情で見ていたきいろは――


 次の瞬間、自分の額を堀田の額へ鈍器のように振り下ろした。


 ゴツン!!!


「っっだっっ!!」


 鈍い音が響き、堀田の口から、ほぼ糸だけになった飴が飛び出す。


 彼は痛みに悶絶し、そのまま後ろへ倒れた。


「悪いな。わざとじゃない」


「絶対わざとだろ!!!」


「鼻にかかったお前の息が不愉快。夏の蚊みたいに、“つい”潰しちまっただけ」


「痒くてかいちゃったってこと?」


 君野は首を傾げる。


 きいろはその頭を無言でわしゃわしゃと撫でると、近くのゴミ箱へ、もう味のしないガムのように糸を吐き捨てた。


 すると、ボリボリッと、きいろの口の中から硬い飴を噛み砕く音が聞こえる。


 堀田はその音に衝撃を受けた。


 なっ……!


 全然溶けてない……!


「くっ……!」


「ねえねえ!3人でゲームしよ!今日いっぱい人いるから!!」


 君野は興奮気味にゲーム機をテレビへ接続する。


 すると、きいろは真っ黒な布のカバンから何かを取り出した。


 それは、自分で買ったと思われる黒いコントローラーだった。


「え?お前、コントローラー持ってるのか?」


 堀田の言葉にも、彼は目を合わせず、カチャカチャとコントローラーをいじる。


「え!持ってきたの?確かに今気づいたけど、家には2個しかなかった」


 君野も、その用意周到さに驚く。


 家にあったもう1つのコントローラーは堀田へ渡った。


「お前、ゲームするのか?」


「ああ」


 堀田へ、きいろはぶっきらぼうに答えた。


 君野はお気に入りのゲームを選び、3人で遊べるパーティーゲームを起動した。


 しかし、その最中。


 重要なミニゲームになると、きいろはまだ手元がおぼつかない。


 難しい操作のゲームでは、真っ先に落ちてしまう。


 それでも怒ることはなく、ただ淡々とプレイを続けていた。


 最初は、その不器用さに「よし!」と思っていた堀田も、だんだんと慈愛の気持ちが勝ってくる。


 まるで、友達の幼い妹を気遣っているような気分だった。


「きいろくん、楽しい?ゲーム苦手?」


 同じように感じた君野がきいろに尋ねる。


 さっきからずっと最下位なのに、ちっとも表情を変えない彼が気がかりだったようだ。


「ああ。楽しい」


「ほんと?」


 不安げな君野の瞳が潤む。


 いつしか茜も、きいろの不慣れな操作に「右! 左!」と後ろから指示を出していた。


 君野もそれに加わり、きいろが簡単なゲームでゴールするだけで積極的に褒めるようになる。


「……」


 堀田は、3人がきいろを囲むその光景に、どこか疎外感を覚えた。


 ……ヤツの飴は溶けていなかった。


 その事実だけが、胸に残る。


「お」


 そのパーティーゲームで初めて、堀田はきいろとペアを組み、君野チームと戦うことになった。


 2人3脚でキャラがつながり、2人でボタンを協力して押さなければ前へ進めない。


 どちらのチームが先にゴールへたどり着けるかを競うミニゲームだ。


 このまま1位と2位を争う君野のことを考えれば、わざと負けるのもありだ。


 しかし、隣のきいろを見ると――


 最下位ながらも、画面とボタンを交互に見ながら必死に食らいついている。


 コイツ、勝ちたいのか?


 目の前のキャラクターは、堀田が正確にボタンを押しても進まない。


 きいろには、まだ難しい操作だ。


「ロナウド!頑張れ!」


 ギャル茜が後ろで応援している。


 一方、君野はさっきの妨害に引っかかり、ループにはまっていた。


「なあ、勘違いしてないか?ここにもボタンあるだろ」


 見かねた堀田が教える。


 すると、ようやく1歩前へ進んだ。


「A、B、Y+A……」


 堀田は声に出して伝える。


 きいろもブツブツとつぶやきながら、それに従ってボタンを押した。


 君野はその様子にクスッと笑う。


 ゴール手前で止まっていたことも忘れ、その様子を見守っていた。


「あ!」


 君野が慌てた、その瞬間――


 堀田ときいろチームが、先にゴールした。



「よし!!! やったな!!」


 堀田は右手を掲げ、握手を求めた。


 しかし、きいろは手を出さない。


「なんだよ。可愛くねえな、本当に」


「お前は胡椒だな」


「は?」


「クドいが味はある。だが、くしゃみが止まらなくなる」


「なんだよそれ!」


「喧嘩しないで!」


 ベッドの上の君野が呼びかける。


 すると、きいろは突然、君野の膝へ顔を乗せた。


「どうしたの?」


 君野は首を傾げる。


「……」


 無表情のまま、何かを求めているようだった。


「なんか、きいろくんって僕の近所で散歩してるおじさんのラブラドールレトリバーみたいだね!」


「それで、お前は何をしてる」


「撫でるよ。『いい子だね~』って」


「撫でろ」


「なんだと!!?」


 抜け駆けに反応した堀田は、反対側の膝へ顎を乗せた。


「君野!撫でろ!撫でまくれ!」


「うん、いいよ。2人ともよく頑張ったね!」


 君野はくしゃっと笑い、2人の頭を優しく撫でた。


 その光景の裏で、茜は異変に気づいていた。


「やば~い……」


 球節の右足を上げる。


 しかし、膝から下がついてこない。


 足が外れていた。


 シーツの上へ転がるそれを見つめ、茜は深刻な表情を浮かべる。


 だが、それを隠すように再び布団の下へ足をしまった。


「あ、これってえ、悲しいなのかなあ……」


 ツインテールを揺らしながら、3人を静かに見つめた。




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